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蠱毒の鬼 -シンギュラリティオブオーガ-  作者: 高美濃四間
第七章 教団決戦
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教祖

 そこは審脳の商業区の奥にある大教会。郷田により以前から極秘に補修されていたおかげで内装は光り輝いて見えるほどに綺麗だ。ステンドグラスから差し込む日の光のおかげでもあるが。

 外で銃声や爆発音が響く中、何列にも並んだ木製の会衆席に座り教徒たちが一心不乱に祈りを捧げていた。他にも多くの教徒たちがこの街にいるが、入りきらない者たちは周囲の建物を利用させて、同様に祈りを捧げるよう伝えていた。


「もう間もなく彼らが来るか」


 祭壇の奥の一室で腰を落ち着けていた郷田が呟いた。短めの黒髪、顎には白い髭を伸ばし、顔に深い皺が刻まれた初老の男だ。体型は平均的で、漆黒の祭服に身を包み近寄りがたい厳格な雰囲気を纏っていた。

 ダークブラウンのソファに深く腰掛けていた郷田の前で一人の神父がひざまずきこうべを垂れる。


「仰る通り、新型鬼穿は長野、群馬、福島から派遣されたムサシの戦闘員と交戦中です。しかし、こちらが優勢であり教会まで敵に侵入させる心配はないかと」


「ん? あぁ彼らは大丈夫だろう。問題はその後に迫る者たちだ」


「……教祖様には先が視えていらっしゃるのですね」


「まあな。ところで、傭兵たちには少年を連行するよう伝えてくれたか?」


「はい。詳細に特徴を伝え、可能であれば教祖様の元へ連れてくるよう指示しました」


 郷田は無表情で頷く。


「……彼は一体何者なのか。あの類まれなる身体能力に回復力、そしてなにより彼の目が見えないことが不思議だ」


「? 教祖様もその少年のことをご存知ではないのですか? ……いえ、過ぎたことを聞いてしまいました。申し訳ありません」


 郷田は、困惑の表情で顔を上げた神父を冷たい瞳で見下ろし黙らせた。


「ここはもういい。君も聖堂で教徒たちと共に祈りを捧げてきなさい」


 神父は頷くと顔を伏せて下がり退室した。

 郷田は微動だにせずゆっくり目を瞑る。


「もしかすると、かの少年が『最強の鬼』になりうるのかもしれない。さっさと彼の出自を突き止めなければ……」


 郷田は顔に皺を寄せ目を瞑り唸った。


 悠哉たちの班が新型鬼穿との交戦を開始した頃、彼らもまた戦場へたどり着いていた。郷田がいると推定される大教会の前、神妙な面持ちで佇む四人は飛鳥のメンバーだ。副主任で、平均的な体型に人の良さそうな顔立ちの中年男『はやし』。主務で、ガタイが良く人懐っこい性格の三十路男『白尾しろお』。同じく主務で、化粧っ気がなく内向的な性格の三十路女『古谷ふるや』。そして、歴戦の勇士を思わせる大男で、飛鳥の最高指揮官『成田清悟』。

 彼ら飛鳥は、新型鬼穿を討つ悠哉のチームと、郷田を捕らえる清悟のチームの二手に分かれていたのだ。


「三人とも、準備はいいか?」


「「はい」」


「はい……しかし、G長自ら戦場へ出られなくても良かったのでは?」


 林がここにきて疑問をぶつける。何人もの戦闘員が犠牲になっている以上、成田に危険が及ぶ可能性が高いと懸念しているのだ。だがそれは、清悟とて百も承知。


「今の私の役割は、部下たちが最大限の力を発揮できるよう露払いをすることだ。安全地帯で指揮するだけでなく、時には最前線で道を示す必要もある。これから対峙するのが、いち組織のおさである以上、私が出なくてはならないんだ」


「申し訳ありません。不要な心配でした」


 清悟は頷くと、教会の扉を開けるよう白尾へ指示した。

 ゆっくりと扉が開き、四人は緊張に身を委ねながら聖堂へと踏み込んだ。


「G長、これは……」


 古谷が目を丸くして辺りを見回している。目の前の広い聖堂にはぎっしりと木製の会衆席が並べられ、百を超える教徒たちが祈りを捧げていた。

 清悟は彼らに見向きもせず、中央の通りを堂々と歩いていく。


「教徒たちには目もくれるな。神父に郷田の居場所を聞き出す」


 清悟は祭壇の前に立っていた神父へ鋭い瞳を向ける。痩せ細った神父は頬を引きつらせ後ずさった。しかしすぐに、神父の背後から漆黒の祭服を着た男が現れ、その肩に手を置いた。


「ここは任せなさい。君には教徒たちの避難誘導を任せる」


 神父は頷くと、大声で教徒たちへ逃げるよう呼びかけ始めた。波を立てるようにざわめきが広がり、教徒たちは恐怖に顔を歪めながら一斉に動き出す。林たちはその混乱に右往左往するが、清悟はただ静かに郷田と対峙していた。


「あなたが郷田敦彦か」


「いかにも。そういう君は成田清悟だね?」


 郷田は穏やかかな面持ちで答える。二人の会話が耳に入っていた飛鳥の三人が清悟の横に並ぶ。すぐに教徒たちは外へ逃げ、聖堂には静寂が訪れた。


「やはり、こちらの情報は筒抜けか。先日の演説もやはり、我々に対抗するためだったということで間違いないな?」


「うむ、認めよう。ムサシは私を捕まえるために随分と周到な用意をしていたからな。早く動かないと危ないと思ったんだ」


 郷田は不敵な笑みを浮かべ、この状況に動じた素振りをみせない。この状況も彼の思惑通りである可能性すらある。清悟は眼光を強め、チラリと林たちを横目に見てから郷田へ問うた。


「周到な用意? なんのことだ?」


「隣接している県よりも遠方からの援軍、新型鬼穿の一部のみを量産して飛鳥の鬼穿を改良、そして内通者の洗い出しだ。このどれか一つでも成功されると痛いのでね。しかし意外だったのは、これらの準備を無駄にしてでも飛鳥が出てきたことだ」


 飛鳥のメンバーですら知らされていない情報があり、清悟以外の三人とも絶句していた。清悟も冷や汗を流す。


「グ、G長……郷田の言ったことはデタラメ、ですよね?」


「全て事実だ」


「そ、そんな……」


 清悟は険しい表情で一歩前に出る。対して郷田は愉快そうに薄ら笑いを浮かべていた。


「あなたは一体何者だ。なぜ、そこまでムサシの内情を知っている? ここまでの手際の良さと、情報収集力は内通者の存在だけでは説明できない」


「ほぅ、つまりなにかね? 私が人智を超えた能力でも持っていると?」


 郷田は肩を震わせ狂ったように笑いだした。清悟も林も眉をしかめ郷田を睨みつける。そして彼は答えた。


「――その通りだ」

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