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蠱毒の鬼 -シンギュラリティオブオーガ-  作者: 高美濃四間
第五章 意志を継ぐ者たち
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新たな仲間

 蒼の住んでいた岐阜県東北の街壊滅後、蒼は長野にいた。ここも比較的大きい街で、多数のムサシ戦闘員が常駐している。蒼はムサシの訓練生であったこともあり、保護された後ムサシの鬼穿運用班に配属された。

 そこはムサシの戦闘員たちが常駐する小規模のオフィスビル。縦ではなく横に長い。そこの会議室に五人の男女が集まっていた。


「そんじゃあ、技術五班のミーティングを始めるぞ」


 ホワイトボードの前に立つ男が気怠げに言った。その男の名は『ばやしつばさ』。技術五班の班長で役職は主任。長身で程よい筋肉もあり理想的な体型をしているが、長めの前髪にいつも眠気まなこなこともあり、覇気がない。年齢は三十代半ばだ。

 彼の目の前に並ぶのはムサシ長野支部・技術課運用五班だ。主な業務は現場での獣鬼排除。それ以外ではパトロールなどの治安維持活動や教団の調査を行っている……と、蒼は聞いていた。班員の全員と顔を合わせるのは今回が初めてだ。

 蒼は班長に手招きされ、ホワイトボードの前に立つ。


「以前から話はしていたが、今日から我が班の一員になる『伊黒蒼』だ。仲良くしてやってくれ」


「……伊黒蒼です。よろしくお願いします」


 蒼が暗い表情で頭を下げる。


「えらく元気のない奴だなぁ……」


 眉間にしわを寄せボヤいた男は、スキンヘッドに色黒で筋骨隆々の男。


「仕方ないさ。あの街の唯一の生き残りだ。辛いことも色々あっただろうよ。とりあえず、お前らも順番に自己紹介していけ」


「了解。俺は『アンドレ』、二十八歳のアメリカ人だ。主に後衛を務めることが多い。分かんないことがあれば、まずは俺に聞きな」


 アンドレは屈託なく笑った。筋骨隆々な体型で自信に満ちた相貌もあり、先輩として頼もしく見える。蒼は小さく頭を下げる。雨林が「次」と言うと、その横に立っていた若い女性が一歩前に出た。


「『鈴宮すずみや千里ちさと』です。よろしくお願いします」


 彼女はそれだけで自己紹介を終えると、再び下がり前を向いた。その目は冷たく無表情で、冷徹な印象を受ける。そのスラリとした立ち姿は美しく顔も整っており、他の戦闘員には感じられない気品があった。プラチナブロンドの髪は後ろで束ねられ、毛先がうなじにかかる程度の長さだ。

 それを見ていた湯芽林が、子どもの戯れを眺めるかのような温かい眼差しを向ける。


「おいおい冷たいなぁ~お姉ちゃん」


「お、おねっ!?」


 鈴宮は一瞬狼狽したように頬を引きつらせたが、咳払いするとすぐまた無表情に戻る。その頬は若干赤みがかっていた。からかわれることに慣れていないのだろう。アンドレもニヤニヤと薄ら笑いを浮かべている。


「まあいいさ。お前が一番年近いんだから可愛がってやれよ? じゃあ次」


「俺は『りゅうどう勇人はやと』だ。よろしく頼むよ少年」


 鈴宮の隣に立っている金髪の男が柔らかく微笑む。落ち着いた雰囲気だが、長身痩躯で鼻筋が整っており爽やかな微笑が絵になる。しかし、ここまでの会話で表情を変えなかったこともあり、鈴宮同様にクールな性格なのかもしれない。そんな蒼の印象を感じ取ってか湯芽林が茶々を入れる。


「勇人は病弱だからな、病気を移されないように気を付けろよ?」


「ひどいなぁ翼。このあいだ肺炎になっただけじゃないか」


 竜道が苦笑する。二人が役職に関わらず名前で呼び合っていることは少し気になったものの、蒼は深く聞かないことにした。

 やがて湯芽林と竜道の言い合いが終わると、


「よし、それじゃあ改めてミーティングを始めよう」


 各拠点の現状や獣鬼の動き、教団の調査結果など、蒼の知らない情報が数多く飛び交った。


「――では次に、先日の岐阜の街襲撃事件のことだが――」


 蒼のいた街のことだ。蒼は思わず表情を硬くし拳を握りしめた。

 湯芽林がちらりと蒼の方を見る。すぐに前を向き表情は緩めず、むしろ顔に影を落とした神妙な表情で続ける。


「奴ら、どうやって街に侵入したと思う? 鈴宮」


「単に街周辺から歩いてきた、というわけではなさそうですね……街の誰かが獣鬼を監禁していて、それがなにかの手違いで解き放たれた、ですか?」


 冷静に答えた鈴宮にアンドレが苦笑する。


「奴らを監禁ってなぁ……あそこに研究施設なんてないんだから、飛躍しすぎじゃねぇか?」


「じゃあ他になにが考えられるんですか?」


 鈴宮が眉間にしわを寄せ、イラッとしたように聞き返す。アンドレはすぐに思いつかず、ばつが悪そうに目を逸らす。


「内側からの襲撃という意味では、鈴宮の考えは近い。奴ら、『地中』から襲撃してきたんだ」


「「「っ!?」」」


 蒼、アンドレ、鈴宮が絶句する。竜道は表情を曇らせただけで落ち着いており、「ふむ……」と顎に手を当てて何事かを思議していた。

 皆を代表してアンドレが身を乗り出す。


「バカな!? まさか、獣鬼たちが地中を掘りながら移動してきたとでも言うんですか!?」


「そうじゃない。あの街はムサシ本拠地のすぐ近くに墓地があってな、そこで生物災害以降、死人を埋葬していたらしい」


「そ、それじゃあ……」


「ああ。死人が獣鬼となって生き返ったんだ。調査課によると墓地は掘り返され、墓の下で眠っているはずの一部の遺体がなかったらしい。白骨化していない遺体だ。そして、墓から出た奴らはムサシの拠点を襲撃した。一階の倉庫に鬼穿や武器が保管されていたから、上手く対処できなかったようだ」


 そこまで黙って聞いていた鈴宮が疑問をぶつける。


「ムサシの拠点を壊滅させたとなると、それなりの数の獣鬼がいるはずですが、白骨化していなかった遺体がそんなにあるのですか?」


「まあ、俺もそこら辺は詳しくないが、それも『オニノトキシン』による影響じゃないかって言われてる」


「あと、これは蒼から得た情報だが、奴らは高い建物から飛び降りて地上の人間を襲撃したらしい」


 アンドレと鈴宮に注目された蒼が暗い表情で深く頷く。それを聞いた竜道がようやく口を開いた。


「なるほど。それでは鬼穿の制空権も意味をなさないか。彼らはいつからそんな知能を持ったんだろうね」


「俺らは獣鬼のことを知らなすぎる。奴らを前にしたら、常識や先入観は捨てろ。これは俺の持論だが、獣鬼と戦う際に必要なのは鬼穿の操作技術や知識、運動神経だけじゃない。柔軟な発想力だ」


「ふふっ、僕らみたいに脳ミソの凝り固まった大人には厳しいね。だからこそ――」


 湯芽林と竜道が同時に蒼へ目を向ける。


「――若者の力は、なにより尊いものだ――」

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