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蠱毒の鬼 -シンギュラリティオブオーガ-  作者: 高美濃四間
第四章 少年の反撃
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鬼穿の使い方

 それから毎日のように蒼はヘージの元へ通った。訓練校でのハードな鍛錬の後で疲労困憊ではあったが、蒼にはそれを忘れてしまうほどのやる気があった。橋の下、蒼は顔を引き締め綺麗な気を付けをしている。対して、ヘージはやる気なさそうな寝ぼけまなこであぐらを掻いている。


「まずは基本の型だな。鬼穿使用時の構えを見せてみろ」


「はい!」


 蒼は綺麗な気を付けのままで元気に返事をした。ヘージの呟いた「アホくさ」という言葉を気にせず、右の脇を締め右腕を胸の前に突き出した。もし銃を握っていたら銃口を向けている形だ。左手は下側から右腕に添え、腰は落としいつでも走り出せる前傾姿勢。


「……ダメダメだ」


 ヘージがやれやれとため息をつき額を押さえる。蒼は「えぇ~?」と肩を落とし困惑の表情を浮かべた。


「まあ下半分の姿勢はいいが、上がダメだ。それはあれか? 攻撃しながらも操作器のボタン配置を確認できるようにしているのか?」


「そうです。操作ミスを防ぎつつ、発砲しながらも対地噴射で滞空できます」


「そうか。なら……お前は金輪際、腕の操作器を使うな」


「へっ!?」


 蒼が素っ頓狂な声を上げ、きょとんと首を傾げる。頭上にたくさんのハテナマークを浮かべた蒼に苦笑しヘージが立ち上がた。


「腰にも操作器はあるだろ?」


「そ、そうですけど……それでは操作ミスが多くなるために操作器内蔵の籠手が……」


「そんなのは出来なかった奴の言い訳だ。使いこなせない開発チームが操作性の悪さを指摘して追加したんだろう。実際に試運用していた当時の『飛鳥第十班』は使いこなしていたはずだ」


「そうみたいですけど、結局その人たちは技術を伝承することなく全滅したって……」


「とにかく、今日からお前はこの型を使え」


 ヘージはそう呟くと、右足を斜め後ろへ引き左手を腰に、右手は剣を持っているように握って胸の前に突き出した。同時に、得体の知れない鬼気迫る覇気を纏い始めていた。蒼はその迫力に息を呑む。


「右手で武器を持ち、左手は腰の操作に集中しろ。目を瞑ってでも迷いなくミスなくボタンを押せるようになれば、両手で武器を持ち必要なときだけ腰で操作しろ」


「しかし師匠、そんな力んで構えていなくても、そんな頻繁にバーニアを使わないのでは?」


「バカ野郎。肝はブーツだ。これほど小回りの利く兵装を活かさない手はない。『息をするように放て』。これは鬼穿を運用する絶対条件だ」


 蒼は「なるほど」とポケットからメモ帳を取り出し、律儀にメモメモ。


「瞬発噴射の必須パターンは三つ。水平移動、旋回、緊急後退だ。特に旋回をするなら、噴射に合わせて弧を描くように足首をひねることが必要だ。まずは、体がそれぞれの型を反射的に、なめらかにトレースできるよう徹底的に叩き込む」


 ヘージは言い終えると、蒼へ手取り足取りそれぞれの型を教えた。蒼は今まで教わって来たこととは全く異なった手法に上手く対応できないが、ヘージは厳しかった。ほんの少しのズレですら許さない。それでも蒼は、強くなるためにひたすら反復練習を続けていくのだった。


 蒼は次第に本来の活気を取り戻しつつあった。昼は訓練校で座学と実習。夕方からはヘージの元で鬼穿の修行。部屋に戻ってからも、ひたすら『基本型』、『水平移動』、『旋回』、『緊急後退』の形を作っていく。


 その日は珍しく高塚以外の戦術講師が講義を行っていた。外は快晴で、教室へ日差しが差込む中、短髪で厳つい男の戦術講師『白河瀬しらがせ』は鬼穿について丁寧に説明していた。時たま話が脱線するが、その豆知識的な内容も興味を引き、蒼は前のめりになって耳を傾けていた。


「――正規の鬼穿に内蔵されている『自爆装置』だが、これはガス欠や負傷などで戦闘継続が困難になったときに最後の攻撃手段として使う……と一般的には認識されているが、本当の目的は違う。それは、恐怖や苦しみから逃れるためだ」


 白河瀬がニヒルな笑みを浮かべて物々しく語るが、蒼はその意味がよく分からず首を傾げる。


「獣鬼に生きたまま喰われるという恐怖だ。生きたまま体中の肉を食いちぎられるのは、さぞ痛いだろうなぁ」


「ひっ……」


 生徒たちに戦慄が走る。間抜けな悲鳴を上げたのは『村田太郎むらたたろう』。ややふくよかな体型で眼鏡をかけており、座学の成績はクラスでも一番良い。その分、運動神経は悪く鬼穿の摸擬戦ではものの数十秒で気絶したぐらいだ。

 白河瀬は生徒たちを想定以上に怯えさせてしまったことに気付き苦笑した。


「悪い悪い。そんな脅かすつもりはなかったんだ。あともう一つ目的があってな。それは、自分が鬼化して仲間を襲ったりしないようにするためだ。仲間を救うために自分の身を挺して最後の一撃を見舞う。どうだ? カッコいいだろ?」


 周囲の生徒たちは納得したように真剣な表情で頷いている。しかし、蒼は内心納得できなかった。自分がそうすれば苦しまずにスッキリ死ねるのかもしれない。だが、仲間がそんな状況に陥ったとき、自爆装置など使わずに生き抜いて欲しいと思うのは偽善なのだろうか。蒼はそんな疑問を抱きながらも、また不用意な発言でバッシングを受けるまいと心に留めた。

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