分かたれた絆
「アンドレさぁぁぁぁぁん!」
爆音と爆風が蒼へと叩きつけられる。蒼は噴射角を対地噴射へ変え体勢を崩しながらもなんとかその場で踏みとどまった。吹き荒れる暴風から顔を庇うようにして巻いていた手を下げ、爆心地を見る。
「アン、ドレさん……なんでこんなことを……」
紛れもない鬼穿の自爆だ。広がる灰色の煙と炎が半径十メートルほど広がっている。これではアンドレも竜道も粉々だろう。
蒼は歯を食いしばり目を逸らした。
――バシュゥゥゥンッ!
「蒼くん、逃げて!」
バーニアの噴射音が前方から聞こえたと同時に千里が叫んだ。蒼が視線を戻すと、爆風の中から飛び出す竜道の姿があった。
「な、なんで!?」
蒼が慌てて腰のマシンガンを抜き竜道へ向けるが、引き金を引くより先に投擲された竜道のナイフがマシンガンを弾き飛ばした。竜道はそのまま全速力で蒼へと迫る。蒼はその圧倒的なスピードに対応しきれず、
「死ね」
竜道の剣が左肩から迫る。
そのとき、蒼の体が左横から押され突き飛ばされた。突き飛ばされる刹那、蒼の目に映ったのは、千里の背中へ鋭い刃が迫っているところだった。
「――うっ!」
「千里さん!」
蒼がブーツとバーニアを使い、急いで体勢を立て直す。前方を見ると千里が背中から血を流し、墜落していく。そして、竜道はトドメとばかりに銃の照準を千里へ合わせようとしていた。
「やめろぉ!」
蒼はバーニアを噴射し全速力で千里へと向かう。
ダダダダダダダッ! ダダダダダダダッ!
蒼は間一髪千里を右腕で抱きかかえると、推力走行で銃撃を避けながら走り抜ける。左右へ水平移動しなんとか避け続け、比較的大きい中層ビルの裏手へ隠れた。
千里を地面へ寝かしその体を揺さぶる。彼女の背には血が広がっており、蒼の手も血まみれだ。
「千里さん! しっかりしてください!」
「良かった。無事、だったのね……」
千里は力なく瞼を開けると微笑む。蒼は目に涙を浮かべ声を震わせた。
「なんで俺をかばったりなんか」
「言ったでしょ? あなたは私が守るって……うっ」
千里が痛みに顔をしかめる。そして荒い呼吸を繰り返しながら、上体を起こそうとする。
「あなたは逃げなさい。ここは私が食い止めるわ」
「なに言ってるんですか!? 傷が深いんです。動かないでください!」
蒼が慌てて叫ぶ。それでも千里は、額に脂汗を浮かべながらも立ち上がろうと地に手を着く。
「まだ、戦え――」
次の瞬間、ガクンと腕の力が抜け千里は顔から倒れ込む。危ういところで蒼が抱き止めた。
「あなたの方が俺より何倍も頑固ですよ。今は休んでいてください。次は俺があなたを守る番ですから」
「ふふっ……いつの間に、こんなにたくましく……なったのかしら……」
千里は微笑を浮かべ静かに目を閉じた。蒼は千里をゆっくり優しく地面へ寝かせると、立ち上がった。瞳に闘志を秘め。
蒼は地を思いきり蹴り跳び上がる。蹴られた地面は衝撃でひび割れていた。蒼は高く跳躍した後、ビルの壁へ足をつけバーニアを噴射しながら屋上まで駆け上がる。
到達した屋上の端から下を見下ろすと、竜道が静かに辺りを見回していた。蒼の居場所についてはまだ気付いていないようだ。蒼は屋上から飛び降り、バーニアで落下速度を加速させ急降下する。竜道も上空の噴射音に気付き顔を上げた。
「うおぉぉぉぉぉ!」
右から剣を振り下ろす蒼。左の剣で受け止める竜道。蒼の勢いの方が強く竜道は地面へと押し戻されていく。竜道とてただやられているわけもなく、腰のナイフを抜き蒼の無防備な左脇腹へ突き立てた。ナイフはズブリと蒼の脇腹へ食い込んでいく。
「ぐぅっ!」
蒼は急いで左腰の操作器から手を離し、竜道の左手首を掴んだ。刃を脇腹から抜こうと力を込める。
「ちぃっ!」
竜道は一瞬顔を歪めると、左足を引き蒼を横から蹴り飛ばした。
「ぐぅぅぅ」
蒼は地面すれすれでブーツを断続的に噴射、なんとか着地する。左手で押さえた脇腹からは血が流れ出している。しかし傷は深くない。
竜道は近くの民家の屋根へ降り立ち右手首を見る。蒼に掴まれた手首は赤い跡がついていた。
「やはり、常人の握力じゃないか」
「教えてください竜道さん!」
蒼の叫び声に竜道は顔を向ける。その瞳は先ほどまでのように暗くはなく、普段の眼差しに近いものがあった。
「あなたは教徒だったんですか?」
「違うね。俺は獣鬼など滅ぼすべき悪だと思っている」
「ではなぜ!?」
「ムサシのやり方が気にくわないのさ。奴らは今、なにをしている? 争いを嫌う者たちを無理やり戦場へ送り出そうとしているよね」
「でも、それは……」
「仕方のないことだ。そう言いたいのか? 俺は、そんなムサシのやり方が許せない!」
竜道は憎しみに濁った瞳で蒼を睨みつけ噴射と共に飛び出した。彼はその左の剣を力まかせに叩きつける。
同じく剣で受け止めた蒼は、その重さに歯を食いしばる。
「絶望しかない世界で、戦い抜けと言うのか! それを力なき者たちへ強要するなど、恥を知れ! 彼らは来るとも分からない明日に怯え、いつ襲われるかも分からない恐怖に耐えながら日々を過ごしている。教団だけが唯一の心の拠り所なんだ。それを奪おうなど、傲岸不遜にもほどがある!」
竜道は至近距離で鈍器のように言葉を叩きつけた。蒼に戸惑いが生まれ隙が出来る。その左頬へ竜道の拳が食い込んだ。
「がっ!」
蒼はふらつきながら後ずさる。今追撃されれば間違いなく負ける。しかし、竜道はその場にとどまり、語り続けた。




