残酷な現実
蒼たちは東の街へと向かっていた。訓練校でA班とB班に分かれ、蒼、大林、山上含む訓練生九名はA班で、戦術講師の白河瀬と戦術指導員が二人の計十二名の小隊を形成し東の街へ。その他の訓練生八名と戦術指導員三名の計十一名はB班で西の街へ向かった。高塚の率いる斥候隊は中央支部へ行ったきり連絡がない。
暗闇にけたたましいバーニア噴射音が響く。A班はバーニア全開で地上を推力走行していた。背面へとガスを噴射し、足は地面との摩擦を起こさないように若干浮かせている。
「よし、そろそろ街だ。いいか貴様ら、相手が人であろうとバケモノであろうと鬼穿の基本的な操作は変わらない。慌てず冷静に訓練通りにしろ」
そう言いながら先頭を走る白河瀬の鬼穿は指揮官仕様だった。通常では背面右肩にのみ剣が装備されているが、左肩にも装備され、真後ろから見ればXの形に剣が帯刀されている。また、B班との連絡もとれるよう、左耳にもインカムを装着していた。見た目の違いはその程度で、バーニアとブーツの定格出力が高く設定されていたり、燃料の容量が増えるよう改良されていたりと、指揮官として簡単には死なないように手が尽くされている。
東の街の外れに差し掛かってきた頃――
「――前方、二体の獣鬼出現です!」
指導員の女性『逢坂』の叫び声で全員がバーニアの噴射を中断し立ち止まる。その五十メートル前方には二体の獣鬼がゆらゆらとA班の方へ歩いてきていた。白河瀬が自分のすぐ後ろに立っていた訓練生へと声を掛ける。
「生野、前へ」
「え? じ、自分ですか?」
「何度も言わせるな! 銃を抜き前方の二体を完全に沈黙させろ」
A班は異様な緊迫感に包まれていた。人類をここまで追い詰めた仇敵が目の前にいて、それを討つための武器を手に持っている。その事実が若者たちの肩に重くのしかかる。
「り、了解……」
指名された男子訓練生『生野』は背面の腰からマシンガンをとると、震える手で獣鬼へ向けた。その銃口は上手く定まらない。
いつまでも生野が発砲せず、白河瀬が苛立ちに眉を歪めた次の瞬間、獣鬼たちが生野へ向かって駆け出した。
「う、うわぁぁぁぁぁっ来るなぁぁぁ!」
生野は叫びながら目をぎゅっとつぶり、乱射する。その銃口は獣鬼の上空や壁、床など暴れまわり獣鬼へ当たらない。
「ひ、ひぃぃぃ」
背後では数人の訓練生たちが恐怖に顔を歪め、尻餅をついている。蒼は緊張に顔を強張らせながらもその光景を目に焼き付けていた。
「バカ者!」
獣鬼がもう十数メートルまで近づいてきた頃、白河瀬が生野の手首を掴み、銃口を獣鬼へ向けさせた。ようやく一体の獣鬼の頭部に命中し沈黙。しかし、もう一体は既に目の前へ迫っている。
白河瀬は生野を右横へと突き飛ばし右肩の剣を抜くと、左前方から迫る獣鬼の胸へと突き刺した。
「……ア……」
二体目も活動を停止。白河瀬は背後へ振り向く。
「見たか? これが戦場だ。いくら武器を持っていようと当たらなければ意味がない。それを使うことに躊躇などすれば、その瞬間に死ぬ。分かったらさっさと前へ進め!」
そう吐き捨てると、再び走り始めた。皆、慌ててその後ろに続く。が――
「生野さん?」
蒼が後ろを向くと、白河瀬に突き飛ばされて倒れたきり立ち上がろうとしない生野が俯いていた。その横には女子が一人声をかけている。それを見た指導員の逢坂が声を荒げる。
「なにをしている生野、花谷! 早く来い!」
「……僕には、無理です」
うなだれながら未だに震えている自分の手を見つめる生野。
そのとき、前方を走っていた一人の訓練生が振り向くと、目を見開いて立ち止まった。
「あ、逢坂指導員!」
その女子訓練生が切迫した声を上げて指さした先には、二体の獣鬼。生野たちの横道から現れ、彼らに迫っていた。
動けない生野に代わって銃を乱射する花谷だったが、ようやく一体目に当たったところで――
「い、いやぁぁぁぁぁ!」
もう片方に首筋を深く噛まれ、絶叫の後、瞳の色を失う。
「は、花谷さんっ!」
「足を止めるな! ここは私が片付けるから先に行け!」
「任せたぞ逢坂。ガキ共、後ろを振り向くな前を見ろ! どんなことがあっても進め!」
ショックに足を止め始める訓練生たちへと怒鳴り、自身は後方の獣鬼へと向かう逢坂。白河瀬は訓練生たちへ前進するよう叫ぶ。残り七名の訓練生たちは恐怖と涙を抑え込みながらも前へと進むのだった。




