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蠱毒の鬼 -シンギュラリティオブオーガ-  作者: 高美濃四間
第六章 新型の脅威
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傭兵VS精鋭

「蒼くん! しっかりして!」


 目に涙を受べながら必死に蒼を揺さぶる鈴宮。

 蒼は瓦礫の上に仰向けに横たわっていた。


「……大丈夫ですよ、千里さん」


 蒼は痛みに顔を歪めながらも鈴宮の呼びかけに答える。蒼の背には一文字の切り傷が刻まれていた。深くはないためにまだ戦える。鈴宮が安堵に頬を緩めたのも束の間――


「っ!」


 鈴宮が蒼の体を抱きかかえ、ブーツの瞬発噴射で右へ飛び出す。直後、上から鉄球が落ちてきた。間一髪で直撃は避けられたものの、落下の衝撃で二人は吹き飛ばされる。

 それを見たアンドレが前を向き、鬼童の操作者へマシンガンを向けた。


「やめろぉぉぉ!」


 鬼童の操作者『織部』は三十代ほどの女だった。彼女はサディスティックな笑みを浮かべ、長い黒髪が片目を覆っている。その眼光に宿る狂気は、正常な精神状態には見えない。

 アンドレはためらわず発砲した。


「ふっ」


 女は右頬を吊り上げて薄くを笑うと、ブーツの瞬発噴射で左へ避けた。そして腰へ手を回すと――


「邪魔だよ、どきな!」


 その手に掴んだムチを振るった。鬼童は腰にマシンガンではなくムチを備え付けていたのだ。その先がアンドレのマシンガンを持つ右手首に巻き付いた。そしてそれを強く下へ引き、


 ――ズザザザザザァァァンッ!


 アンドレはバーニアの残圧によって、全身を地面に激しく擦りつけながら前進し、やがて停止した。アンドレはそれっきり動かなくなる。


「アンドレ!」


 湯芽林はムチの攻撃範囲に入らないよう、距離をとって着地した。

 湯芽林は落ち着いて周囲を見渡した。大蛇は着実に四班を狩り続け、阿修羅も圧倒的な機動力で六班を蹂躙している。アンドレと竜道は負傷し戦闘不能。鈴宮と蒼はピクリともしない。つまり、状況は絶望的。

 目の前で織部が舌なめずりをして湯芽林へ妖艶な流し目を向ける。


「あんた案外色男じゃないかい。殺すのはもったいないけど、せいぜい私を楽しませておくれよ」


「そりゃどうも」


 織部が操作器を持った右手を挙げると、湯芽林の後方で噴射音が響く。湯芽林は背後を確認することなく左噴射で水平回避、腰のマシンガンを抜くと容赦なく撃った。しかし、彼女の元へと戻った鉄球に阻まれる。

 その直後、ガトリングが火を噴いた。


「ちっ!」


 湯芽林が地を強く蹴りバーニアを噴射する。一秒前まで湯芽林がいた位置を無数の銃弾が通過していく。銃撃は止まず湯芽林を追いかける。噴射口を下よりも斜め前へ向けながら上昇後退していく湯芽林。


「逃がしませんよ!」


 喜々として阿修羅の水流が突進してくる。


「まずい……」


 横からはガトリング、前からは双剣、逃げようとしても鉄球が襲い掛かる。万事休すだ。

 そのとき、二つの影が立ち上がる。


「援護します!」


 鈴宮がバーニアを噴かし、大蛇へと全速力で突進していく。

 黒賀は坊主頭に筋骨隆々の中年で顔には狂気に歪んだ笑みを張り付けていた。


「なんだお嬢ちゃん、そんなにハチの巣になりたいのかい? じゃあ、好きなだけぶっこんでやるよぉぉぉ!」


 叫びながらガトリングの銃口を湯芽林から鈴宮へ向ける。もちろん鈴宮とて無策で飛び出したわけではない。右方向へ向かって飛び、ガトリングでボロボロになっていた中層ビルの壁を蹴り方向転換。


「捉えた!」


 バーニアを噴射、無防備な男の左肩から斬りかかる。

 しかし、男は余裕の笑みを崩さない。


「甘いんだよぉっ!」


「そんな!?」


 突如、大蛇のバーニアが真正面を向き火を噴いて後退した。鈴宮の渾身の一撃は虚しく宙を裂く。ようやく鈴宮は大蛇の資料を思い出す。大蛇は走行しながら掃射するため、後退しながらも攻撃できるようにバーニアの噴射角が背面、対地に加え、正面へ向けられるように改良されていたのだ。


「おらおら! 呆けてるとハチの巣だぜぇ!」


「くっ!」


 鈴宮は湯芽林から銃口を逸らしただけでも良しとし、回避に専念することにした。

 

「ーーうおぉぉぉ!」


 蒼は雄たけびを上げながら織部へと突撃する。背中の傷の痛みを無視して気迫だけで体を動かしている。織部は鉄球を蒼の真正面からぶつけようとするが、蒼はブーツの噴射で真横へスライドし回避。そのまま推力走行を続け、マシンガンを構えた。


「やるじゃないか坊や。それならこれでどうだい?」


 織部は二ヤリと狂気を孕んだ笑みを浮かべ、ムチを振るう。その革製の紐が蒼の手首へ向かうが、蒼はあえて銃身をムチに絡めさせ手を引いた。ムチは銃を絡めとるが蒼の突進は止まらない。

 蒼と織部の距離はどんどん縮まっていくが、それでも彼女の余裕は揺らがなかった。


「坊やを甘く見ていたよ。けどこれで終わりだ」


 ――ブォォォォォ!


 突如、蒼の背後で無用の長物と化していた鉄球がけたたましい噴射音を唸らせた。


(なんだ? 今ここで俺へぶつけたりしたら、この人もあのトゲで串刺しになるだけだ。一体なんのために――)


 一瞬の困惑。彼女の攻撃の意図が読めなかった蒼は対応が遅れた。

 突然、左脇腹が真横から強い力で押し出されたのだ。


「な!?」


 それはケーブルだった。織部の狙いは鉄球をぶつけることなどでは断じてなかった。鉄球の噴射を横へと放つことでそれに追随するケーブルを使い、蒼を横へ薙ぎ払おうというのだ。

 蒼はすぐさまケーブルを斬ろうと剣を叩きつけるが、高強度の電線管はびくともしない。そして蒼の右には迫り来る壁、壁、壁。次から次へと激突し、建物を破壊していく。

 鉄球の噴射が止まったときには、多くの建物に穴が空き、または倒壊し、砂塵が巻き上がっていた。


「ふふふふふっ。残念だねぇ坊や。これでぺしゃんこだ」


 女はなにがそんなに可笑しいのか口を三日月に歪め、腹を抱えて笑う。しかし、砂煙が晴れるとピタリと笑い止んだ。

 崩れ落ちた瓦礫と舞った砂塵の中で、全身血まみれになりながらも立ち上がる少年の姿があったからだ。


「バカな……普通の人間だったら間違いなく死んでいるはずだろぅ……」


「……俺は、他の人と違って体がイカレてるから……」


 蒼は仁王立ちで、ギラギラと光る瞳を敵へ向ける。

 今、蒼にできることは仲間たちの勝利を信じ、敵をその場に縫いとめるだけだった。


(湯芽林さん、どうか勝って――)

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