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蠱毒の鬼 -シンギュラリティオブオーガ-  作者: 高美濃四間
第八章 最後の鬼人
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清悟の意志を継ぐ男

 教団が壊滅してから三日後、即鉄の一階会議室でムサシ上層部による作戦会議が開かれた。正方形に並べられた長机に、ムサシ上層部の人間たちが重苦しい面持ちで座っている。

 生物災害対策本部長、調査部長、兵科管理部長、山梨支社長、広報担当次長、試験運用G長など、早々たる顔ぶれだ。その中には飛鳥の新たなG長である萱野の姿もあった。上層部の会議において、G長クラスで出席が認められているのは、試験運用グループと飛鳥ぐらいのものだ。その二人以外は、次長以上となっている。


「教団が壊滅したのは吉報だが、被害が大きすぎる」


「ええ。各拠点の戦力を見ても、これ以上拠点防衛以外に戦闘できる余力が残っていません」


「しかし、それではどうやって獣鬼に立ち向かうんだ? 守るばかりではいずれ、人類が滅ぶぞ」


 各部所の長たちが口早に絶望的な状況を嘆く。そして、そこに調査部長がさらなる絶望を放り込む。


「皆さま、よろしいでしょうか? 我々調査部は最近の獣鬼たちの活発化とその驚異的な増殖について調査してきました。そして、先日の教団壊滅時の獣鬼大量発生を好機と捉えた決死の夜間調査の結果、その原因を突き止めることに成功したのです」


「なに!? それは本当か!?」


「もったいぶらずに話してください」


 お偉方が好奇に目を輝かせ騒ぎ出した。ようやく活路を見いだせたのかと。しかし、調査部長の表情は暗かった。


「獣鬼どもは今、『海を渡ってきています』。おそらく『外国』から」


「なに?」


「待て、それはつまり……」


「考え得る最悪の結末は日本の『周辺諸国が壊滅した』ということです」


 一同が絶句した。それは萱野も例外ではない。


「そんな……我々は一体どれだけの獣鬼と戦わなければならないんだ……」


 兵科管理部長のその呟きに答えられる者はいなかった。調査部長は話を続ける。


「もし、韓国やロシア、フィリピンが未だ健在であったとしても、各国で増殖した獣鬼たちの一部が日本へ向かってきているのは事実です。そして昼間、各拠点の調査課員たちに海へ潜らせたところ、日本海側と太平洋側から数十万規模の獣鬼たちが迫ってきていることが判明しました。奴らは夜になるとその腕力を活かし、海を掻き分けて徐々に日本へ近づいてきています」


「なん、だと……」


 あまりにも絶望的だった。このままでは遠からず日本は壊滅する。


「い、一体どうすれば……」


「そ、そうだ! 西日本側と協力すれば!」


「いやいや、西側とて虫の息でしょうに。それに京都、大阪を境に二分されている以上、戦力の融通などできますまい」


「では彼らに西側を捨て、東側へ来るように命じては?」


「この状況下では無理だ。東側に受け入れる体制が整っていない上に、そんな大人数の移動、近畿で獣鬼の襲撃を受けて全滅だ。敵を増やしてどうする」


 上層部が取り乱している中、萱野が立ち上がった。


「私に考えがあります」


「君は飛鳥の」


「成田清悟の後任で飛鳥の現G長、萱野と申します。皆さまは、先日の教団殲滅戦の報告書を読んでいただけましたでしょうか? その中に成田前G長が得た貴重な情報があったはずです」


「まだ読めていないなぁ」

「忙しくてね」

「ふむ、なんだったかの」


 各次長、部長たちが首を傾げる中、この場のトップである本部長が顔をしかめ口を開いた。


「『最後の鬼人』だったか?」


「はい」


「それが今この状況を打開するのに役立つとでも?」


 本部長は猛禽類のような鋭い眼差しで萱野を見る。


「その通りです。鬼人だった郷田が死の間際、こう言ったそうです。『その鬼人は、オニノトキシンの真実を知り、人類を救うための方法を一人で模索している』と」


 嘘だった。だが萱野はあえて嘘を混ぜることで、上層部を操ろうとしていた。それもこれも人類が生き残るためだと信じて。


「信憑性に欠けるな。だが、もしそうだと仮説を立てた場合、君ならどうする?」


「その鬼人がいる『東京』へ向かいます」


「ほぅ……」


 萱野が答えてすぐに会議室が喧騒に包まれた。


「バカな!? 東京なんて、奴らの巣屈じゃないか! 今まで一度だって東京侵攻が上手くいったことはない」


「そうだ。例え昼間に探索したとしても、かなりの人間を動員しなければならない。他の拠点が手薄になるぞ」


「私もそう思いますね。いくらオニノトキシンの真実を知っていても、獣鬼の街でたった一人を探すなど、無謀すぎます」


 戦いに関しては専門外のはずの他部署の部長、次長たちが豚のように喚き散らす。無言で成り行きを見守っているのは、本部長と兵科管理部長ぐらいのものだ。この程度の反論、萱野も想定していた。彼は、顔を青ざめながら話を逸らそうと必死になっている調査部長へ目を向けた。


「海から迫る獣鬼たちは、あとどれくらいの期間で日本へ上陸するのですか?」


「そ、それは……」


 口ごもる調査部長。そこへ本部長が割り込んだ。


「早く答えんか」


「は、はい。遅くて一か月後、最短で一週間です」


「そ、そんな……」


「人類滅亡まであと一か月だと? どんな三流監督が書いた脚本だ」


 衝撃的な事実に打ちのめされる年寄りたち。しかし、萱野にとっては千載一遇のチャンスだった。


「それを打開できるのが最後の鬼人です。その者からオニノトキシンに関する全ての情報を得て、打開策を練る。それだけが今我々に残された唯一の可能性ではないでしょうか!? なにもできないままジリジリ追いつめられるぐらいであれば、一パーセント未満の可能性であろうと、賭けてみるべきです!」


 萱野がここぞとばかりにまくし立てる。周囲の者たちは皆、自分よりも立場が下の者に気圧されていた。

 本部長が厳かに問う。


「そこまで言うからには、それを成功させる算段はついているのだろうな?」


「もちろんです」


 答えた萱野の頬はかすかに緩んでいた。その問いを待っていたかのようだ。


「本来、教団を殲滅させるために備えていたものを使います。まず、教団襲撃に間に合わなかった他拠点の援軍。次に試験運用グループの飛鳥への統合。そして、新型鬼穿に対抗すべく開発を進め、昨日完成した鬼穿『阿修羅-改』及び回転式機関銃『大蛇砲おろちほう』の実戦投入です」


「なるほど、既に準備は万全だと。これは一杯食わされたな」


 本部長がスキンヘッドの頭部をさすり、二ヤリと薄い笑みを浮かべる。もう、反論しようとする者はいなかった。


「これも全て、成田G長のご意志です。私は引き継いだにすぎません」


 元々、海から獣鬼が迫ってこようとなかろうと、彼は東京を探索するつもりだった。だから、教団が壊滅してもそれまでの下準備を継続させた。この状況はむしろ、その作戦に大義名分が加わる分、好機でしかない。


「ふははははは! 成田を飛鳥のG長に引き上げ、萱野をその下につけた私の判断は大正解だったというわけか。実に痛快!」


 十五年前の鬼人衆討伐戦の際、当時の飛鳥G長を務めていた現本部長は、大声でひとしきり笑うと、瞠目していた者たちへ萱野の案を採用する旨を告げるのだった。

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