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蠱毒の鬼 -シンギュラリティオブオーガ-  作者: 高美濃四間
第五章 意志を継ぐ者たち
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新人の成すべきこと

 その後、流砂に潜伏していた獣鬼の全滅を確認。とは言っても、暗がりで取りこぼしがあるかもしれないために、翌日の昼間に再度確認することだろう。全班は非盤へ戻り、最小限の人数での周辺警戒を継続。甲柴の技術課運用班は自分らの拠点へ帰還した。

 帰還後すぐに、班長たちが上層部へ結果を報告し、次いで個別ミーティングが始まった。


「お前ら喜べ。他班の倍以上の獣鬼を討伐したことを、上層部から褒められたぞ」


 喜べと言う割には、湯芽林はまるでバカにするかのような薄ら笑いを浮かべている。しかも棒読みだ。他の班員たちもやれやれというように眉をしかめ、ため息を吐いている。


「どこに喜ぶ要素があるのやら……」


「だよなぁ……これでまた俺らには、厳しい業務が回って来るんだろうな。班員の補充もなしに……」


 なにやら竜道と湯芽林が顔を見合わせて肩を落としている。蒼は状況が分からずアンドレにどういうことか尋ねた。上層部から認められることがなぜ、良くないのか。


「お前も見ただろ? うちの班は精鋭揃いなのさ。だから他班よりも人数が少ないし、新人の教育なんて無茶ぶりまでしてきたんだ。まあ、蒼がここまで鬼穿を使いこなせるとは思ってなかったから、俺らとしては大助かりだけどな」


 アンドレが豪快に笑いながら蒼の背をバシバシと叩く。

 それから、彼らは気を取り直し情報を整理した。


「――というわけで、奴らはまたしてもデータにない行動をしてきた。『跳躍』、『上空からの奇襲』の次は、今回の『待ち伏せ』だ。これらの特徴をしっかり頭に叩き込んで戦うように。また、他にも芸を隠しているかもしれんから、注意するんだぞ?」


 蒼は深く頷く。皆、険しい表情で聞き入っていた。


「なにはともあれ、全員無事に帰還出来て良かった。お前ら最高だ。折角だから祝勝会でも開きたいところだが……」


 竜道が腕時計を見る。


「三時か。これはキツいな」


「そうですね。緊張が解けてどっと疲れがやってきましたし」


 そう言って、鈴宮が手を後ろに回し「う~ん」と背筋を伸ばす。それによって彼女の小さくない胸が自己主張し、アンドレが鼻の下を伸ばして凝視した。すぐに鈴宮に気付かれ睨まれると、口笛を吹きながら目を逸らす。


「そうだな。今日は解散とするか。他になにか言いたいことがある者は?」


「――よろしいでしょうか?」


 そのとき、蒼が覚悟を決めたような険しい表情で手を挙げた。湯芽林は僅かに眉をしかめるが、頷き先を促す。蒼は湯芽林の横まで歩いていくと、班員へ向かって深く頭を下げた。


「この度は申し訳ありませんでした!」


 班員たちは皆、一様にポカンと固まっている。


「ん? なんだ、小便でもちびったのか?」


「違います」


「あっ、分かった! お前も鈴宮にムラムラしたんだろ!」


「『も』ってなんですか、『も』って!」


 鈴宮がアンドレの耳を思いっきりつねる。


「違います」


「なら、どういうことか話してくれないか?」


 竜道のまっすぐな瞳に見つめられる蒼。なんとか勇気を振り絞る。


「自分は、湯芽林主任の指示を聞かず、勝手に獣鬼へと突っ込みました。その結果、背後の獣鬼の襲撃を許し、アンドレさんや竜道さんにもご迷惑をおかけしてしまいました。それに、その後はなにもできず――」


「――なんだ、そんなことか」


「え?」


 湯芽林の軽い一言に、蒼は思わず顔を上げる。湯芽林は、苦笑しながら蒼の肩に手を置いた。


「別にいいんだよ、そんなこと。新人の仕事は、まず生き残ることだ。戦うのはそれからでいい。だから、五体満足で生き残ったお前は、最高の部下だ」


「湯芽林さん……」


 思いがけない言葉に瞳を潤ませる蒼。そのとき、竜道が口を挟んだ。呆れたようなジト目を湯芽林に向けている。


「翼の三文芝居はひどいな。蒼、気にしなくていい。むしろ、誇るといいよ。君の最初の突撃が突破口を開いたんだ。あれで二十体ぐらいは倒してるからね。僕も驚いたよ。君があんな華麗な鬼穿捌きを見せてくれるなんて。だから、助けられたのはこっちさ」


「……そう、なんですか?」


 蒼が信じられないというように目を見開き、鈴宮を見た。彼女は黙って頷く。アンドレも「その通りだ」と腕を組みながら呟いた。


「勇人ぉ、お前なぁ、俺にも保たなくちゃならない威厳てもんがあるんだよ」


「ないものをどうやって保つんだい?」


「お前、爽やかフェイスでとんでもないこと言いやがるな……」


 二人が言い合っている横からアンドレが蒼の方へ歩み寄り、その太い腕で蒼の首をホールドした。


「お前ぇ、空気読めよなぁぁぁ。俺は早く寝たいんだっつうの!」


 アンドレが気だるげな声で文句を言うと、中指で蒼の脳天をグリグリと押しまわす。


「いだだだだだ!」


 いつの間にか、湿っぽい空気はどこへやら。

 蒼は、この仲間たちと出会えたことに心から感謝したのだった。

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