クーデター
それから三十分後、新潟の中心部にある教団の街『審脳』襲撃作戦が開始された。
鬼穿使いは長野から十四名、群馬から十五名、福島から十名参戦する。新潟にある他のムサシ拠点からは数十名の歩兵が参加することになっていた。本来、歩兵は拠点防衛を担当するもので、他拠点へ進軍する際は機動力不足で向かない。それだけ鬼穿使いが不足しているということだろう。
審脳へは、各勢力を二グループずつに分散させ、複数の方向から侵入する手筈となっている。竜道率いる五班は、寄せ集めの四班と合同の一グループとなっていた。その数は七名。もう一グループは三班で七名。
四班五班のAグループは審脳の市街地の外れまで社用車で移動すると、車から降り鬼穿を装備。そこからはバーニアで直進を始めた。彼らの目指す教団の本拠地はすぐそこだ。
「えらく静かだ……」
地上から数メートルほどの高度を維持し、建物の間を縫うように飛行する一同。バーニアの噴射音だけが響く中、街の静けさを不審に思った蒼が呟く。その声をインカムで拾ったアンドレが応えた。
「ああ。おおかた襲撃を予想して避難させたんだろうよ。まあこっちとしては、一般人がいない方がやりやすいけどな」
「そうですね」
「無駄口はそれくらいにしておけ。もう間もなく大通りへ出る。新型鬼穿が待ち構えてる可能性が高いから気を付けろよ」
蒼とアンドレの会話に割り込んだのは、先頭を飛行する四班長の男だった。今の陣形としては、先頭に四班長、そのすぐ斜め後ろに竜道。その後ろに四班員の二人とアンドレが並び、最後尾に蒼と千里だ。
もう肉眼でも大通りが見えてきた。ここを横切り、その奥にある地区を越えた先に教団の本拠地、郷田がいると推定される教会があるのだ。蒼が緊張に歯を食いしばる。
――ダダダダダンッ!
突如、静寂は破られ前方から銃声が響いた。それもすぐ目の前で。
「っ! なんですか今のは!?」
蒼が叫ぶ。今のはマシンガンの発砲音であり、ガトリングではない。蒼の背筋を得体の知れない悪寒が走る。
皆、噴射速度を緩め必死に周囲を見回すが敵の姿が見えない。そうこうしているうちに四班長の体がぐらつき横へ崩れ落ちていった。血を垂らしながら。
蒼が叫ぼうとした次の瞬間――
「うわぁぁぁ!」
「ぎゃっ!」
蒼の目の前を閃光が走った。その直後、並んで飛行していた四班員が二人とも血しぶきを上げながら前方へ落下する。
今度のは蒼にもはっきりと見えた。蒼と千里は対地噴射へ切り替え、その場でホバリング。一人で前へ出たアンドレも遅れてホバリングし背後を振り向いた。
「……一体なにを? なにを、しているんですか!? 竜道さぁぁぁん!」
彼らが囲んでいるのは、返り血のついた剣を握り暗く冷たい瞳で蒼を見下ろす『竜道勇人』だった。
千里が彼を鋭く睨みつけ問う。
「一体これはなんのまねですか? 説明してください!」
しかし竜道はその冷徹な瞳を向けるだけで一向に口を開かない。それどころか噴射口を背面へ戻し千里へと飛び出した。
しかし、
「くそぉっ! 容赦しねぇぞ!」
アンドレが叫びマシンガンを竜道の背中へと放つ。
「ちっ」
竜道は水平噴射で横のビルへと接近し、手を付くとアンドレの方へと方向転換した。そのままアンドレへ一直線に迫る。
アンドレも負けじとマシンガンを連射した。しかし竜道は左右に瞬発噴射し、中々捉えられない。竜道は隙を見て左で剣を抜くと、アンドレへ投擲した。
「なっ!?」
アンドレはそのスピードに対応できず、右腕を肩の下から綺麗に切断される。
「ぐわぁぁぁぁぁ! お、俺の腕がぁっ!」
そのままぐらりと体がふらつく。左手で鬼穿を制御しようにも右の籠手がない。アンドレはパニックに陥って腰の操作器を上手く扱えず、墜落していった。
「よくもっ!」
その様子を無感動に見下ろしていた竜道の背後に千里が迫っていた。彼女は迷いなく斬りかかるが、瞬発噴射で回避され無防備な背中を晒す。その背へ向けて竜道が銃を構えるが、
「くっそぉぉぉ!」
次に蒼が迫っていた。千里もすぐに空中で体勢を変え、二人で竜道を挟み撃ちにする。
――キィィィンッ!
しかしその刃は届かず。蒼の剣は竜道の右の剣に、千里の剣は竜道の左の籠手に受け止められていた。
両手を塞がれた竜道はバーニアの残圧が無くなり、そのまま落下する。地面すれすれで対地噴射し難なく着地した。蒼と千里も民家の屋根へ降り立つ。
蒼は目に涙を浮かべ銃口を向けた。
「なんでなんですか竜道さん!? 一体どんな理由があってこんな!」
「教えるわけないだろ。お前だって、殺す獣鬼一体一体に殺す理由を話したりはしないはずだ」
竜道はいつもの陽気な声色で告げ銃口を蒼へ向けた。
銃を握った蒼の指先が震える。それを横目で見た千里も銃口を竜道へ向けた。
「あなたは教団の手先だった。そういうことですか。私たちをだまし続けていたなんて、決して許せません!」
「許せないからなんだって言うんだ!」
竜道は叫ぶと腰を落とし右籠手の噴射ボタンを押す。バーニアが噴射を始めたその直後、竜道の真横から急接近する影があった。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
雄たけびを上げ竜道の横からアンドレが突っ込んだ。左手は左腰に当てバーニアを噴射し続け、右肩で竜道の脇へ狙いをつける。
「なに!?」
「この人は危険だ! お前らは下がれ!」
そのままの勢いで竜道にタックルをかますアンドレ。竜道は脇腹から強い衝撃を受け横へと押し出される。
「ちっ、死に損ないが」
――ダダダンッ!
「がはっ!」
「アンドレさん!」
アンドレの腹へ零距離で撃ち込まれる弾丸。しかしアンドレは血反吐を吐きながらも左手を操作器から離さない。
「蒼、お前は俺の親友だ。だから俺らの分まで、大好きなこの国の文化を守ってくれ。それと鈴宮、お前は年下の女の子なんかに負けんなよ?」
蒼は愕然とする。それではまるで遺言だ。千里も切迫した表情で呟いた。
「アンドレさん? あなた、なにを?」
「待って……待ってください!」
蒼が切迫した声を上げ、急速に離れていくアンドレへと向かう。しかし、アンドレの意志は既に決まっていた。
アンドレはバーニアの噴射を止め、腰の操作器で自爆ボタンに手をかけた。
「最後に一発、祖国でなく、この国のために花を咲かせてやるぜえぇぇぇ!」
「な!?」
竜道が目を見開く。
――ドガァァァァァァァァァァンッ!




