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蠱毒の鬼 -シンギュラリティオブオーガ-  作者: 高美濃四間
第四章 少年の反撃
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進化した鬼穿

「いいか貴様らぁ、何度でも言うぞ。甘さは捨てろ! 獣鬼に言葉は通じないし、待ってもくれない。つまり、私がここで貴様たちに情けをかけるたび、戦場で貴様らの死ぬ確率が上がるというわけだ!」


 学校跡地の校庭に鬼の形相で仁王立ちし、厳しい現実を突きつけている女はムサシの戦術講師『高塚有紗たかつかありさ』だ。鍛えられた筋肉に短髪で全身から強烈な覇気を放っている。まるで女剣闘士だ。

 現代で言う『ムサシ』とは国家防災局直轄の武装組織。災害以前は民間警備会社として名を馳せていたが、災害後『獣鬼』対策の中枢として機能するため、各地の企業や法人と統合し、今では国お抱えの軍隊と化した。この中には自衛隊も含まれているが故に、事実上日本を獣鬼の脅威から守る唯一の国防組織となる。

 蒼が故郷と呼べる町を奪われてから約二ヵ月。蒼はこの街へ来てすぐに出会った高塚に連れられ、ムサシの訓練校へと加入させられていた。それもやむを得ない。行く当てもなかった蒼にとって、訓練校の寮に住めるという最高の条件を逃すわけにはいかなかったのだ。もちろん、高塚も善意で蒼を訓練校へ入れたわけではなく、慢性的な人手不足を解消させるためだった。最前線で獣鬼と対峙するムサシの死亡者数は、留まることを知らない。


「よーし、全員整列!」


 高塚の一声で校庭のトラックを走っていた訓練生たちが中央に集まり整列する。その数は二十人ほどで二十代前後の男女が入り混じっていた。皆、無地で黒の半袖Tシャツに、迷彩柄でグレーのズボンを履いており、その中には蒼の姿もあった。


「では、本日より対獣鬼用機動強化兵装『鬼穿きせん』を使った実習を開始する」


 訓練生たちは高塚の背後に転がっている複数のコンテナへ目を向けた。

 対獣鬼用機動強化兵装『鬼穿』。蒼も何度か講義で教わっていた。

 災害以前は、ムサシの特殊グループ第十班『飛鳥』で試運用されていたが、災害発生後の人類の危機に際し優先的に研究、改良が進められ、ついに量産化が成功した。設計当時のあまりに複雑な操作性は改善され、それを用いた戦術についても体系化されている。

 それにより、訓練を受けた戦闘員であれば扱うことが可能となり、獣鬼の脅威に対抗し得るまでに至った。


「伊黒っ! なにをぼさっとしているかぁっ!」


 高塚の怒声が蒼の耳をつんざく。他の訓練生たちは既にコンテナの前で鬼穿を受け取っていた。蒼は慌てて返事をすると、自分もコンテナから出された鬼穿を指導員から受け取る。


「では、講義で教えたように装着しろ。分からないことがあればテキストを見ろ。それでも分からなければ……名乗り出ろ」


 一瞬、その場に戦慄が走った。皆、一様にこう思ったことだろう。「え? 名乗り出たら、なにされるの?」と。しかし、皆鬼教官が怖くてなにも言えない。

 蒼はビクビクと怯えながらも、鬼穿のパーツを装着していく。

 まず頭部。ワイヤレスのインカムのみ、片耳に装着する。戦闘中はバーニアの噴射音で地声がかき消されるため、これによって通信を行う。

 次に腕部。両腕に白の機械的な籠手を装着する。表面の装甲をスライドすると、複数のボタンが現れ、それによって腰に装着するバーニアと補助用の噴射ブーツの操作ができる。操作性について主に改良された点はこれだ。従来のものは、腰のバーニア側面にボタンがついており、戦闘中の操作が困難を極めた。それを左右の籠手にも追加することで操作の幅が広がった。

 次に最も重要な腰のバーニア。黒のベルトの左右に、折り畳んだバズーカのような四角の噴射機構が装着されている。この機構は、背面噴射と対地噴射の二種類が可能であり、左右に一本ずつコンバットナイフが内蔵されている。従来は、この出力の調整をその場で臨機応変にいじっていたが、操作性改善のため常に一定出力になるよう、すべて一様に整備されている。さらに、安定感を高めるため、右腰から左肩にかけて、左腰から右肩にかけて黒のベルトをたすき掛けするような仕様になっている。そして、背に回った右肩のベルトには刀の鞘が装着されており、忍者のように背中へ納刀することが可能だ。また、腰に回したベルトの背には、一丁のマシンガンを装着する。

 そして最後に両足。噴射機構付きのメタルブーツだ。右の靴は右側面に、左の靴は左側面に瞬発噴射が可能となっている。これも従来は、噴射角を調整できたが実践での操作が困難であるため、垂直方向に固定し自らの足をひねることで角度を調整する仕様とした。なお、噴射は籠手のボタン一つででき、押した長さに関係なく一定の出力でワンショット噴射される。


「いやぁ、カッコいいけど、先人はよくこんなの使いこなしたなぁ……」


 蒼は小さな声でしみじみと呟く。そう思うのも無理はない。試運用していた『飛鳥第十班長』は、ただでさえ高難度のプロトタイプを難なく操り、獣鬼の進化系である『鬼人』を倒したというのだから。常に不機嫌そうな高塚ですら、その逸話を話しているときは目が輝いていたぐらいだ。

 鬼穿の装着が完了した蒼は、ゆっくりと歩いてみる。各部のパーツがずっしりと重くガチャガチャと機械の擦れる音が響き、まるで自分が人型ロボットにでもなったかのようだ。辺りを見回すと、他の訓練生たちも目を輝かせ嬉しそうにバーニアや籠手を眺めている。


「よし、全員問題なく装着できたようだな。実際の出撃時は一丁のマシンガンと一本の剣が配備される。こいつを使いこなせば、獣鬼を比較安全に狩ることができ、大量の獣鬼に囲まれても逃げ切ることが可能だ。ちなみに、今回の訓練用鬼穿には取り付けていないが、正規品には自爆装置が付いている。自分もろとも半径数メートルを消し飛ばすから、間違えて押さないようにな」


 高塚は二ヤァと意地の悪い笑みを浮かべる。蒼は間違えて押してしまったときのことを想像して顔を青ざめた。

 高塚は一通り鬼穿について説明すると、実習を始めた。インカムによる通信テスト、籠手の操作器による噴射、挙動の確認などだ。

 結果は散々だった。

 バーニアの噴射音で腰を抜かして高塚に蹴り飛ばされ、補助ブーツの噴射角を上手く調整できず他の訓練生に激突し、バーニアのスピードが想像以上に早くて校舎の壁に衝突し鼻血を吹き出すなど、どの訓練生も鬼穿の性能に振り回された。その度に高塚の怒声が響く。後方に控えている戦術指導員たちも心配そうに見ていた。


「ダメだ……こんなの使いこなせない――」


 蒼は、悲壮感を漂わせ膝と手を地につき、鬼穿の性能に驚愕すると共にその操作の困難さに絶望するのだった。

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