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蠱毒の鬼 -シンギュラリティオブオーガ-  作者: 高美濃四間
第一章 鬼の能力者たち
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獣鬼の習性

 下月良斗しもつきりょうとは、どこにでもいる小学4年生だ。活発な性格で、国語や算数よりも体育の授業が好きな男の子。学校が休みの土曜日や日曜日はよく友達と遊んでいる。


「――なんで信じてくれないの……」


 しかしその日ばかりは、家から歩いて十分ほどの距離にある河川敷で、一人寂しく膝を抱えて川の流れを眺めていた。


 ――事の発端は二日前の夜。


 遠くまで遊びに行っていた良斗が住宅街に差し掛かったときには、辺りは井戸の底のように暗くなっていた。

 街路灯を頼りに歩いていたが路地裏の方でなにかの物音を聞き好奇心に任せ近づいていくと、路地裏にいたのは人だった。スーパーマンのように大きな体で、隠された筋肉がスーツをこれでもかというぐらい押し上げている異様な体格。

 しかし、良斗はその横顔に見覚えがあった。男は通学路でよく見かける中年のサラリーマンだったのだ。しかし、良斗の記憶にあるサラリーマンの細身な体とは似ても似つかない。

 良斗は衝撃を受け、一目散にその場を離れた。まるで見てはいけないものを見てしまったかのように感じたからだ。

 翌日、良斗は人間が変身する姿を見たと学校で言いふらした。もちろん誰も信じてくれない。それどころか良斗もむきになって強く言うものだから、友達とは喧嘩したきり休みに入ってしまったのだった――


「――はぁ。やっぱり見間違いだったのかなぁ」


 良斗がスマートフォンを確認すると、もう昼だった。

 川の流れを眺めるのに飽きた良斗は、昼ご飯を食べようと自宅へ歩き出す。


「……ん? あっ!」


 良斗は思わず声を上げた。

 橋の向こうに、悩みの種であるサラリーマンを見つけたから。

 あの夜のことを聞こうかと考えるが思い止まる。

 彼が姿を変えたときに写真を撮ればみんな信じてくれるのではないか。そう考え後を追うことにした。



 ――場所は変わり、庶民的な中華料理店。

 光汰は半鬼狼の一員『平雅人たいらまさと』と一緒に食事をしていた。胃の痛みをキリキリと感じながら。

 雅人は、厳つい顔で大柄なためグリズリーを連想させる。さらに荒っぽい言動や所作は、光汰に喋ることを許さなかった。


 ――影仁だけじゃなくて、別の人から教わるのも視野を広げるのに重要だよ――


 光汰の脳裏に桐崎の言葉が蘇る。

 桐崎は雅人が関西から帰って来るなり、光汰のことを話し色々と教えてやってほしいと頼み込んだのだった。

 期待に胸を膨らませていた光汰だったが、それはすぐに絶望へ変わり、終始無言のまま昼食を終え店を出る。


「す、すみません。ご馳走さまでした……」


「ったくよぉ……なんで俺が休日に、新人の面倒を見なきゃいけねぇんだ」


 雅人は財布をミリタリージャケットのポケットにしまうと、その厳つい顔に皺を作った。いかにもラグビー部ですといった筋肉質な体格に少々乱暴な言葉遣いもあって迫力がある。とはいえ、二十二歳の社会人だ。工事現場で働いている。

 光汰は頼りなさげな弱々しい笑みを浮かべた。


「す、すみません。桐崎さんから……」


「あぁ、分かってる。みなまで言うな」


 雅人はぶっきらぼうに言い捨てると、店の駐車場に停めていた愛車に乗り込んた。


「なんだ。乗らねぇのか」


「え? あっ乗ります乗りますっ」


 光汰は慌てて助手席に乗り込む。雅人は特に光汰へ目を向けることなく車を発進させた。


「今からちょっと用事があんだ。付き合え」


「あ、はい――」


(――帰りてぇぇぇぇぇ)


 光汰は心の中で泣いていた。

 ここまでまともな会話はほとんどない。

 早く半鬼狼の戦力になりたいと思っていた光汰だったが、今だけはもう辞めたいとさえ思っていた。


「……そういや獣鬼のことはどれだけ知ってんだ?」


 雅人から急に獣鬼の話題をふられ光汰は困惑する。

 しかしなにも答えなければ後が怖いので、光汰は知っていることを話した。


「えっと……白目で筋肉は肥大化して夜に出没するとか、身体能力は人間を遥かに超えるとか、人間を食べるとかですかね」


「中途半端な情報だな」


 車を赤信号で止めると、雅人は車窓から賑わう繁華街を眺める。


「まず、外見の変化と身体能力については、個体によって大きく異なる。お前の知る見た目は、多くの個体に当てはまるが全てじゃない」


 光汰は目を丸くした。内容にではない。雅人がちゃんと教育をしようとしていることにだ。


「それから……って、お前なんで楽しそうなんだ」


「いやぁ……雅人さんのこと誤解してました。最初はヤクザかと思ってましたから」


 光汰は安心しきったようにほっと息をつく。自分の失言に微塵も気づいていないようだ。

 雅人がドスの効いた声を発した。


「てめぇ、つぶすぞ」


「え? ひぃっ。ご、ごめんなさい……」


 雅人に睨まれ、光汰の胃は再び悲鳴を上げた。 車内は気まずいまま車は走り続ける。


 彼らが向かっていたのは郊外にある墓地だった。

 雅人は知人の墓参りを済ませると、所在なさげに立ち尽くしていた光汰に問いかける。


「そういや、外には獣鬼らしき奴はいなかったか?」


 光汰はよく意味が分からず首をかしげる。


「はい? いや今は昼だからいるわけないと思いますけど……」


「お前バカか。奴ら、日中は土に潜っているとでも思ってんのか」


 雅人が声を荒げたことに驚きながら光汰は周囲を見渡す。一般人が聞いていないことを確認すると光汰は再び首をかしげた。


「あれ? 確かに言われてみれば、あいつら夜以外はどうしてるんだろう……」


「んなことも知らねぇのか。ったく……獣鬼ってのは狡猾でな。昼は社会に溶け込む。とは言っても、不審がられないように外をずっと歩き回るんだ。そのときは筋肉の隆起もないし、目だって白目じゃなくて虚ろな瞳になってる。だから見つけるのが難しいんだよ」


「えぇっ!? そんなの初めて聞きました!」


 目を見開いて驚きの声を上げる光汰に背を向け、雅人は車の方へ歩いていく。


「……ちっ。桐崎と影仁の野郎、教育が面倒になって俺に押し付けたんじゃねぇだろうなぁ――」

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