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蠱毒の鬼 -シンギュラリティオブオーガ-  作者: 高美濃四間
最終章 シンギュラリティ
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三度目の正直

 二人が建屋の屋上へ向かって行った後、薫はクスクスと可笑しそうに笑っていた。一部始終を黙って見守っていた雅人がようやく口を開く。


「なんだあいつ。全然変わってないじゃねぇか」


「ええ。まったく、素直じゃないんだから」


 薫は柔らかく微笑みながら、腰の細剣を抜く。雅人も建屋の入口へ目を向け、右の拳を握りしめる。


「じゃあ、俺たちも行くぞ!」


「はい!」


 二人は別々の方向へ目を向け地を蹴った。


「――オラアァァァァァ!」


 雅人は雄叫びと共に右腕を突き出す。建屋と外を隔てていた鋼鉄製の扉は一撃で吹き飛び、その先にいた獣鬼を押し潰す。

 雅人は久々の殺伐とした感覚に二ヤリと獰猛な笑みを浮かべ、敵地へと足を踏み入れた。


「……邪魔するぜ」


 建屋の奥からウジャウジャと獣鬼たちが湧いて来る。しかし、今は相手にしている暇はない。


「影仁、蓄電池ってのはどこだ?」


『……そこをまっすぐ進むと、右手に頑丈な扉がある。それを破壊し、進んですぐにある階段を降りるんだ。地下二階に降りれば、後はひたすらまっすぐ進め。目の前の扉も壁も全て壊してな』


「へっ、分かりやすくていいな」


 雅人は影仁の指示通り、バーニアを噴射しまっすぐ進む。前方から駆け寄って来る獣鬼は、腕を棍棒のように振るい一撃のもとに粉砕していく。やがて分岐点に到着し右手の扉を破壊して階段を降りた。

 地下二階の通路に出ると、既に前方と後方を獣鬼たちに囲まれていた。


「待ち伏せか。意外と頭いいんだな? 雑魚ども」


 雅人は左で背の双戦斧を抜くと、肩に担ぎ右腕を胸の前へ。


「アァァァ!」


 背後から獣鬼が迫るがしかし、超重量な斧の錆となる。今度は前方から飛び掛かって来るが、雅人は旋回しつつ斧を振り回し近寄らせない。


「オラオラ!」


 近寄る獣鬼は次々と薙ぎ払い、討ち漏らした個体が飛び掛かってくるが、右手で頭を掴み握りつぶす。まさしく無双。右の鉄槌と左の戦斧に死角はない。

 敵の数が減って来た頃、雅人は目の前の獣鬼の顔面を鷲掴みにしバーニアを噴射する。


 バシュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!


 その個体を盾とし、前方の敵ごと強引に押し進んでいく。


「はあぁぁぁぁぁ!」


 噴射出力全開で突撃し鉄製の扉を突き破る。ボロ雑巾のようになった獣鬼を投げ捨て周囲を見回すと、そこは空調設備の部屋だった。複数の大型ファンがモーターに接続され回っており、そのファンの行先はダクトに繋がっている。


『制御室の換気ファンは破壊しておけ。モーターだけでいい』


「了解!」


 雅人は次から次へとファンモーターを殴り飛ばし、設備を破壊していく。その間、室内にいた獣鬼たちはその飛来物に巻き込まれて潰れ、部屋が瞬く間に赤く染まっていった。


「よし次!」


『その部屋をまっすぐ進め。大容量蓄電池はすぐそこだ』


「了解!」


 雅人は再び進み始める。雅人の目的は蓄電池の破壊または所内へ供給している電線の切断だ。そうすれば、鬼脳が朝まで活動を停止する。

 雅人は推力走行で進みながら己の右腕を見る。


(今度こそ……この右腕で蒼を助けてやる)


 雅人は思い出していた。鬼の右腕を手にする前、親友を失ったときの後悔を。そして、光汰を失った十五年前の激しい後悔を。もう二度と悔いを残さないため、これが三度目の正直だ。

 前を向くと前方に大きな扉が見えた。雅人は右腕にありったけの力と熱を込め、


「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


 扉を粉砕した。

 中に入るとひんやり涼しかった。雅人の前方、部屋の奥には、白いボックスに納められた全長三メートルほどの蓄電池が大量に並んでいる。その下から太い電源ケーブルが伸び、一か所で束ねられ室外へと繋がっている。

 雅人がそのスケールに圧倒されていると、インカムから影仁の切迫した声が響いた。


『……雅人! 聞こえているか!? すぐにそこを離れろ!』


「あ? なんだ急に。ここまで来て引けるかよ」


 雅人は訳が分からず眉をしかめる。しかし目の前に並んだ獣鬼たちを見て、すぐに影仁の焦りの理由を悟った。


「ちぃっ!」


 雅人が死を覚悟したその直後、無数の銃声が室内に響いた。

 

 一方、薫は順調に制御室へ迫っていた。制御室にあるメインコンピュータを破壊すれば、鬼脳は停止し、全世界の獣鬼は活動を停止する。そうすれば、ようやくこの長い悪夢とおさらばだ。

 薫の進行方向、通路の前方、数十体の獣鬼が駆けてきた。

 薫は無心で目を細め、


「はっ!」


 強く地を蹴った直後、多数の首が宙を舞う。

 まさしく閃光。あまりのスピードに、それを千里鬼眼で共有して分かるのは、光が視界を横切ったというだけだ。薫は息をつく暇も与えず、連続で切り払う。

 数秒後、薫がゆっくりと息を吐き、背後を振り向くと視界に広がるのは死屍累々。何事もなかったかのように静寂があるだけだ。

 薫は悲しげに眉尻を下げると、前を向き走り出した。


(早く終わらせないと。もうこれ以上、誰かが泣かないために。そのために、私は再びこの脚で進んでいるんだから)


 薫は剣をギュッと握りしめる。その心は何年経とうとも、優しさを失わない。

 やがて、制御室と思われる部屋の前まで到達した。行く手を阻むのは、横にカードリーダー式のコントロールパネルが備えられた頑強な水密扉。

 薫は息を呑み、緊張に手元を震わせながら一歩前へ進む。

 そのとき――


『――ダダダダダダダダダダダッ!』


 インカムから銃声が響いた。先ほどの雅人と影仁のやりとりを聞いていた薫は、最悪の事態を想像し背筋が凍りつく。


「ま、雅人さん! なにがあったんですか!? 返事してください!」


 薫は必死に呼びかけるが、雅人から返事がない。代わりに影仁から切羽詰まった声が届く。


『薫! お前だけでも逃げ――』


「――え?」


 薫は目を見開いていた。突然、背中と腹部に衝撃が走ったから。直後、ここでも無数の銃声が上がった。

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