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蠱毒の鬼 -シンギュラリティオブオーガ-  作者: 高美濃四間
第六章 新型の脅威
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各々ができること

 平日の昼休み、蒼はビルの横にある倉庫に足を運んでいた。

 やや薄暗く町工場のような内装で面積は広い。床には多くの鬼穿が置かれている。壁際にある棚には各種工具類、計測試験装置や取替部品など、鬼穿やその他武装の整備に使いそうな備品が並べてあった。

 今は昼休みだというのに、鬼穿のメンテナンスをしている『武装補修課』の整備士たちがちらほらいる。噴射圧を計測したり、目視点検の記録を作成したり、腰ベルト肩掛けベルトの荷重試験など様々。


「すげぇ……」


 蒼がその熱気に圧倒されながら室内を眺めていると、部屋の隅に見知った人影を見つけた。長めの前髪に眠気まなこで覇気のない――『湯芽林』だ。中年の整備士と楽しそうに話している。彼は蒼の視線に気づくと手を振った。蒼は会釈をし彼らの元へ歩み寄る。


「――よぉ、蒼じゃないか。昼休みにこんなとこでなにしてんだ?」


「いえ、鬼穿がどんな風に整備されてるのか気になって。戦場でなにかあったときに、自分で整備できると便利ですし」


「ほぅ、殊勝な心掛けじゃないか坊主。けど、整備ってのはそう簡単じゃねぇぞ? でなきゃ俺らの仕事がなくなっちまうからな」


 湯芽林と話していた中年の男が「ガハハ」と笑う。彼は白と黒の混じった髪を角刈りにした、恰幅の良い大男だった。着ているツナギから覗く腕は筋肉がギッシリと詰まっており、大ベテランといった印象だ。

 湯芽林が「まったくだ」と言って頬を緩めると、男と蒼の間に立った。


「紹介しよう。この少年は蒼。俺の班の新人だ。で、こっちの整備士は『おやっさん』。名は知らん」


「ちゃんと紹介してねぇじゃねぇか! たくよぉ、知らないんじゃなくて覚えようとしないだけだろうが。俺は『高田俊たかだすぐる』だ。よろしくな、蒼」


「よろしくお願いします」


 蒼が礼儀正しく頭を下げると、高田は気前の良い豪胆な笑みを浮かべた。


「おう! ところで蒼よ、整備とは言ってもアイツらがなにやってるか分かるのか?」


 高田が目を向けた先では、整備士たちがドライバーを手に鬼穿をいじっていた。ド素人の蒼には、なにをしているのか皆目見当もつない。


「い、いえ……」


「だろうな。けど仕方ないさ。俺らは自分の仕事専門の勉強しかしないからな。俺だって鬼穿の実戦での操作なんて上手くできやしないさ。とはいえ、技術課の連中はちょっと動きがぎこちなかったり、発熱量が多かったりするとすぐに不具合だとか交換だとか騒ぎ立てるから、そこは勘弁してほしいけどな」


 高田が苦笑すると、湯芽林が口を挟んだ。


「それについては運用の変更を計画中だ。今、俺の方で上申している。それが通れば、今までみたいに戦闘員の懸案全てに対応する必要はなくなるぞ」


「おっ!? さすが翼ぁ! やっぱお前は違うな」


 高田は腕を組み「うんうん」と頷くと、蒼へ目を向けた。


「さっきは技術課の愚痴を言っちまったがな、翼は例外だ。コイツ凄くてよ、鬼穿の構造をよく理解していて、いつも的確な相談を持ち掛けてくるんだ。だから俺らの中でも、翼だけは信用できるって評判なんだぜ?」


「そうだったんですか。さすがは湯芽林さん。一体どこでそんな知識を?」


 蒼は目を輝かせ湯芽林を見る。彼はやれやれと困ったようにため息を吐いていた。


「俺はいろんなところを転々としてんだよ。その途中で、他拠点の武装補修課を二年ぐらい経験しただけだ」


「おいおい、謙遜するなって。それだけじゃないだろ? ムサシの本部で設計や運用管理の業務もしてたじゃねぇか。極めつけはあれだ。『試験運用グループ』だよ」


「試験運用グループ?」


 蒼がキョトンと首を傾げる。


「最新技術の開発に伴い、試運用を行っている本部のグループだ。不具合の危険性が常につきまとう以上、臨機応変に対応できる精鋭が選ばれるんだ。それこそ飛鳥に並ぶエリート組だぞ」


「す、凄い……さすが湯芽林さんです!」


 蒼は先ほどよりも目を輝かせ、湯芽林に羨望の眼差しを向けた。


「単に補修や設計の経験がフィードバックの役に立つから選ばれただけだ。それにいろんなことをしてたから、勇人みたいに鬼穿を長年使い込んできた奴には操作技術で劣っちまう」


「それもいいんじゃないか? 折角色んな経験をしてきたんだ。誰よりも視野が広いはずだろ。お前みたいな人材は貴重だと思うがね」


 そう言うと高田は台に置いていたペットボトルを手に取り、お茶をグイグイ飲む。

 散々褒めちぎられた湯芽林だったが、半眼でため息をついていた。


「はぁ……そんな調子のいいこと言って、またたかるつもりだろ」


「失礼な。お前また危険手当が入ったんだろ? どうせ使い道がないんだから、俺たちがお前の生還祝いをしてやろうってんだ。感謝しやがれ」


 高田が「ガハハハ」と陽気に笑う。

 危険手当とは、現場で獣鬼たちと戦った際に特別支給される報奨金だ。基本的に技術課の戦闘員が受け取るものだが、整備士たちも緊急時に現場メンテナンスをした際には受け取る権利があるようだ。

 蒼はあまり相場が分かっていないが、金額は多い方だと聞いている。とはいえ、自分が命がけで戦い抜いて得た金を、他人のために使うということに対して、蒼はあまり良い印象を持てない。

 しかし湯芽林は口の端を緩め、まんざらでもなさそうだった。


「はいはい、そりゃどうも。じゃあ、今日も『酔狂亭すいきょうてい』で――」


『――緊急連絡! 技術課員は一階会議室へ集合せよ! 繰り返す――』


 湯芽林の声を遮り緊急招集の放送が流れた。湯芽林は眉にしわを寄せ高田へ背を向けた。


「ちっ、面倒だな……おやっさん、仕事終わったら先に始めといてくれよ。どうせ城戸きどたちも呼ぶんだろ?」


「おう、任せとけ! 今日はパーッといくからな。翼も頑張れよ! 蒼、お前もな!」


 高田が呆けていた蒼の背中を叩き彼らを送り出す。蒼は胸騒ぎを感じながらも湯芽林の後ろを追うのだった。

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