表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

23/28

第二十二話 好みの違い?

 ティナと町に出てきた。

 こっちの服、城で用意してもらっちゃったな。

 さすがにTシャツハーパンは無理だわ。

 寒すぎる。

 徐々に辺りは暗くなりつつあるな。

 時間で上にある疑似太陽も光量抑えてるんかね。

 今は夕方みたいな感じになってる。

 それでも町の喧騒は変わらない。

 時差みたいなもんだと割り切ればいいだろう。

 こっちに向かってからまともな食事はおにぎりだけだったもんな。

 そういやおみやげの紅芋タルトと適当な沖縄の名産品。

 すっげー喜んでもらったみたいだ。

 最後の最後まで、持ってきたこと忘れてたけどな。

 やばかったわ。

 ティナが『おみやげ』って言ってくれなきゃ渡せなかったし。

 ほんと、できたお嫁さんだよ。

 俺にはもったいないわ。


 あちこちにある看板にある文字。

 確かに日本語じゃないけど、読めるのな。

 ティナが言ってたのって本当だったんだ。

 ってことで『食事処』って書いてある店に入ってみたんだが。

「ティナ」

「でしょ?」

「あぁ。大味すぎて美味くないわ……」

 どれだけ日本の食糧事情が優れているか実感しちまった。

 こんな高級レストランっぽい店でも『食べられれば文句ない』って味付けだもんな。

 盛り付けはたしかに凝ってる。

 使ってる食器も意匠が凝ってて凄いと思うんだけど。

 食材も色がおかしいとかそういうのは全くない。


 あぁ、思い出した。

 沖縄に来たばかりのときの魚料理、あのときと似てる。

 海水温が一年を通して二十度を下回らないから、脂がのってなくて味気ない感じだったし。

 だから油で揚げるか、バター焼き、後は塩味の煮物が多い。

 刺身も食ったけど、なんか違うんだよな。

 塩焼きで食べることがあまりないらしい。

 あぁでもな、真冬の沿岸から近海で釣れるシルイチャー。

 内地でいうところのアオリイカって言われるやつな。

 知り合いからもらったんだけど、刺身にして食ったら、あれは絶品だった。

 俺も餌木で釣ろうと思ったんだけど、そう簡単に釣れるもんじゃないって諦めたっけ。


 そうだよ、あんな感じと同じなんだ。

 素材はいいのを使ってるはずなんだけど。

 それでもぱっとしないっていうか。

 多分味付け、っていうか食習慣の違いなんだろうな。

 ティナも何やら複雑そうな表情してる。

「……武士。帰って武士が作ってよ。美味しくないから、さ」

「馬鹿っ。そんなこと言うもんじゃ……」

 いや、料理方法や味付けが違うだけだってば。


 ここの人も王女が来てるのはわかってるみたいだな。

 こっそりこっちを覗いてるんだけど、ティナの言葉を聞いてか肩をがっくりと落として戻って行っちまった。

 残すのはまずいから全部食ったけど。

 ある意味苦行だったわ。


 ティナも俺も、食べ続けることに苦痛を覚えたこっちの料理。

 俺の料理を毎日『美味しい』と笑顔で食べてくれた理由がやっとわかった。

 俺とティナは腹いっぱい食べることができなかったから、ウィンドウショッピングのように適当にぶらついた後、ティナの家(王城なんだろうけど、どうしてもホテルにしか思えないんだよな)に戻ってきた。

 ティナの家の厨房にも食材はあるはずだと聞いたから、そのまま厨房に直行した。


 腹いっぱい食べられた訳じゃないから。

 それに町を案内してもらってティナも俺も小腹は空いてる。

 仕方なく厨房を借りることにした。

 調理器具はまぁあまり変わらないわな。

 ドワーフは建物や金属。

 道具なんかの製造に関して言えば、とんでもないこだわりを持ってるみたいだ。

 ただ、食へのこだわりは、王家であってもそんなにないらしい。

 こりゃ、種族性というより地域性とでも言うんだろう。

 日本人の味覚に、欧州、特にイギリスあたりの料理が合い難いみたいな。

 そりゃこだわりを持ってなきゃ、美味いものより実を取っちまうのは仕方ない。

 ティナはその点、俺の側に来てからは、一緒に美味いものを食いまくった。

 そのため、こっちの料理に満足いかなくなったのはどうしようもないだろう。

 料理なんてひと工夫するだけでも旨みが違ってくるもんだ。

 例えば、さっきの高級な料理屋で出た『肉の香草と野菜の煮込み』なんかもそうだ。

 ティナの話では、こっちではポピュラーな料理らしいんだが、食材は高い店だけあっていいものを使ってたようだ。

 だーが、味付けがとにかくあっさりしすぎてる。

 色んな店を見て回ったけどさ。

 結構普通に俺が沖縄で買ってるような食材もあるんだよ。


 てことで、俺はティナが横で見てるとこで簡単な料理を作ることにした。

 葉野菜、根野菜を適当にぶつ切り。

 肉も脂ののった良さそうな所を、薄く火が通りやすいように切って鍋に突っ込んでいく。

 いやー、包丁。

 切れるわー。

 水から煮込んで丁寧にあくを取り続ける。

 煮えにくい野菜はなさそうだから、そんなに時間はかからないだろう。

 いい鍋とフライパンだよな。

 さっすがドワーフ謹製。

 フライパンにバターを多めに溶かして、そこに少しずつ小麦粉を入れて焦がさないように混ぜる、混ぜる、混ぜる。

 牛乳を入れて焦がさないようにかき混ぜる、混ぜる、混ぜる。

 もうわかるよな?

 ホワイトソース作ってんだよ。

 いい感じに混ざってきたら、牛乳をもっと入れて伸ばしながら塩を少し入れて味をみる。

 野菜と肉も煮えてきたみたいだな。

 鍋にホワイトソースを混ぜ込んで、後はゆっくりと煮るだけ。

 なんだけど、野菜も肉も煮えやすいようにしてるから、味が染みたらもういいや。

 男の料理ってことで、かなーり適当。

 フライパンでカレーを作る適当さ加減だな。

 いい匂いが充満してきた。

 おっと、換気扇っていらないのか。

 勝手に何やら動いてるぞ。

 さっすがドワーフクオリティ。

「武士武士」

「ん?」

「すっごくいい匂い。美味しそうだね」

「あぁ。パンをさ、薄く切って焼いといてくれないか?」

 するとこっそり覗いてた侍女さんたちが。

「姫様、私たちが……」

「いいんだよ」

 そりゃ、王女とその旦那がいるんだ。

 バレバレだわな。

「うん。あたい、あっちでは武士の手伝いしてたんだからさ」

 そう言いながらティナも器用にパンを薄く切ってオーブンに突っ込む。

 柔らかい系じゃなく、バケットみたいなパンだな。

 スープにつけながら食ったら美味いだろ。

 いい小麦粉使ってるみたいだし。

「武士、パン焼けたよ」

「おう。こっちもいいみたいだ。器とスプーン取ってくれ」

「はいよー」

 かなり適当に作ったけど、この方がまだ食欲出そうだよな。

 二人分皿によそってパンは焼いただけ。

 ちょっとカロリー高めだけど、まぁいいだろう。

「ティナ、食うべ」

「うんっ」

 ってか、どんだけパン焼いたんだよ。

 四十センチはあったパン、丸々じゃんか。

「いただきます。……武士」

「ん?」

「おいしっ」

「おう」

 この笑顔だけで俺はホント、胸がいっぱいになるよ。

 ティナは俺が作った料理は、何を食べても『美味しい』と言ってくれる。

 日本で食べた外食でも、そうだったな。

 あっちの味に慣れちまったってことなんだろうか?

 さっき食べた飲食店でも、けっしてまずいというわけではないんだ。

 ただ何ていうんだろうな。

 香辛料の使い方っていうのか、あのわけのわからん匂い。

 多分こっちでポピュラーなハーブなんだろう。

 俺はパクチーとか苦菜とかは好きじゃない。

 きっとあの匂いもあったんだな。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ