獣鬼急襲
午後の講義を全て終え、訓練生たちは帰り支度をしていた。
蒼が外を見ると日が沈み始めている。今は秋であるため、少しずつ日が暮れる時間も早くなってきているのだ。
「それじゃあ、お先~」
一人また一人と教室を出ていく。蒼もテキストや筆記用具をバッグへ仕舞い、廊下を出る。中央にある階段まで歩いていくと――
ブ―――――ッ!
ブ―――――ッ!
ブ―――――ッ!
「な、なんだ!?」
突然のけたたましいサイレンに足を止め身構える。危うく階段から足を踏み外すところだった。よく聞いてみると、サイレンは周辺地域の全域へ向けて鳴り響いていた。
「な、なんなんだよ!」
「ど、どうすれば……」
廊下を歩いていた同期たちも戸惑いの声を上げている。
すぐに全域放送が流れ出した。
『地域周辺に獣鬼が出現しました。住民の皆さまは直ちに建物内に避難し鍵をかけ、安全確保の放送が流れるまで外出されませんようお願い致します。繰り返します――』
「そ、そんな……」
蒼の背筋が凍る。数ヵ月前の悪夢が蘇る。心臓がばくばくと乱れ打ち、走ってもいないのに呼吸が荒くなる。全域放送が終わるとすぐに校内放送が流れ出した。
『訓練生諸君、二階のA教室へ集合!』
いつも座学の講義が行われる教室だ。出たばかりだったが、蒼はすぐに戻る。
早々に訓練生全員が教室へと駆け戻り、高塚を待っていると現れたのは戦術講師の『白河瀬』だった。厳つい顔に短髪の男で筋骨隆々な体躯もあり、異様な迫力があった。
「よし、全員揃っているな。今から状況を説明する」
白河瀬はホワイトボードへ重要な単語を書き出しながら説明を開始した。その表情は硬く状況が芳しくないのだと予想がつく。
「まず、獣鬼が周辺に現れたという放送は嘘だ。奴らは既に『街の中』にいる。それも大量にだ」
「「「え!?」」」
その場にいた全員が声をそろえ、驚愕に声を震わせる。
「なぜそんな事態に陥っているのかについては不明だ。調査課監視班は周辺に獣鬼の影など一体も見ていないと言い張っている。どこから現れたのかも、どれだけの量がいるのかも不明だ。しかし日の暮れた今、既に奴らは活性化しそこら中で人を襲い始めた。襲撃を受けたのはムサシも例外ではなく、岐阜中央支部との連絡がついていない。今は高塚戦術講師が様子を見に行っているが、万が一のときは諸君らにも出動を要請せざるをえないことを、肝に銘じておいてくれ」
同期たちの間に動揺が走る。女子の一人が肩を震わせながら挙手した。
「わ、私たちが獣鬼と戦うのですか? まだ対獣鬼戦の訓練も受けていないのに……」
「そ、そうです! 出動したって無駄死にするだけですよ」
「むしろ、鬼化して敵の戦力を増やすだけでは……」
堰を切ったように次々と生徒たちがまくしたてる。蒼が教室を見回すと、村田は顔を真っ青にして俯いたままなにも言えず、山上と大林は絶望に顔を歪め拳を握りしめていた。
やがて生徒たちの反論が勢いを増し、収拾がつかなくなってきた頃――
「――愚か者!」
白河瀬が一喝。一瞬でその場は静まり返った。
「貴様らはなんのためにここにいる!? 死にたくないからか? それなら尻尾を巻いてとっと逃げればいいだろ。貴様らがそうやって駄々をこねている間に、友人や家族が襲われているかもしれないんだ。まだ戦い方を教わってないからといって、彼らを見捨てるつもりか!? なぜ貴様らがムサシに入ったのか、その理由を今一度思い出せっ!」
白河瀬は最後に机を「ドンッ!」強くと叩いた。そして、「戦う気概のある者だけ校庭へ来い」と告げ教室を出て行った。
その後、高塚からの連絡で本部の損害が甚大であることを知らされた訓練校は、講師と指導員、そして訓練生に出動させる決定を下したのだった。そのとき、校庭に集まった訓練生は十七名……つまり、戦う前にして四人が逃げ出していた。




