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蠱毒の鬼 -シンギュラリティオブオーガ-  作者: 高美濃四間
第五章 意志を継ぐ者たち
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静寂

「――作戦変更だ」


 湯芽林が班員に招集をかけ状況を説明する。他の班も個別に集まりミーティングを行っていた。


「まず現在の状況だが、獣鬼が『流砂』に入ったっきりそこから出てこない。調査班も遠方から監視を続けているが、別方向から回り込んでいる様子もないそうだ。つまり、奴らはあの田舎町で『待機』している可能性が非常に高い」


「それはまた予想外の行動だね。奴らがなぜ、そんなことをしているのか……分かるかい? 蒼」


 竜道から急に問われ、蒼が「え?」と鳩が豆鉄砲くらったように目を丸くする。


「えっと……疲労、ですかね?」


「それは考え難いな。奴らの体力切れなど見たこともないぞ」


「そうそう」


 湯芽林と竜道が首を横に振り、蒼は「う~ん」と難しい顔で唸る。

 次に、アンドレがなにかを思いついたかのようにパッと表情を明るくするが、鈴宮が先に前へ出た。


「待ち伏せ、ではないでしょうか? 彼らの活動可能時間は、あと六時間以上あります。しかし、こちらの部隊はこう気を張り詰めて警戒している限り、精神と体力を消耗していきます。彼らは、こちらに隙が出来るのを待っているのでは?」


 湯芽林もその可能性を考えていたのだろう。深く頷いている。対してアンドレは、目を見開いて心底驚いていた。彼のひらめきは、鈴宮の考察に敵わなかったのだろうか。

 湯芽林が本題に戻る。


「そこでだ。俺らも奴らの動きがあるまで待っているわけにはいかない。いつ非盤が別方向から襲撃を受けるかも分からず、こちらも戦力を消耗していくだけだからな。そこで、俺ら甲柴の技術課・二、三、五班と非盤側の機動隊九名で流砂へ奇襲をかけることとなった。非盤側六名の歩兵は、万が一獣鬼を取り逃がした際の最後の砦だ」


 皆、息を呑む。つまり、彼らは当初の予定よりも少ない人数で獣鬼の群れと戦わなければならないのだ。蒼は、拳を強く握りしめ奥歯を噛みしめる。


「なに心配するな。俺と勇人で百体ずつ平らげてやるからよ」


「おいおい、なに言ってるんだよ翼。デザートぐらい残しておいてやれよ」


 五班のツートップが最後に軽口を叩く。そして湯芽林は、勇ましく厳とした表情で声高らかに告げた。


「お前ら、俺に続け!」


「「「了解!!」」」


 歩兵六人を残し道の駅を発った各班は、流砂へ辿りつくと四方向に別れた。技術五班は最左翼の担当だ。

 蒼の頬を冷気が掠める。彼らは今、民家や建物の屋根を走っていた。獣鬼による襲撃を防ぐためであり、視野を広く保つためでもある。建物の間を飛び移るときのみ、鬼穿のバーニアを使うことで燃料の消費を抑えていた。


「各員、小さな動きも見逃すな。少しでも異変を感じたら声を上げろ」


 インカム越しに湯芽林の指示が聞こえる。しかし、街路灯も点いていない夜道で獣鬼を発見するのは困難だ。インカム内蔵のライトで前方を照らすことは出来ても、周囲の敵を見つけることは難しい。

 アンドレも「はい」とは言わず、「う~ん」と唸る。


「こりゃ厳しいですね……人の住んでる街なら明かりがあるが、元から放棄された田舎町じゃあ、電気なんてなくて当然ですよ」


「アンドレの言う通りだ。けど、そのための備えはあるんだろ? 翼」


「おうとも! よし、全員止まれ! その場で周囲を索敵だ」


 湯芽林の指示で全員その場で停止。注意深く周囲を見渡した。

 『備え』について、かいもく見当もつかなかった蒼が竜道へ問う。


「竜道さん、『備え』というのは?」


 竜道は蒼へ顔を向けるが、先に湯芽林が答えた。


「『閃光弾』だ。今から二分後に、本隊から各方向へ閃光弾を放つ。俺が合図したら目を閉じろ。で、爆発音がしてから二秒後に目を開け周囲を索敵だ」


「閃光弾ですか。しかし、爆発音にも注意を払わないといけないんじゃ……」


「心配すんなアンドレ。どんなのを想像してるかは知らないが、音は大したことない。どうせ奴らには効果ないしな」


「分かりました。誰よりも先に獣鬼を発見してみせますよ。勝負しようぜ鈴宮」


「お断りします」


 喜々とした笑みを浮かべたアンドレが鈴宮へ顔を向けるが、彼女は振り向くことなく言い切った。そんな二人を見て竜道がクスクスと控えめに笑う。湯芽林も「緊張感のねぇ奴らだなぁ」と困ったように口角を緩めている。


「……」


 蒼だけは、なにも言わず周囲を見回し続けていた。

 そしてすぐに二分が経った。


「総員通達! 目を閉じろ!」


 蒼は言われた通り、ぎゅっと目を閉じる。そして数秒後に遠方で複数の爆発音が響いた。蒼は二秒を数え、ゆっくり目を開ける。

 視界は真っ白だった。徐々に景色が輪郭をかたどっていく。


「っ!」


 蒼の背筋が凍った。真っ先に目に入った光景によって……真下で数十体の獣鬼が牙を光らせながら蒼の方を見上げていたのだ。蒼の心臓がドクドクと脈打ち、呼吸が荒くなる。インカムから仲間たちの慌てたような声が入ってくるが、その内容を気にしている場合ではなかった。


「見つけたぞ……バケモノッ! うぉぉぉぉぉ!」


 蒼はバーニアを噴かせ飛び降りる。狙いは前方の獣鬼。

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