92話.予感
そんな静寂を破るのは、それを作り出した本人でもあるタケルの声であった。
「さて……
僕との決闘についてですが……」
タケルの言葉にクロムは反射的に身構えた。
自分には理解できない攻撃をするものへの恐怖を無視することができなかったのである。
そしてタケルが続きの言葉を発しないことが、二人を包み込む静寂により一層の緊張感を帯びさせるのだった。
しかしその静寂は、予想外の出来事により破られることになるのだった。
「大変だ!! 親父いるか!!!!!????」
大声を発しながら闘技場の中に一人の少年が走りこんできたのだが、今のこの状況が少年の想像を超える状態であったために、ただただ戸惑うのだった。
「……え?
親父が倒れている……?」
「グレン様、落ち着いてください」
このグレンと呼ばれた少年の登場により先ほどまでの緊迫した空気は一気になくなっていた。
「はぁ……
なんか気が抜けてしまったな、悪いがタケル色々説明してくれ……」
すっかり気の抜けてしまったクロムの様子にタケルは微笑みを浮かべ、まず最初にグレンと呼ばれる少年の自己紹介から始めるのであった。
「こちらにいらっしゃいますグレン様は、獣王ダイン様のご子息であります」
なんとなく察していた内容ではあったが、あのダインに子供が…… と思うと不思議な気持ちがわいてくるクロムなのであった。
その後、グレンに対して自己紹介をしたクロム一行は、先ほどクロムとダインが決闘を行い、クロムが勝利したということを伝えた。
「う、うそだ!!!!
あの親父が負けるわけない!!!!」
「グレン様、受け入れてください。
ダイン様は正式な決闘を行い、負けました」
「……」
グレンは現実を受け入れられないのか、受け入れたくないのか、どっちとも取れない複雑な表情をしながら、ただただ無言でクロムを睨みつけるのであった。
「グレン様、先ほど大変だとおっしゃっておりましたが……
如何なされたのでしょうか?」
タケルは話題を変えつつ、登場時に叫んでいた内容を尋ねることにした。
そして、グレンの口から語られる内容に一同は言葉を失うのであった。
「…… 西岸の港街のミレストンから至急の連絡がさっき来たんだ。
悪魔を名乗る者たち数名に街が占拠されたって……」
グレンの語った<悪魔>という単語を聞いた時、クロムの脳裏にはカイリと話した会話の内容が巡っていた。
そして、クロムはグレンに尋ねるのだった。
「グレンさん、その悪魔たちは何を要求してるのですか?」
「…… 強き者を待つ とだけ言っているらしいです」
その場にいるものたちが理解に苦しんでいる中、クロム一行だけは違っていた。
クロムはダインの元に移動して治療魔術にて治療を始め、カルロとディアナは一旦ルーム内に移動し、それぞれ必要と思うことへの行動を開始していた。
そして、あらかたダインの治療を終えたクロムの隣にはアキナの姿があった。
「クロム、どうせ行くんでしょ?」
「さすがアキナ、理解が早くて助かるよ」
「く、クロムさん?」
クロムたちの迷いの無い動きがタケルの動揺を誘うこととなった。
そして、その真意を尋ねずにはいられなかった。
「簡単な話さ、ダインの治療はほぼ終わったからもうすぐ目を覚ますだろう。
タケルはダインと一緒に最悪の事態に備えて軍備を固めておいてくれ。
俺とアキナはその間にその悪魔を退治してくるわ」
「何を言ってるんですか!!
相手は悪魔ですよ!?
強さも何もわからない状態で……」
「うちの幹部連中も今頃色々動き出してるだろうから大丈夫だよ。
それよりダインに伝言を頼む」
「伝言?」
「悪魔の真意が何であれ……
たぶんダインと真剣に話をする必要があることになると思う……
だから、その準備をしておいてくれとさ」
タケルが返答に困っていると、ミレストンの場所をタケルから聞き出したクロムは言ってくるわとだけ言い残してその場を去るのであった。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「クロムはさ、やっぱりカッコいいよね」
「急になんだよ……」
「悪ぶったりはするけど結局は優しいしさ、今回みたいな判断を当たり前のことのようにできるって、私はすごいことだと思うな」
「買いかぶりすぎだよ……」
クロムが照れて顔を伏せている、アキナはクロムのそんな様子がたまらなく可愛くて好きなのであった。
「…… あ、そうだナビ~」
『なによ……』
「機嫌わるそうなところ悪いんだが…… カロライン王国ってどうなってる?」
『あのあと、勇者様御一行が空城になっている王城を無事奪還してるわよ。
今は少しづつ復興中といったところかしら』
「ナビ、カルロとルーナに指示をだしておいてくれ
―――――――――――――――」
クロムの指示の内容を聞いたアキナとナビは驚きを隠すことができなかった。
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