竜道の想い
「俺の父親は元々体が弱かった。しかし災害以降、ムサシに戦うことを強要され戦場に立った結果、戦死した。そのとき俺は憎んだんだ、獣鬼を。だが、本当の敵は奴らではなかった」
「本当の敵?」
「ああ。次は弟の番だった。彼も争いなんて大嫌いで頭が良かったんだ。だがムサシで武装補修課に志願したばかりに、周囲から『若いくせに逃げるのか』などと非難され遂には心が……そのとき、俺はようやく気付いたんだ。人を追い込んでいる本当の敵は、戦いをやめることのできない一部の人間なのだとな。今では母も弟も妹も教徒だ。だから俺は、家族を守るためお前を討つ!」
竜道は地を蹴り蒼へと剣を振るう。蒼は間一髪ブーツを前面へ噴射し緊急回避。流れるような連続操作で宙へと飛び上がった。竜道もすぐに飛び上がる。
「元から家族のいないお前には分からんだろうがな!」
「くっ……」
蒼は複雑そうに頬を歪め応戦した。
激しい剣閃が宙を走る。
魂を削る金属音が響き渡る。
竜道は剣を叩きつけ、蒼はナイフで受け止めた。カウンターで剣を払っても竜道は緊急回避を成功させ、鬼穿の燃料ばかりがいたずらに減っていく。
「このぉぉぉ!」
「はぁっ!」
竜道がブーツで後ろへ下がると同時に銃を蒼へ向ける。蒼は急旋回で反対のビルへと向き飛び出した。背中から無数の銃弾が迫るが水平噴射で上手くジグザグに回避していく。
「それでも俺は!」
勢いを落とさずビルへと突撃する蒼。ぶつかる間際、足の裏で壁を蹴り同時に噴射角を真下へ。
「なに!?」
ビルの壁を使って宙返りを成功させた。竜道の上空を逆さまに飛ぶ蒼は、すかさず両方の腰からナイフを抜き竜道へ投擲した。
片方はマシンガンを持つ右手へ、もう片方は左脇腹へ直撃する。
「ちぃ!」
竜道は前進してビルの壁を蹴り方向転換、真下へと降り立った。蒼もその前方に降り立つ。蒼はアンドレや千里の顔を思い浮かべ竜道をまっすぐ見据える。
「確かに、今のムサシのやり方は間違っています。ただ、自らの意志で戦場に立ち大切ななにかを守るために、戦っている人たちもいるんです。そんな人たちの想いを踏みにじるなんて断じて許せない!」
「……成長したな蒼。なら、お前の意志はどこにある」
「俺だって大切な仲間、大好きな街を守るために戦っているんだ!」
蒼は剣を握りしめ駆け出す。感心したように目を細めていた竜道も腰を落とし剣を構える。
お互い鬼穿を使わず斬り合う。純粋な技術では竜道の方が上だが、蒼には常人離れした膂力がある。
「俺が竜道さんの願いを継ぎます。心優しい人たちが戦わないで済む、そんな世界を俺が!」
蒼が力一杯剣を横へ薙ぐ。竜道はその威力によろめき追撃を喰らうまえに跳び退いた。
「バカ言うな! そんなこと、ムサシと獣鬼がいる限り不可能だ!」
竜道はナイフをとり、大振りで隙の出来た蒼の胸へ投擲する。
蒼は体を捻り手の甲でそれを受け止めた。刃は掌へ貫通し剣を落としてしまう。だが蒼は怯まない。
「獣鬼の脅威を完全に排除します」
竜道は蒼の隙を狙い、剣の切っ先をまっすぐ蒼の胸へ向け、地を蹴った。
この一撃で決着をつけるつもりだ。
「お前みたいな若造にできるわけ――」
「――俺ならできるんだぁぁぁっ!!」
「っ!」
決着は一瞬だった。
時が止まったかのようだった。二人はピクリとも動かない。
ポタポタとお互いの体から血がしたたり落ちる。
「……じゃあさ、やってみなよ」
その言葉を最後に、竜道は崩れ落ちた。
最後の一瞬、竜道の切っ先が胸から逸れた。蒼は上体を屈めることで竜道の刃は左肩へ刺さり、蒼は手の甲に刺さっていたナイフを抜いて竜道の胸に刺したのだ。
「必ず、果たしてみせますよ」
蒼は勝利とは無縁の虚しさを胸に、竜道の遺体へ背を向けた。
蒼が千里の元へ戻ろうとビルの方を向くと、彼女が飲食店の塀に寄りかかりのっそりと歩いていた。その表情は険しく辛そうだ。
「千里さん!」
蒼は慌てて駆け寄るが千里は顔を上げ、手で制した。蒼は彼女の目の前で立ち止まる。
「竜道さんを倒したのね」
「はい。竜道さんは仲間を殺し敵となりましたが、彼なりの目的が……」
「分かっているわ。人は皆、違った信念を持っているもの。時にはその手段が交差することだってある。だからあなたは、自分を信じて前へ進んで」
千里が強い眼差しを向け、手に持っていたものを差し出す。震える手にあったそれは千里の鬼穿だった。
「ま、待って下さい! これを持って行ったら千里さんが――」
そのとき、すぐ近くで銃声が響いた。ガトリングの銃声だ。蒼が音のした方角を見ると、巨大な鉄球が宙を飛んでいた。
「あれはっ!?」
「もう、始まっているようね」
戦場はすぐそこだった。大通りを渡って向かいにある商業地区だ。他のグループが到着して傭兵たちと交戦になったのだろう。
「なおさらここは危険です。千里さんはここから逃げてください」
蒼が必死に千里へ詰め寄ると、千里は困ったように力なく笑った。
「分かったわよ。四班の誰かの鬼穿を使って離脱するわ。だからあなたはこれを使って。本当は逃げてほしいところだけど、行くんでしょう? それなら万全の装備で行きなさい。絶対に死なないで」
「千里さんもすぐに治療を受けてください。おそらく、市街地の外れにはまだ社用車が止まっているはずです」
蒼が鬼穿を受け取る。千里は表情を変えず微笑を貼り付けたまま頷いた。
蒼は装備を整えると最後に千里へ一言、
「すぐに戻ってきます」
と告げ、飛び立った。
「……行って、らっしゃい……」
千里はその言葉を最後に、瞳の輝きを失い崩れ落ちた。




