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蠱毒の鬼 -シンギュラリティオブオーガ-  作者: 高美濃四間
第七章 教団決戦
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蹂躙されるムサシ

 蒼は一人戦場へ向かっていた。置き捨てられた車が散乱する道路の上空を通り、向かいの商業区へ。


「まただ。俺はまた大切な仲間たちを……」


 蒼の心は今、技術五班の皆と過ごした日々で埋め尽くされていた。いつも気だるげに千里をからかっては場を和ませていた湯芽林、涼しい顔で湯芽林の痛いところを突きバランスをとる竜道、二次元が大好きで鼻の下を伸ばしては千里に冷たい視線を向けられていたアンドレ、そして姉のようにいつも蒼のことを気遣っていた千里。彼ら四人が一堂に会することはもう二度とない。


(俺がやらなきゃいけないんだ。教団だろうと獣鬼だろうと俺が――)


 そうこう考えている間に戦場へ到着した。蒼は近くの飲食店の屋根に着地し、戦況を見回す。


「なんだ、これ……」


 数十人の歩兵の死体が至る所に投げ出され、三機の鬼穿を前に蹂躙されていた。もはや戦いになっていない。それに鬼穿の数も少なすぎる。四班八班を除いてもあと二十機はあるはずなのに、どう見ても五、六機しかいない。蒼は竜道の指揮官通信用インカムを付けてくるべきだったと後悔した。

 蒼は負傷して物陰に隠れている戦闘員を見つけ、その横へ降りる。


「遅れて申し訳ありません。長野技術課・運用五班の伊黒蒼です」


「鬼穿操作者か!? 何人残っている!?」


 中年の男は血の滲んでいる脇腹を押さえながら表情を輝かせた。蒼は『何人残っている』という問いに違和感を覚えた。本来、新型鬼穿や郷田と遭遇するまで戦闘は想定されていないはず。


「申し訳ありません。四班、五班は移動中、五班長の竜道勇人が寝返り七名中、竜道含め五名が戦死しました。一名は負傷し後退、この場に辿り着いたのは自分だけです」


「そうだったか……いや、よく来てくれた」


 蒼は報告しながら悔しさに拳を握りしめていた。なんという体たらくだろうか。しかし、中年の戦闘員は想定の範囲内だとでも言うように肩を落としただけだった。

 もう少しショックを受けてもいいように思うが、それだけ大変な状況ということだろうか。


「戦況を教えて頂いても? 交戦中の鬼穿が少ないように思いますが、まだ到着していないグループがあるのですか?」


「いや、今いるので全てだ。他はお前らと同じで、移動中にメンバーが寝返りやられたそうだよ」


「そんな!?」


「残った奴らと俺ら新潟勢数十人で立ち向かっちゃいるが、手も足も出てない。せめてほんの数人でも教会へ向かおうと突貫したが、誰一人突破できなかった。山形の鬼穿運用班は準備ができ次第向かうって話だったが一向に来ないし、このままじゃ全滅だ」


「くっ、俺がやります!」


 蒼は急いで飛び上がる。真っ先に目に入ったのは大蛇だった。大型バーニアとブーツで縦横無尽に地走しながらガトリングを乱射している。周囲を飛び回る鬼穿使いたちは上手く立ち回れず避けるだけで精一杯だ。

 蒼は黒賀がこちらに背を向けたその瞬間を狙い、バーニアを噴かす。


「――あら? 坊やじゃない。また遊んであげるよ」


「っ!」


 先に路地裏へ潜んでいた織部に見つかった。鉄球が真後ろから迫る。ブーツを右へ噴射し回避するが、トゲが腰バーニアへ掠りバランスを崩した。そのまま建物の屋根へ不時着し、ゴロゴロと転がる。急いで立ち上がると、


「新しい獲物ですか?」


 既に前方から水流が阿修羅のバーニアを全開にして迫っていた。蒼はブーツを前面へ噴射して後退し、屋根の上から地面へと身を投げた。


「へえ、いい動きだ」


「お前ぇ! 俺らを無視するな!」


「背後から切り刻んでやるぜ!」


 水流の背後から二人の鬼穿使いが迫る。

 しかし、水流はすぐにバーニアの噴射を右側のみにし旋回した。


「無視したんじゃありませんよ、誘導したんです。おバカさんたち」


「「っ!」」


 まるで砲弾だった。水流は両バーニア、両ブーツの後方噴射を同時に行い瞬時に戦闘員へと突貫した。その一瞬で一人の首を刎ねる。


「く、くそぉ!」


 残った一人は体勢を整えようと目の前の建物の屋根に着地するが、その頭上を丸い影が覆っていた。


「だから、誘導したって彼が言っただろぅ?」


 彼は鉄球に押しつぶされ、織部の甲高い笑い声が響く。

一瞬で二人の鬼穿使いが倒され圧倒的な力の差を見せつけられるが、蒼はそれどころではなかった。その憎悪の眼差しは水流へ向けられ、


「お前だけは……湯芽林さんを殺したお前だけは!」


 蒼は対地噴射で飛び上がる。


「ん?」


 残存歩兵に斬りかかっていた水流が振り向く。彼は急接近する蒼を見て目を見開いた。


「水平飛行!?」


 頭に血の上っていた蒼に自覚はなかったが、彼は体を地面と水平に保ち、対地噴射によって前進していた。対地噴射は背面噴射に比べて体を浮かせるため、最大出力が高い。つまりこの移動方法が理論上最も速いのだ。しかしバランスをとるのが難しく、水流も見るのが初めてだった。


「よくも湯芽林さんを!」


 蒼は高速の斬撃を水流へ叩きこむ。同時に噴射を切り足を地へつける。

 左の剣で受け止めた水流は感心したように口の端を緩めた。


「とんでもない技術ですねぇ。では、これでどうですか!?」


 蒼はすぐさま足を捻り瞬発噴射で緊急後退する。体のスレスレを白刃が裂いた。阿修羅の隠しアームが稼働したのだ。刃はすぐアームの奥へ引っ込み、水流の背中へ巻き付く。


「一体どんな反射神経をしているんですか……それに、相当な実力者の指導を受けたと見える」


「師匠は、俺が知る最強の鬼穿使いだ」


「それはそれは。しかし、もうゲームオーバーですよ」


 水流のニヤけ顔を切り刻もうと蒼は構えるが、その左右の屋根の上に黒賀と織部が降り立った。黒賀がしかめ面でガトリングを蒼へ向ける。


(囲まれた!? まさか、皆やられたのか?)


 蒼の額に冷や汗が流れる。絶体絶命だ。


「なにしてんだ? さっさと殺しちまおうぜ水流」


「まあ待ってくださいよ黒賀さん。彼はどうやら、教祖様の客人のようです」


「なに?」


「なるほどねぇ。茶髪で童顔、銃を好まず鬼穿捌きは一流、しかしまだまだあか抜けていない少年。この子で間違いないわ」


 織部が舌なめずりをし三日月のような歪んだ笑みを浮かべる。


「その通り。あなたが伊黒蒼くんですね? 教祖様があなたをもてなしたいと仰っています。私たちと共に来てください」


 水流が微笑みながら蒼へと歩み寄り手を差し出した。

 もちろん、蒼には意味が分からなかった。なぜ教祖が蒼のことを知っているのか、なぜ蒼を引きずり込もうとしているのか。だが、蒼が今すべきことは一つ。


「ふざけるな!」


 蒼は剣を振るう。水流は表情を変えず手を引っ込めた。刃が水流へと届くかに思われたが――


 キィィィン!


 水流の首の下の位置にあった隠しアームが稼働し弾かれた。


「あら危ない」


 そして宙を舞った剣は織部のムチに絡めとられ蒼は丸腰になる。


「くそっ……」

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