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第二十一話 受け入れてもらえた?

 ティナのお袋さん、アリエスさんはとても優しい笑顔の女性だった。

 親父さんのクレイさんも、ドワーフとは思えないくらいに優しいお父さんって感じだな。

「武士さん、でよろしかったかしら?」

「はい」

「では、武士さん。あなたの名前から察するにですね、あなたは外殻世界の人ですね?」

「外殻世界という言葉は知りませんが、俺、いえ、私は」

「いつもの話し方で構いませんよ」

「すみません、助かります。えと、俺はですね、日本という国の人間でした」

「……でした。なのですね。目をみたらわかりました。ごめんなさいね。ティナのせいで……」

「いえ。俺もティナを好ましく思っています。ティナに、いえ、お嬢さんにお願いして連れてきてもらいました」

 俺はその場に立ち上がった。

 テーブルに頭をぶつける勢いで腰を目いっぱい折る。

「お願いします。お嬢さんを俺にください」

 沈黙が流れるかと思ったんだが。

「いいですよ」

「へっ?」

 俺は頭をあげて、アリエスさんとクレイさんを交互に見た。

 二人とも笑顔のままだったわ。

 ……怒らないのか?

 普通は『奪っていく君を殴らせろ』とか言わないのか?

「すぐにわかりましたよ。武士さんの右目を見たらね。ティナはあなたから、説明もなく人間あることを奪ってしまったのでしょう? ティナの性格を知っていればわかるのです。その件については、ティナに責任を取らせます」

 アリエスさん、急に怖い顔つきになってるわ。

「……はい」

 厳しい視線も、ティナに向けられてるように思える。

 俺に向けられた訳じゃないけど、すっげぇおっかない。

 ティナもちょっとビビってるみたいだ。

 そう思った途端、アリエスさんの表情が柔らかくなった。

「そのように緊張なさらなくてもいいですよ。私もクレイも武士さんを歓迎いたしますので。ティナをよろしくお願いしますね。こんな我儘な娘ですが」

「武士君。僕からもよろしくお願いしますね」

「はい。よろしくお願いします」

「母さん、父さん。ありがとう。武士」

「ん?」

「可愛い赤ちゃん、作ろうね」

「あのなぁ……」

「母さん、父さん。武士ね、母さんたちに挨拶するまであたいに指一本触れようとしないんだよ。かっこいいでしょー?」

「ちょ、お前。それバラすなよ。恥ずかしいだろうに……」

「ふふふ、ドワーフには珍しい誠実な男性みたいですね」

「そうですね。アリエスさん」


 二人の話を聞くと、ドワーフの男はクレイさんみたいではなく、いわゆる『俺様系』が多いんだと。

 今までティナに求婚してきた男も、そんな感じが多かったらしい。

 そりゃ駄目だろう。

 相手は王族だぞ。

「あの、俺は向こうに。日本に拠点というか、職業を持っていまして。すぐに婿入りできるわけではないんです」

「その話ですか」

 アリエスさんは笑顔で『わかっていましたよ』という表情をしていた。

「えぇ。俺は両親兄弟姉妹はいませんが、育ての母、兄のような存在がいます。ですから、すぐには……」

「大丈夫ですよ。これから五十年以上。それよりも長く、私たちも現役でいられます。それにね、五十年もすれば、武士さんもその姿で同じ場所にはいられないですよね?」

「あ……」

 そりゃそうだ。

 もし、俺がこのまま年を取らなかったとしたら、それはもう化け物だ。

 お役人や麗華さん、志狼さんにはバレていても、ご近所さんにはちとまずい。

 『若い嫁さんもらって、タケちゃんも若返ったみたいだな』とは言われてる。

 でもいずれ誤魔化しが効かなくなるだろう。

 そうなったらこっちに来ればいいってことか。

「なるほどですね。その後にこちらにという」

「えぇ。私たちドワーフは寿命が人間よりも長いのです。その寿命はおおよそ四、五百年とも言われていますね」

 なんと、そんなに生きられるのか。

 そりゃ、ティナの年齢も俺の年齢もガキみたいなもんだわ。

「あたいもあっちで生活するよ。武士とまだまだやりたいこと沢山あるからね」

「おう」

 そんな感じに、俺の心配は杞憂に終わったわけだ。


 その後、俺はティナの部屋に連れていってもらった。

 いやー、これがまた。

 ストレス溜まりそうなくらい、何もない部屋なんだよな。

 いや、あるにはあるんだ。

 アニメやラノベ、漫画がないだけ。

 今のティナには拷問だろうな。

「武士」

「ん?」

「あとで町案内するよ」

 俺はもう一回スマホの時計を見た。

 二十一時。

 でも外はぜんぜん明るいんだ。

 おい。

 時差ぼけしてるぞ。

 寝てるタイミング間違ったからそれ程眠くないけどな。

 もちろん、ここは圏外。

 ネットも繋がらないんだよな。

 困ったもんだ。

「おう。腹減ったからな。……あ。俺、こっちの金持ってないぞ」

「大丈夫。あたいの貯金あるから」

「そか。助かる」

「あっち戻るときさ、あたいの貯金。こっちで宝石に替えていくから」

「そんな、いいんだぞ?」

「だって、武士に使わせすぎてるし……。あたいの貯金は武士のものなんだよ」

「ありがたいけど。無理しなくてもいいんだぞ。俺だってそれなりに持ってるから」

「だって」

「はいはい。ならティナの好きにしていいよ」

「うんっ」

 といいつつ、ティナはベッドにうつ伏せに寝っ転がって、タブレットの電源入れて漫画読んでるし。

 俺はティナの横でベッドに座ってる。

 ここ、椅子ないんだよ。

 ソファくらいあったらいいのにな。

 お茶とかどうやって飲むんだ?

 ま、いっか。

「ティナ」

「ん?」

「バッテリーなくなったら、充電できないぞ」

「えっ? あ、そうだった……。我慢しよ」

「それがいいな」

 俺もとりあえず、スマホの電源切っとくか。

 バッテリーもったいないし。

 こういうところが貧乏性っていうんだろうな。


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