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蠱毒の鬼 -シンギュラリティオブオーガ-  作者: 高美濃四間
第七章 教団決戦
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ムサシの総力

「血の気が多いですねぇ。もし断った場合は始末していいと言われているので、勘違いなきようお願いしますね。では、次で最後です。僕らと共に来てください」


 水流は抑揚のない声で告げ、逆手に持った剣を蒼の喉元へ。黒賀はガトリングを蒼へ向けたまま。織部は蒼の頭上に鉄球をホバリングさせる。

 ここで断れば確実に命はない。蒼の脳裏に愛しき人たちの顔が蘇る。


 ここで死ねば、美佐代へ親不孝をしてしまうことになる。

 ここで死ねば、師匠から受け継いだ技術が失われてしまう。

 ここで死ねば、五班の仲間たちの勇姿を語り継げなくなる。

 ここで死ねば――全てが終わりだ。


 蒼は顔を悔しげに歪めながらも、意を決して叫んだ。


「――お前らに屈することは、死んだことと同じだ!」


 一瞬の静寂。

 水流は目を見開き表情を消す。無慈悲にも蒼の首を刎ねようと刃が動き出した。

 蒼の首が飛ぶ。その刹那、蒼は水流の手首を掴んだ。刃は蒼の首の皮一枚を裂いただけで止まり、それ以上進まない。


「っ!? なんて握力だ!」


「水流! 早くおどきなさい!」


 蒼は水流の手を離さない。それが狙いだった。彼と密着している限り黒賀も織部も手を出せないと踏んだのだ。

 しかし水流は不敵に笑う。


「僕を甘く見ないでください」


 突如、阿修羅の右バーニアが噴射を始め水流が回転を始める。


「ぐっ」


 蒼はその遠心力に耐え切れず、思わず手を離してしまい――


「今度こそゲームオーバーです」


「っ!」


 水流が後ろへ跳び退き、ガトリングの照準が再び蒼へ合わせられる。上空には鉄球があり跳べず、地上は阿修羅と大蛇に支配されている。今度こそ絶体絶命だ。


「それでは、サヨナラ」


――バシュゥゥゥゥゥンッ!


 ガトリングが放たれる刹那、黒賀の後方上空から一つの人影が飛来した。


「んなっ!?」


 黒賀は攻撃を諦め即座に後退し、その一撃を避ける。しかし男は止まらず、蒼と水流の間に割って入るように着地した。男は着地と同時に厳かに呟く。


「……撃て」


 同時に複数の銃声が鳴り響く。


「ちっ!」


「なんだい!?」


 黒賀はその場から離れ、織部は鉄球を寄せ銃弾を防ぐ。


「一体何者ですか? あなたは」


 ここにきて初めて不快そうに眉をしかめた水流。彼はその場から動かず、目の前に降り立った男を睨みつけている。

 男はゆっくりと立ち上がり、手に持っていた日本刀を肩に乗せ告げた。


「特別対策グループ飛鳥・主任『内村悠哉』だ」


「飛鳥ですって!? ちぃっ!」


 水流は目を見開いた直後、無造作にバーニアを噴射し悠哉へ肉薄した。


「総員、新型を撃破せよ。壊しても構わん」


 悠哉はインカムで部下たちへ指示を出しつつ、日本刀を振るう。


「なぜ、飛鳥がここに!?」


「なぜ? そんなこと決まっているだろう。飛鳥がムサシの総力だからだ!」


 水流は普段の何倍ものスピードへ剣を振るう。その表情に余裕はない。悠哉が全ての太刀筋を難なく受け流しているからだ。

 水流が体勢を立て直そうとブーツの噴射で後退する。悠哉は間髪入れず追撃しようと踏み込むが、水流の首下と腹にある二本の隠しアームが悠哉の左から迫った。

 しかし、


「バカな……」


 悠哉は刀を即座に左へ立て防いでいた。それで終わりではない。すぐさまバーニアを噴射し、さらに加速する寸前、右足を捻りブーツの後方噴射を足すことで、瞬間的に稲妻の如き速度へ達した。


「この至近距離で加速噴射だと!?」


 水流が慌てて二刀を振るうが、悠哉は既に後ろに立っていた。


「遅いんだよ」


 悠哉がそう呟くと、水流は吐血し音もなく崩れ落ちた。

 悠哉はたわいもないとでも言うように日本刀を腰の鞘へ納める。鞘はバーニアに連結されており、その鬼穿は指揮官用のもの。


「す、凄い……」


 圧倒的だった。

 これが飛鳥。ムサシの総力とまで言われる本部最高戦力。

 蒼はただただ圧倒されるしかなかった。

 

 一方、黒賀は狂ったように笑いながらガトリングを連射していた。


「おらおらぁ!」


 ――ドドドドドドドドドドドドドッ!


 野太くけたたましい銃声が響くが、飛鳥の戦闘員たちには掠りもしない。彼ら飛鳥の使う鬼穿は全てが指揮官用と同等の性能を持つバーニアだった。今、黒賀を囲んでいるのは熟練の手練れが二人と最年少の清河だ。

 彼らは冷静に攻撃を避けながら、無駄のない動きで飛び回っている。


「今だ清河!」


「了解!」


 徐々に二人から距離をとっていた清河が急降下する。


「なんだぁ? 逃がさねぇぞ!」


 清河を追いかけガトリングを掃射する黒賀だが、命中する前に清河は川へ飛び込んだ。


「なに? あいつはバカか」


 目を丸くしている黒賀だったが上空から銃声が響き、バーニアを前面噴射し後退。銃口を残る二人へ向けた。

 二人は大きく散開し、瞬発噴射と対地噴射を駆使して銃撃戦を演じる。


「はっ! 機動力も火力も劣るお前らじゃあ俺に勝てねぇよ!」


 遂にガトリングが飛鳥の一人を捉え、そのバーニアへ命中させた。


「ちぃっ!」


葉鳥はとりぃ!」


 叫んだ戦闘員は、コントロールを失い墜落していく味方を狙い撃ちされないよう、黒賀へ突貫をしかける。


「あぁ?」


 ――ドドドドドドドドドドッ!


 しかし手も足も出せないまま後退を余儀なくされた。


「ダメか!?」


「おらおら! てめぇからハチの巣だ!」


 背を向けまっすぐ逃げる戦闘員を追い、黒賀もまっすぐ加速した。

 そしてガトリングの照準を戦闘員の背に合わせた、次の瞬間――


 ――ダダダダダダダダダンッ!


「ぐっ、がはぁっ!」


 黒賀の通りかかった路地の影から無数の弾丸が襲い掛かった。黒賀は鬼穿のコントロールを失い、血をまき散らしながら目の前の電柱へ激突する。


「……く、くそがぁっ!」


 額から血を流した黒賀は、憤怒に顔を歪め頭上へ叫ぶ。その視線の先には、ホバリングする二人の飛鳥戦闘員の姿があった。一人は後退していたはずの男、もう一人は川へ落ちたはずの清河だった。


「てめぇかぁぁぁ!」


 黒賀がガトリングを上へ向けようとするも、彼らの銃撃の方が速かった――


『うわあぁぁぁぁぁっ!』


「黒賀!? おいどうしたんだい!? 応答しな!」


 織部がインカムへ必死の形相で呼びかけるが、返ってくるのは沈黙のみ。


「ふざけんじゃないよ」


 織部は額に青筋を浮かべ、鉄球を振り回す。飛鳥の戦闘員三人は鉄球と織部から十分な距離をとり、飛び回っていた。


「いいか? 無理をして近づこうとするな。長期戦になるほどこちらが有利になる」


「「了解!」」


「あんたらそれでも男かい。小賢しいんだよ」


 戦いは硬直していた。織部の攻撃が当たらない以上、飛鳥側に被害はなく飛鳥の銃撃も織部は難なく避け続ける。


 ――ダダダダダ! ダダダダダ!


 そして、黒賀と戦っていた戦闘員たちも加わり、織部は周囲を囲まれていた。逃げ場がない。


「ちぃ!」


 織部は悔しさに顔を歪め、鉄球を振り回し周囲の建物を手あたり次第に破壊していく。

 ただの苦し紛れに見えたが――


「なに!? 彼女はどこだ!?」


 織部の周辺は瓦礫と砂塵が舞い上がり、その姿を覆い隠していた。


「仕方ない。ここは退くとするよ」


 粉塵の中、織部は退路とは逆方向へ鉄球を放つ。破壊音に飛鳥を引き付けるためだ。そして逃げようと踵を返したそのとき、


「さすがは突破力の鬼童か」


 落ち着いた声に反応し再び前方を振り向くと、悠哉が佇んでいた。


「わざわざ殺されるために来たのかい? お姉さん張り切っちゃうよぉ!」


 織部は鉄球をバック噴射し、悠哉の背後から急速に引き戻す。悠哉は左右に避けることはせず、バーニア全開でまっすぐ織部へ向かった。


「なんだい? あんたそんなに死にたいのかい!」


 織部は腰からムチをとり悠哉が間合いに入った瞬間、彼の刀を絡めとる。武器を失った悠哉はしかし、冷静に対地噴射へ切り替えた。そして飛び上がる直前、


 ――シュッ!


 白い閃光が走った。


「っ!」


 悠哉の放ったナイフは、操作器を持つ織部の手の甲へ刺さり、その手から操作器を落とさせる。

 悠哉は真上に飛び間一髪で背後から迫る鉄球から逃れた。

 しかし、織部は鉄球から逃れることはできず、操作器を拾う暇もなく――


「ぐぎゃっ」


 鮮血の華を咲かせたのだった。

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