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蠱毒の鬼 -シンギュラリティオブオーガ-  作者: 高美濃四間
第七章 教団決戦
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千里の憂鬱

 郷田による演説はここ長野でも同様に波紋を広げた。甲柴では、放送終了後すぐに放送局を乗っ取った犯人が捕らえられ、教団に雇われた一般人だと判明。しかしそんなことが分かったところで意味はなく、救い出した教徒たちが再び新潟へ北上する動きを見せ始める。さらに、ムサシを抜け出す者もちらほら現れ蒼たちは混乱の渦中にあった。

 演説の翌日、早急に郷田を捕縛すべく新潟周辺の拠点から戦力を派遣するよう本部から通達があり、技術五班も出動の要請を受けていた。

出動前の昼休憩、蒼は一人で商店街を歩いていた。今はムサシの食堂で食事をとりたくなかったのだ。皆、昨日の演説の話ばかりで気が落ち着かない。


「蒼くん!」


 街の中で突然声を掛けられ振り向く。そこには青色と灰色を基調としたムサシの制服を着た千里が立っていた。慌てて走って来たのか少し呼吸が乱れている。


「どうしたんですか千里さん」


「やっと見つけた。食事まだよね? そこの喫茶店へ行きましょう」


 強引な千里に引っ張られ、蒼は喫茶店へ入っていく。

 内装は全体的にダークブラウンで店員も客も少なく落ち着ける雰囲気だった。蒼はパスタを注文しメニューを下げてもらった後、感心したように呟いた。


「こんなお店があったんだ……」


「値段は高めだから客も多くないの。それよりも、蒼くん朝からずっと表情が暗かったけれど、もしかして昨日のことで悩んでるの?」


 まさか、それを聞くためだけに蒼を追いかけてきたのだろうか。蒼は強がることもできたが、千里の真剣な眼差しに気圧され話し始めた。


「郷田の演説のことで色々と考えたんです。あの人、話は難しい内容が多かったですけど、俺らが逆賊だなんて言い方はとうてい納得できません。それじゃあ、俺たちのやってきたことも皆の死も無意味だったってことになってしまう。でも、あの話に共感したって人たちもいて、なにが正しいのか分からなくなりそうなんです」


 蒼は俯き膝の上に置いた拳を強く握る。郷田の演説の影響力は、そのカリスマ性を遺憾なく発揮し、教徒ではなかった人々やムサシの社員ですら心を揺さぶった。人生経験の浅い蒼が悩むのも無理はない。

 千里はその端正な顔に影を落とし呟いた。


「確かに、私たちの存在理由を根底から揺らがせることだもの。悩むのも無理はないわ」


「千里さんはどう思ったんですか? 戦い続けることに迷いはないんですか?」


「なにが正しいのかなんて私にも分からないわ。それでも私は迷わない。でも、あなたも同じように考えろとは言わないわ。率直に言うけれど、あなたは今回の作戦の参加を辞退すべきよ」


「な、なんでですか!?」


「今回はなにが起こるか分からない危険な戦いなの。いくらあなたが強いからと言っても、迷いを抱いたままでは決断が鈍る。そしてその一瞬の迷いが命取りなのよ。今回はなにか理由を作ってここに残って。竜道さんならきっとなんとかしてくれるわ」


「そんなことできるわけないでしょう! 大丈夫ですよ。俺はやれます」


「お願いだから死に急ぐようなことはしないで。あなたが心配なのよ」


 千里が不安げに瞳を揺らして蒼の目を見た。蒼はいつなく弱気な仕草に戸惑いつつも、構うなとでも言うように目を逸らした。


「……俺の心配なんて、いりませんよ」


「竜道さんから聞いたわ。あなたが仲間から心配されることを嫌がり悩んでいるって。それでも、私はあなたが心配なの。仕方ないじゃない」


「っ! ……それでも、俺は自分で確かめないといけないんです。この戦いのどちらに正義があるのかを。だから、ここで引くわけにはいきません。心配だっていうのなら、千里さんが俺を守ってください。俺もあなたを守りますから」


 蒼は真剣な表情で千里を見つめ返す。その瞳には強い意志が宿っていた。千里は目を丸くした後、頬を僅かに赤らめ控えめにクスクスと笑った。


「まったく……あなたは手のかかる頑固で、甘えん坊な後輩ね。分かったわ。あなたは私が必ず守る」


 その後、注文した料理が運ばれてきて二人は黙々と食べ始めた。

 店を出てしばらく歩き支社ビルへ入る直前、蒼は立ち止まり前を歩いていた千里へ問う。


「千里さんはどうしてそこまで俺を気にかけてくれるんですか?」


 千里はビクッと肩を震わせ、頬を引きつらせながら振り向いた。どこか怯えているようにも見えるが、その頬はほんのりと朱に染まり目を泳がせていた。どこか初々しい反応に、蒼は内心可愛らしいと思った。


「そ、それは……あなたにはまだ早いわ」


 彼女は拗ねたようにぷいっとそっぽを向くと、足早にビルへと入っていった。


(う~ん、最近の千里さんはよく分からない……)


 蒼は苦笑しながら千里の愛しい背中を追いかけていくのだった。

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