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蠱毒の鬼 -シンギュラリティオブオーガ-  作者: 高美濃四間
第八章 最後の鬼人
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最後の鬼人

 その鬼は退廃した大都市の真っ暗な地下通路で、あぐらを掻き静かに目を瞑っていた。

 彼は見ていたのだ。長い間、どんなに苦しくとも悲しくとも決して挫けることなく、戦い続けた男の最期を。遥か遠くのこの地から。

 その男は今まさに、大教会へ押し寄せる獣鬼の大群にたった一人で立ち向かっている。鬼穿の燃料が尽きようとも、体のいたるところを噛み千切られようとも、決して倒れず、瞳の闘志を絶やさず、龍断包丁を振るい続けた。

 そして遂に、体の限界を迎え膝を床に着くと、鬼穿の自爆装置を起動した。


「――見事だった」


 淡々と呟くと、その鬼はゆっくりと目を開け立ち上がった。

 その鋭い視線を左へ向ける。真っ暗な中、なにも見えていないはずだが、彼は遥か遠くを眺めているかのようだった。


「今度こそ約束を果たすぞ、光汰……」


 彼は悲しみを孕んだ声で呟くと、地上へ向かって歩き出した――


 ――――――――――


「……ぅ…………ん」


 蒼が目を開けると、そこは見慣れた病室だった。白い天井に白いカーテン。室内に漂うのは薬剤の独特な匂い。外から入り込む優しい風と静寂は、自分が血に染まった世界の住人であることを忘れさせてくれる。

 蒼はゆっくり上体を起こし、キャスター付きテーブルの上に食事が置いてあることに気付いたが、食欲は湧いてこなかった。


「いつっ……」


 彼は左手の甲の痛みに頬を歪めた。竜道が投擲したナイフに刺された部分だ。そして全てを思い出す。竜道の裏切り、アンドレの自爆、そして……

 蒼は呆然と口を開きながらベッドから降りる。そして、なにかに憑りつかれたような虚ろな瞳で隣のベッドとを仕切るカーテンまで歩いていくと、ゆっくり横へ開けた。


「……あ、ぁぁ……」


 蒼は瞳に涙を浮かべ、その場に両膝をついた。肩を震わせ鼻水をすする。溢れ出す涙が止まらない。


「……良かった……千里、さん……」


 千里は穏やかな寝顔を晒し、静かに寝息を立てていた。掛け布団がかけられ、周りを見ても綺麗に整っていることから、彼女は未だに昏睡状態にあるのだと分かった。だがそれでも、大切な仲間が生きていてくれたことに、蒼は例えようもないほど心中で歓喜する。


「――良かった。目を覚ましたんですね」


 蒼がしばらく床に座り込み泣いていると、病室に二人の女性が入って来た。看護婦とムサシの事務員だ。看護婦は安心したようにやんわりと微笑んだ。すぐに医師を呼び蒼の診察が行う。

 それが終わり快方へ向かっていることが確認されると、ムサシの事務員が現状について簡単に説明する。

 教団は飛鳥との激戦の末、壊滅。教祖である郷田敦彦は、飛鳥G長の成田清悟により倒され、新型鬼穿の三機も使い手である傭兵と共に葬られた。しかし、ムサシ側の被害も甚大だった。清悟を含め四名の飛鳥メンバー、長野勢十二名、群馬勢十五名、福島勢十名、新潟勢三十名の戦闘員たちが命を落とした。加えて、夜になると獣鬼たちが一斉に活発化し、東日本の拠点が複数陥落する事態にまで発展。

 今回の戦いで多数の拠点と戦士を失った人々は、活動領域を狭めることを決意した。守るべき拠点を減らし、拠点間で物資や戦力の融通を図るためだ。


「――以上が現在のムサシの状況です。明日、事務所へ出社してください。技術課長からお話があります」


「分かりました」


 蒼は神妙な表情で頷く。内心、人使いが荒いとは感じたが、今はそれどころではないのだ。蒼も自分の体が普通よりも頑丈にできていることはよく分かっている。早く復帰して戦わなければならない。


(この街を……千里さんを守る)


 事務員が帰った後、蒼は千里の穏やかな寝顔を見て決意を固めるのだった。

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