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蠱毒の鬼 -シンギュラリティオブオーガ-  作者: 高美濃四間
第八章 最後の鬼人
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半鬼狼

 蒼は都心部に到着したものの、戦況は最悪だった。辺り一帯に獣鬼が溢れかえり、多すぎてむしろ橋の上から川へ落ちている個体もいるほどだ。その橋の先では、移動式照明の光に照らされ、悠哉がたった一人で戦っていた。


「内村主任!」


 蒼はバーニアの残量を全て使い、獣鬼たちの頭上を飛んだ。彼を捕まえようと跳ぶ個体もいたが、大型バーニアの速度には届かない。

 着地点にいる獣鬼を切り伏せると、マシンガンを悠哉の周囲へ乱射した。


「君はっ、伊黒蒼か!」


「はい! 飛鳥四班、伊黒蒼です。他班と合流し、鬼人を探索するよう命を受けました」


「見ての通り、うちも全滅で鬼人探索どころじゃない。このままではいずれ……だが最後まで希望を捨てるな」


「っ! ……俺は、必ず生き延びてみせます」


 蒼は燃料が空になった腰のバーニアを捨て、両手に剣を構える。それは決して自爆などしないという意志表示だった。


「ふっ、面白い男だ」


 悠哉は一瞬頬を緩めると、蒼と背中合わせになり、迫りくる獣鬼たちを蹴散らしていく。

 蒼は並外れた身体能力を活かし、力任せに獣鬼を叩き斬る。目の前の個体を思い切り蹴り飛ばし、獣鬼の群れをドミノ倒しのように蹴散らす。

 悠哉は最小限の動きで俊敏に獣鬼の首を刎ね、胸を穿ち、確実に数を減らしていく。蒼が背後で暴れまわっているおかげで、格段に動きやすくなった。

 しかし、いつになっても減らない敵の数に押され始め、二人は再び背をぶつける。


「私たち以外、全滅したんじゃないだろうな?」


「そ、そんなこと……」


 彼らの周囲は瞬く間に獣鬼で埋め尽くされていた。獣鬼の中には、明らかに日本人ではない風貌の者も多数いた。


「まさか、海を渡って来たのか……」


「ただ在日していただけかもしれません」


「確認のしようはないな。それにしても、どうやって切り抜けるか」


 絶対絶命の状況に悠哉は冷や汗を流す。必死に脳をフル回転させるが打開策が思い浮かばない。蒼も顔をグシャッと歪め、獣鬼たちを憎々しげに睨みつける。


「俺はっ、こんなところで死ぬわけにいかない……」


 両手の剣を握りしめ覚悟を決めた、そのとき――


「――なんだあれはっ!?」


 悠哉が驚愕の声を上げた。蒼も悠哉の視線の先を見ると、十数メートル先で血飛沫が上がっていたのだ。それも連続で絶え間なく。その謎の現象はとてつもない速度で蒼たちの元へと迫り――


「――っ! 蒼!」


「しまっ!」


 蒼は、その光景に目を奪われてしまっていたために反応が遅れた。目前には獣鬼の獰猛な牙が迫っていた。しかし、もうなにをしようとも間に合わない。


 ――ヒュゥンッ!


 蒼の背後から投擲された刃が正確無比に獣鬼の胸へと突き刺さる。獣鬼は活動を停止し仰向けに倒れた。獣鬼の胸に刺さっていたそれは『薙刀』だった。

 蒼がそれの飛んできた方を見ると、一つの人影が近くの屋根に上に降り立った。それは、全身黒ずくめで両手には血まみれの剣を持ち、蒼たちをただ見下ろしていた。その顔を見た蒼が呟く。


「半分が人、半分が鬼の仮面……」


「嘘、だろ……あれはまさか!?」


 悠哉が驚愕と興奮の入り混じった声を上げる。

 その人影は屋根を蹴り、一直線に蒼たちの元へと飛来した――


「――これで約束は果たしたぞ」


 瞬く間に蒼の目前へと着地した仮面の男は、抑揚のない声で呟くと消えた。否、地を蹴ったのだ。蒼の目の前で風を切る音が響き渡り、次々獣鬼たちが倒れていく。あまりにも速すぎた。蒼と悠哉には残像を捉えるので精一杯だ。

 蒼は目の前の光景を唖然と見渡しながら口を開く。


「……内村主任、まさかあれが……」


「鬼人、だろうな。それよりもあの仮面……」


 悠哉には引っ掛かっていることがあった。彼の身に着けている仮面は、十五年前に忽然と姿を消した独立武装組織『半鬼狼』のものだ。今になってそれが現れたことに、深い意味を感じずにはいられない。

 二人がその場で固まっていると、上空でバーニアの噴射が響き一人の男が降りてくる。


「おい! 無事か!?」


 雅人だった。背に双戦斧を担ぎ全身に返り血を浴びているが、大きな怪我はなさそうだ。


「平主任か。私と伊黒は無事だ。そっちは?」


「こっちは半分やられたが残りは無事だ。部下たちはもう後退させた。あいつに助けられたおかげだ」


 雅人はそう言って剣を振るい続ける仮面の男へ目を向けた。「ああ」と悠哉は頷き、二人へ指示を出す。


「とにかく今は周囲の獣鬼を倒すぞ。目的の鬼人が見つかったんだ。戦死した味方の鬼穿を使って離脱する。二人とも手を貸してくれ!」


 蒼は悠哉に頷くと左の剣を肩へ納め、獣鬼の胸に突き刺さっていた薙刀を抜く。それを見た雅人が目を見開き瞳を揺らしながら呟いた。


「そいつはまさか……『偃月刀』、なのか?」


「え?」


「いや、なんでもない」


 雅人は目を逸らすと斧を背から抜き、獣鬼たちへと駆け出した。悠哉と蒼もまた別方向へと向かう。


「聞こえるか本部! こちらは飛鳥主任の内村だ。目標の鬼人を捕捉した。現在、探索または交戦中の戦闘員を交代させてくれ」


 本部はすぐに全リーダーへ通達し、現場は戦線離脱を開始した。


 周囲の獣鬼を一掃するのに、大した時間はかからなかった。

 最後の一体にトドメを刺した悠哉は、すぐに鬼人の姿を探す。折角見つかったのに逃げられては意味がない。しかしそれは杞憂だった。彼はなんの感慨も感じさせない佇まいで夜空を見上げていた。


「……影仁」


 先に声を発したのは雅人だった。彼の声色はその性格に似合わない穏やかなもので、ゆっくりと鬼人へ歩み寄る。影仁は雅人へ顔を向けた。


「雅人か」


「久しぶりじゃねぇか。元気そうでなによりだ」


「あんたもな」


 その短いやりとりに満足したのか、雅人は口の端をにぃっと吊り上げた。

 影仁は次に、雅人と悠哉の後ろで緊張に身を強張らせていた蒼を見る。


「……蒼」


「え? なぜ俺の名前を……」


「知らないわけがないだろう。誰が『名付け親』だと思っている」


 影仁から告げられたのは衝撃的な事実。悠哉も雅人も、そして蒼も唖然と絶句している。最初に行動を起したのは悠哉だった。


「待て、それはどういうことだ!?」


 悠哉は、刀を両手で握り下段に構えたまま切っ先を影仁へ向ける。しかし影仁は悠哉に目も向けない。それでも悠哉は続けた。


「とにかく今は、ここを離れるのが先決だ。獣鬼がまたすぐ湧いてくるだろうからな」


「頼む影仁、俺たちと共に来てくれ」


「……条件がある――」


 影仁が悠哉へその条件を告げると、悠哉は逡巡したものの神妙な表情で頷き鬼穿を交換してその場を離脱。雅人も影仁から何事か指示を受け、悠哉の少し後に離脱。そして影仁は蒼を連れ、都市の外れへと移動するのだった。

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