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蠱毒の鬼 -シンギュラリティオブオーガ-  作者: 高美濃四間
第四章 少年の反撃
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散りゆくさだめ

 しばらくしてA班は東の街へと到着する。この街はやや小規模で、寂れた商店街が多く点在し、そこを寝床としている市民も大勢いる。しかし今は静まり返り、人の気配すら感じさせない。それが夜だからという理由であれば、納得できるがいたる所に残された血痕や割れた窓ガラスなどを見るに、穏やかでない状況なのだと本能が告げる。とはいえ、獣鬼の姿も市民の姿も見えない。

 A班はバーニア噴射を止め、大通りの歩道を慎重に進む。目指す先は比較的大勢の市民が避難していると思われる団地。歩くたびにガチャガチャと鬼穿が金属音を立てる。そのたびに訓練生たちの神経を恐怖にむしばんでいく。


「人ひとりいない。皆、別の場所に避難したのか」


「だといいがな」


 大林と山上が呟く。

ようやく古びた低層マンションが並ぶ団地へたどり着いた。しかし、ここも争った形跡が色濃く残っている。A班が重苦しい雰囲気を漂わせながら、マンションとマンションの間にある砂利道を歩いていると、


「生野さんや逢坂指導員は無事でしょうか」


 蒼が瞳を不安げに揺らし呟くと、大林が心配するなとでも言うように蒼の肩を軽く叩いた。


「きっと大丈夫さ。今に追いついて――」


「――貴様らの考えは甘すぎる。いいか? 現実を教えてやろう。ここまで合流してこない時点で、後方に残してきた逢坂たちは死んでいる。加えて、B班とは連絡が途絶え、さらに高塚講師の音沙汰もない以上、最悪の事態を考えるべきだ」


 白河瀬が表情に怒りを滲ませ、大林の希望的観測を切り捨てた。蒼だけでなくその場のほとんどが頬を恐怖に歪ませた。大林が生唾を飲み込み、恐る恐る白河瀬へ問う。


「最悪の事態?」


「一般市民も含め、『俺ら以外全滅』だ」


「っ!」


「そ、そんな……」


「待ってください! そんなこと……」


 足を止め、戸惑いの声を上げる訓練生たち。そんな中――


「――ぎゃっ……」


 この場に不釣り合いな短い悲鳴が響く。それは隊列の最後尾からだった。驚いて肩を震わせた蒼が真っ先に振り向く。


「んなっ!?」


 男子訓練生の一人がうつ伏せに倒れ、その上に獣鬼が馬乗りになっていた。それは牙を光らせ、訓練生の首筋へと迫っていた。


「た、助けて!」


「ちっ! なにをしている大林! さっさと獣鬼の首を斬れ!」


 白河瀬は忌々しそうに眉を逆立て、獣鬼のすぐ近くで唖然と突っ立っている大林へ叫ぶ。自身は左右を見回し他の個体の奇襲に備えた。しかし獣鬼の姿など周囲のどこにもない。


「くっ!」


 我に帰った大林が慌てて右肩の剣を抜き、獣鬼へ向かうも――


「――アグァァァ!」


 獣鬼が突如叫ぶと同時に標的を変え、向かってくる大林へと飛び掛かった。


「なにぃっ!?」


 大林は急な突進に突き飛ばされ剣を落とす。その勢いで大林は地面へと押し倒され後頭部をぶつけた。獣鬼は今度は大林へと馬乗りになり、噛みつこうとしていた。今は大林が両手で獣鬼の肩を押し返し、なんとか抑えている状況だ。それも人と獣鬼の力の差を考えると長くは持たない。


「大林ぃ!」


 山上が叫び右肩の剣に手をかける。

 倒れていた訓練生は獣鬼から逃れられたことに安堵し、立ち上がろうとするが、


「……え?」


 その頭が潰れた。新たに飛来した獣鬼の足に踏み砕かれて。


「上だぁっ!」


 弾かれたように上空を見上げる白河瀬。

 蒼もそれに続いて上を向くと、それらは宙を舞っていた。


「そ、そんな……」


 周囲のマンションのベランダから無数の獣鬼たちが身を乗り出し、次々に飛び降りている。A班目掛けて。蒼は今目にしている光景がどうしても信じられなかった。こんな獣鬼の習性、講義でも習ったことがなかったからだ。

 白河瀬ですらも言葉を失っていることから、奴らが進化しているということだろう。


「バカな! クソ! 山上は大林を救助し獣鬼の無力化を、それ以外は上空へ弾丸をばら撒け! 撃ち漏らして着地した個体については、最優先で始末しろ!」


 白河瀬は必死な形相で叫びながら腰からマシンガンを抜き、上空へ発砲を開始する。続いて訓練生たちも乱射する。しかし、飛び降りてくる敵の数が多く捌ききれない。たとえ命中しても、仕留めるまでには至らず着地を許してしまう。


「くそっ! 大林から離れやがれ!」


 山上が必死の形相で叫び、大林の上に乗っている獣鬼へ斬りかかる。しかしその後ろに降り立った個体の突進によって邪魔される。剣を振り回しその首を斬るが、また次から次へと降って来てキリがない。


「ちきしょう!」


「ぐぅ……ぐあぁぁぁぁぁっ!」


 突如、大林の叫び声が上がる。とうとう獣鬼に噛みつかれたのだ。獣鬼の肩を押し返していた右腕へ噛みつかれた。その咬合力は凄まじく、簡単に肉を噛み千切られた。獣鬼は次に大林の首元へ噛みつく。


「くっそぉぉぉ! 邪魔だ!」


 山上は腰のマシンガンを抜き、周囲に群がる獣鬼たちへ乱射する。そしてすぐに大林の上に乗っている獣鬼を蹴り飛ばし、マシンガンで仕留める。

 山上が大林の上体を起こすと、既に虫の息であった。腕と首元から血が溢れ出し、ヒューヒューと息も絶え絶えだ。


「大林! しっかりしろ!」


「……悪いな、山上……俺はもう……」


「なに言ってんだ! お前はこんなところで死んだらだめだろうが! 平和を取り戻すんだろ? お前がいなきゃ誰がやるんだ!」


「すまん……俺は……っ!」


 大林が大量の血を吐き出す。山上の必死な呼びかけも虚しく大林は息を引き取った。


「っ! 大林さぁぁぁん!」


 蒼が悲痛に顔を歪め叫ぶ。しかし彼らの元へ行こうにも獣鬼が多すぎた。今は上空の迎撃よりも地上に降り立った獣鬼の排除で精一杯だ。

 また一人、他の訓練生が殺されていく。

 山上は肩を怒らせながら立ち上がると、天へと向かって吠えた。


「くっそぉぉぉ!」


 右の剣と左の銃を振り回し次々に敵を蹴散らしていく。しかし背後の獣鬼へ剣を振り上げた直後、その手が止まった。


「お、お前……」


 さきほどまで大林だった獣鬼が立ち上がっていた。


「アァァァ……」


「山上、撃て! そいつはもう大林ではない!」


「……俺には……できません」


 山上は唖然と頬を歪ませ呟くと、腕をおろし棒立ちになった。次の瞬間、大林だった獣鬼が真正面から山上の左肩へ噛みつく。


「ぐっ……」


「そんな! 山上さんっ!」


 必死の表情で駆け寄ろうとする蒼。


「来るなぁっ!」


 両腕を獣鬼の後ろへ回しながら叫ぶ山上。彼は左籠手の装甲をスライドさせ操作器を露出させると、震える右指で操作を始めた。


「山上……貴様まさか……全員山上から離れろ! 半径十メートルだ。間に合いそうになかったらバーニアを使え!」


 白河瀬が叫んだ二秒後、それは起動する。


 ――ドガァァァァァァァァァァンッ!


 ――自爆――その爆発範囲は半径五メートルから八メートルといったところ。山上とその周囲の獣鬼は跡形もなく消し飛んだ。白河瀬が険しい表情で頷き呟く。


「山上、訓練生ながら見事だ」

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