激戦、新型の脅威
蒼たち長野勢の技術課が出動してから約二時間。総数としては四班が七名、五班が五名、六班が七名の計十九名だ。もう間もなく新潟南部の待ち伏せ場所へ到着するはずだったが、急遽作戦が変更された。
傭兵の三人、『織部』、『黒賀』、『水流』は進路を変え、群馬の北西にある小さな町を襲撃したのだ。目的は補給のためだろう。彼らは追手の群馬勢を真っ向から迎え撃ち、全滅させたために消耗率が想定を超えたようだ。長野勢は方向転換し、その町『流』へ向かった。
五班の乗る社用車は冷房が効き車内も広く快適な乗り心地だったが、異様な緊張感に包まれていた。
「ちっ、新型ってのはバケモノかよ。あとは俺らしかいねぇじゃねぇか」
アンドレが忌々しそうに顔をしかめ愚痴を吐く。彼の言う通り群馬勢が全滅した以上、長野勢の十九人が最後の砦だ。
鈴宮も険しい表情で呟く。
「まさかここまでとは……獣鬼より厄介な相手かもしれません」
「……人間同士で戦っている場合じゃないのに」
蒼が拳を強く握る。誰もが思っていることだ。この戦いで死んでいった人たちが生きていれば、どれだけの人を救えただろうか。そう考えると悔しくて仕方ない。
湯芽林も竜道もかける言葉が見つからないのか、硬い表情で黙り込みただ耳を傾けるだけだ。
そうこうしているうちに目的の『流』へたどり着く。
「よし、行くぞお前ら! 各班ムサシ補修倉庫の周囲に分散し、三方向から叩く!」
湯芽林の指示を受け、彼らは同行していた軽トラックから鬼穿を取り装備すると、作戦行動を開始した。
彼らは敵に気取られないよう、バーニアは使用せず徒歩で移動した。団地や商店街は静まり返り、住民たちは屋内に避難しているようだ。
「――五班長より各班長へ、五班各位は倉庫の東側へ到着した」
湯芽林が左のインカムで班長、司令部専用回線へ告げる。倉庫とは言ったものの、飲食店に使用されるような一階建ての建物を利用したものだ。外壁には多くの銃痕と重量物がぶつかった凹み。周囲には鬼穿を装備した男たちの死体があり、ところどころでいまだに煙が上がっている。死体たちに残された傷は、刃物による切り傷や多数の銃痕、貫かれた風穴など……中には頭部が粉砕されているものまである。
蒼がその悲惨な光景に絶句していると――
――バリィィィンッ!
――ズドドドドドドドドォンッ!
窓ガラスの割れる音と共にけたたましい銃声が響いた。
「くっ! なんだ今の銃声は!? 四班長応答しろ!」
湯芽林がインカム越しに叫ぶ。竜道が剣を抜き、籠手の操作器カバーをスライドした。それを見て鈴宮、アンドレ、遅れて蒼も噴射の体勢を整える。
「銃声は向かい側からだ。おそらく四班が襲撃を受けている。皆、対地噴射で倉庫の屋根へ!」
湯芽林の指示と共に五人は飛び、倉庫の屋根へと着地する。下からでは見えなかったが、屋根の上にも何人かの死体があった。
想定していなかった蒼は思わず立ち止まる。
「なにしてる蒼!? 遅れんじゃねぇ!」
アンドレの叫び声で我に返る蒼。班員たちは既に駆け出していた。蒼も慌てて続く。やがて屋根の端まで走り抜けると、西側の様子がはっきりと見え、鳴りやまない銃声の正体が分かった。
「あれはっ!」
大型のガトリング砲を肩に担いだ筋骨隆々の男『黒賀』が狂ったように笑いながら、銃弾を撃ち続けている。そのターゲットになっている者たちは逃げるので精一杯だ。あれこそ『大蛇』。銃弾を装填したベルトリンクを全身に巻きつけ、撃つたび蛇のように暴れまわっている。
見たところ四班の七人のうち四人は既に倒れている。
「私があれをやります」
「俺も援護します!」
飛び出す鈴宮。蒼もそれに続くが、湯芽林が慌てて叫ぶ。
「よせ! 左を見ろ!」
蒼たちの横から直径一メートルはあるトゲ付きの鉄球が迫っていた。湯芽林の叫びでいち早くそれに気付いた蒼は、右手で右前方を飛んでいた鈴宮の足首を掴み左噴射で旋回した。
――ブオォンッ!
鈴宮を巻き込み間一髪回避した蒼だったが、
「ぐぁぁぁっ!」
鉄球のトゲで背を抉られた。
「蒼くん!?」
鈴宮が蒼を抱きかかえ断続的な対地噴射で着地する。
次にアンドレが吠え、鉄球に繋がるケーブルの元へと向かう。
「このおぉぉぉ!」
「ちっ! お前ら勝手に動きやがって。勇人、お前は急接近してくるあれをやれ。俺はアンドレを援護し、鬼童を黙らせる」
「了解」
竜道は斜め下へ飛ぶ。その視線の先には大量のガスを噴かす鬼穿『阿修羅』。その操作者『水流』は二十代ほどの青年で、穏やかな表情を浮かべながらアンドレに迫っていた。竜道は不意をつき、その上から斬りかかるが敵は右バーニアのみを噴かし、竜道に向き直った。
「ちぃっ!」
お互いの剣が勢いよくぶつかり火花が散る。
「――へぇ、あなたは強そうですね」
水流が余裕の微笑を浮かべ呟く。間近で見る彼はあどけなさの残る童顔で、マッシュの髪型がよく似合っていた。傭兵にしては細身だが、その無駄のない動きは洗練された戦士のものだ。
彼は竜道と斬り結んだまま再び右バーニアで旋回すると、両バーニアを一気に最大出力へ上げ、竜道ごと押し始めた。
「ぐっ」
あまりのスピードに対応ができない竜道は勢いよく阿修羅のバーニアに押されていく。
そして敵は急に噴射角を下へ向け急停止。
「がはっ!」
竜道はそのままの勢いで背後の壁へ激突する。そのまま地面へと落下。地上との高さがそこまでなかったことが不幸中の幸いだ。
しかし敵も甘くない。竜道へ止めをさそうと再びバーニアを背面へ向ける。
「――ちぇっ」
そのとき、多数の銃弾が飛来し彼は対地噴射で飛び上がった。
倉庫正面に回っていた六班が到着したのだ。
「そんなわらわらと集まっちゃって……僕に切り刻まれるために、ご苦労さまです!」
阿修羅の大型バーニアが火を噴き、六班へ瞬く間に肉薄していく。




