降り注ぐ獣鬼
しばらくして、大きな倉庫が並ぶ区域へ到着した。地上で戦っている戦闘員たちは、トラックに積んだ物資を守りながら四方八方を囲む獣鬼へ銃を乱射していた。
「よしいくぞ!」
リーダーの叫びと共に飛鳥四班の五人は、彼らの元へと降り立つ。
班員たちはトラックの防衛に回り、四班のリーダーは補給班のリーダーに状況説明を求めた。
「なぜこんなところまで後退している? これでは肝心の燃料や弾薬も他の戦闘員たちへ補充できないだろう」
「仕方ないんだ。奴らの数が想像以上に多かったんだから。他の班とは分断されて仲間は次々にやられていった」
「なに? 昼間のうちに倒しておかなかったのか?」
「それが奴ら、隠れてやがったんだ。街のいたるところにな。それも建物に入ってすぐの床とかそんなんじゃない。ベッドの下だとか、車のトランクの中とか、物置とか、そんなんだぜ? 他の班がそれを見つけて報告してくれたが、既に夕方だったんだよ」
「ちっ、また待ち伏せか。分かった。とにかく他の班と合流できるように退路を開く。伊黒と清河は左側面の獣鬼を、他全員はトラックへ迫る獣鬼を蹴散らせ」
蒼と清河は獣鬼の群れへと飛び出した。
「やれるか? 蒼」
「はい!」
蒼は短く答えると背面噴射しつつ地を蹴り宙を舞う。噴射を止め自由落下しながらマシンガンを乱射し、獣鬼たちを撃ち抜いていく。
「はぁぁぁ!」
右で剣を抜くと逆手に持ち、柄の操作器でバーニアを噴射し地上の獣鬼へ突進する。そして、数メートルの距離まで近づくと、足を捻りブーツの噴射で旋回。着地点の周囲にいた獣鬼たちへ華麗な回転斬りを見舞う。蒼が着地すると同時に六体の獣鬼の首が宙を飛んだ。大型バーニアの残圧があるからこその芸当だ。
「凄いな……さすが、内村さんが見込んだだけのことはある」
清河は呟きつつ剣を振るい、一体一体を素早く確実に仕留めていく。
二人の活躍により、退路が瞬く間に開いていく。
『よしいいぞ二人共! こちらも後退する』
リーダーと共にトラックが動き出し、蒼と清河が築いた死骸の道を越えていく。
蒼はさらに先へと、二刀で斬り進んでいく。
「はぁっ!」
まるで鬼神の如く。舞を舞うかのように軽々と振るわれる二本の刃は、周囲のものを全て切り裂く。今の蒼には本来の鬼穿操作技術に加え、新型鬼穿の性能もあるから隙がない。
――ブォン! ブォォォンッ!
断続的に大きな噴射音を響かせ、暴風のように戦場を駆け巡る。
しかし、その後ろはまだついて来られず、蒼とトラックとの間で大きく距離が開いていた。蒼とトラックの中間位置を維持していた清河が叫ぶ。
「蒼、先行しすぎだ! 少し下がれ!」
「はい!」
蒼は返事をしながらも、左右の獣鬼二体の胸へ刃を突き刺し振り向いた。
そのとき――
――ガシャァァァァァンッ!
後方からガラスが一斉に割れる破砕音が響いた。
蒼が弾かれたように振り向き頭上を見上げると、多数の高層ビルから獣鬼たちが飛び出していた。
「……っ!」
蒼は目を見開く。以前にも見た光景だ。訓練生時代、獣鬼の大群がマンションから飛び降りて来たときと同じ。奴らは四方へと大きく跳び、こちら側にもトラックの頭上から蒼の頭上まで縦一列に迫っている。
「くそっ!」
蒼はバーニア全開で前へ。トラックへ戻るのが間に合わない距離だと判断した。前方の獣鬼が目前まで迫ると、地を強く蹴り宙へ身を投げる。そして瞬発噴射によって、横へと飛び建物の二階へと窓を突き破り飛び込む。
「ぐっ、うぅぅぅぅぅ!」
蒼の体は勢い余って室内の机や椅子にぶつかり壊していく。数メートルの床を全身で擦ってようやく止まった。
「……けほっ、けほっ!」
『……伊黒、無事か?』
インカムから清河の声が響き、蒼は痛みに耐えながら上体を起こした。しかし目の前は真っ暗だ。ここからでは外の様子も見えない。
「……なんとか無事です。そちらは?」
『皆、なんとか無事だけど、そっちへ進むのは諦めざるをえない。俺たちは別の道を探すから、君はそのまま前進して西へ迎え。山梨勢か群馬勢が戦っているはずだから、彼らと合流して鬼人を見つけるんだ。いいな?』
「分かりました」
「それと、なにがあろうと絶対に戻って来るなよ?」
「……は、はい?」
「分かったらすぐに行けぇ!」
清河の怒鳴り声を最後に通信が途切れた。蒼は今の不自然なやりとりを不審に思いながらも、建物の反対側の窓を割って飛び出る。そのまま狭い路地に着地し、高層ビルの立ち並ぶ都心の方角へと駆け出した。
蒼が走り出してすぐに、後方で複数の爆発音が響いた。
「くっ!」
蒼がよく知っている音だった。鬼穿の自爆音だ。それでも、蒼は止まらず、希望を求めてがむしゃらに走り抜けた。




