最終決戦
それから数十分後、蒼、雅人、薫、由夢の四人は福岡の海沿いにある集落のメガソーラー発電所まで来ていた。海上に浮かんだ巨大なソーラーパネルは日が沈んだ今、発電を止め、夜は所の地下にある大容量蓄電池の放電によって電気を賄っていた。
ムサシ率いる戦闘部隊が今まさに東京で最後の戦いに臨んでいるというのに、彼らはなぜここにいるのか。それは、ここが大山志郎の研究施設――つまり、獣鬼たちの『本拠地』に他ならないからだ。
まず蒼は、影仁が雅人に頼み呼び集められた元半鬼狼のメンバーたちとすぐに山梨を出て九州の敵本拠地へ向かった。その間に影仁は、ムサシの上層部へオニノトキシンの真相を暴露し、AIの本体『鬼脳』の警戒対象を蒼からムサシ本部へ向けさせる。さらに、敵の本拠地を偽り大都市を襲撃させることで、獣鬼をそちらに集中させる。大都市を獣鬼たちが重点的に守る理由は、彼らが新技術を開発して反撃してこないようにするためのようだ。
ここまで来ればもう、蒼たちは千里鬼眼の監視から逃れ、九州へ秘密裏に近づくことができた。なぜなら彼らは半人半鬼。オニノトキシンが脳ではなく欠損部位に住み着いている者たちだ。もちろん、進行方向上で誰かに見られればバレるが、まず関西ぐらいまでであればただのムサシ社員にしか見えないから問題ない。
問題は九州に近づいてきた頃だ。さすがに滅んだ九州に近づく者がいれば警戒されるだろう。そこで影仁の千里鬼眼を使い、蒼たちの位置を正確に把握しつつそのルートへ目を向けている獣鬼がいれば、由夢に狙撃させる。
結果、作戦は上手く進み新生半鬼狼は敵の本拠地へと辿り着いたのだった。彼らは今、発電所の各設備が設置されている建屋の前の草むらに身を潜めている。この建屋内には緊急時の消火系設備や電源供給設備、各機器の保管庫などがあるが、目標は制御室だ。大山志郎の研究設備はここにあり、再生可能エネルギーの供給を得てビッグデータの解析や研究を行うことができるのだ。
「――準備はいいか?」
雅人が声量を抑え三人を見回す。蒼、薫、由夢は緊張した面持ちで頷いた。
蒼は、鬼穿『阿修羅-改』を装備し、背に二刀と偃月刀を背負っていた。
雅人は『金剛-壱式』で、背に双戦斧を一本背負っている。他に武器はない。しかし鬼の右腕がある今、斧の出番があるかは怪しいが。
薫は細剣のみで鬼穿を使ったことはないため装備していない。もっとも、鬼穿がなくとも同等の速度を発揮できる脚がある。
由夢も鬼穿は装備しておらず、スナイパーライフルを両腕に抱え紐を首にかけている。
雅人は、インカム越しに影仁へ作戦の開始を告げる。影仁の方からは銃声や噴射音、人の悲鳴などが聞こえてくる。彼は今、東京で戦いながら蒼たちのサポートをしているのだ。
『……了解した。屋上の獣鬼は四体だ。上空から狙撃すれば、目視される前に片が付く。その後、すぐに他の個体が階段を上って来るから気を付けろ』
「了解。よし、行って来いお前ら!」
蒼は頷くと左手を操作器に添え、右手を由夢へ差し出した。その頬はほんのりと赤い。
由夢は渋々といった苦い表情で蒼の正面から首に手を回し、彼の腕に体重を預ける。いわゆるお姫様抱っこだ。
「ちょっとっ、どこ触ってるのよこの変態!」
由夢が蒼の腕の中でもぞもぞと動き、キッと睨みつけた。
「す、すみません! 操作器を操作しようとしたら右手にも力が入ってしまって……」
「まったく、あの親にしてこの子ありね」
「え? 父も由夢さんになにか失礼を?」
「それは……」
由夢は言いずらそうに目線を落とす。それを見かねた薫が口を挟んだ。
「ちょっと由夢? 我慢なさい。今は騒いでる場合じゃないでしょ?」
「分かってるわよ。この子があいつに似てたから、無性に腹が立っただけ」
「や、やっぱり父がなにか……」
蒼が顔を青ざめるが、由夢はぷいっとそっぽを向いた。
「もういいわよ! 早く飛んで」
蒼は慌てて頷き、対地噴射を始める。
飛ぶ寸前――
「……あいつみたいに死んだりしたら許さないから……」
由夢の呟きは、蒼には聞こえなかった。
すぐに二人は上空へ飛び上がり、ものの数秒で建屋の屋上へ到達する。床面から十メートルほどの高さで滞空して下を見下ろすと、真っ平らな平面に獣鬼が四体。影仁の情報通りだ。
由夢が首にかけていたライフルを両手で持ち、この体勢で狙える二体の頭を順番に撃ち抜いた。蒼は感嘆し思わず呟く。
「す、凄い……」
「早く高度を落として!」
「は、はい! ……ってちょっとっ!?」
蒼が断続噴射で高度を落としている途中、床面から五メートルほどの高さまで下がったところで由夢が蒼の胸を押しのけ、身を投げ出した。
「あなたはさっさと行きなさい!」
叫んだ由夢は、空中で体を地面と水平に保ちライフルを構えると残る二体の頭部を寸分違わず撃ち抜く。そして着地時になんとか転がり衝撃を分散させた。
蒼の姿が見えなくなり、由夢がその場で息を整えていると階段の扉がバタンと開いた。中から無数の獣鬼が出てくる。
「ふぅ、二度と影仁さんに会えないと思ってたけど、最後に声だけでも聞けて良かったわ。それにあいつの息子も……」
由夢は言いかけて口を閉じ、強い敵意とライフルの銃口を湧いて出た獣鬼たちへ向け、狙いをつける。獣鬼たちは、由夢の姿を捉えると一斉に駆け出した。




