第十九話 寒いって、どういうこと?
やっと洞窟の出口が見えてきた。
ダンジョン、いや迷宮なのか。
結構緊張しながら進んだんだけどな、何も出なくてがっかりというか安心というか。
沖縄はまだまだ残暑厳しいってのに、こっちは寒いんだな。
ハーフパンツとTシャツの恰好じゃ、さすがに鳥肌たってくる。
「なぁティナ」
「んー?」
「こっちの平均気温ってどれくらいだ?」
「そだね。日本で言うと、十五度くらい?」
「まじか」
外に出たな。
空はかなり高い。
だが、所々明るいだけで、全体にどんより暗い感じだ。
「あのさ。外が明るいのって、魔法か何か?」
「そうだね。こっちは日本みたいに太陽があたらないからね」
そりゃ必然的に身体が強くなくちゃ生きていけないわな。
「でもね、空にある魔法の陽もそれなりに明るいんだよ。国の上空に上がってるんだけど、ちょっと温かく感じるし」
「そうなんだ。空ってどれくらいなんだろう?」
「数千メートルかな。日本の単位で」
「なる」
さて、一番の問題だが。
これは聞いておかなきゃ駄目だろうな。
「ティナ」
「ん?」
「俺、言葉通じるのか?」
「それは大丈夫。あたいが全部あげたから」
「もらった?」
「そ。力と一緒に言葉もね」
「そっか、ありがとな」
「どういたしまして」
ありがたい。
言葉も通じないんじゃかっこつかないもんな。
これからティナをもらいにいくんだし。
やべ、緊張してきた……。
さすがにティナも寒かったんだろう。
「──ぃっくちっ」
なんて可愛らしいくしゃみ。
沖縄と十度以上は違うみたいだからな。
肌が褐色なのももしかしたら寒さを克服しようと進化したとか、……ないか。
こっちにはエルフなんかもいるらしいからな。
それはないだろう。
「ほら、そんな恰好じゃ寒いだろう。着替えていこうか」
「うん」
とりあえず、俺も後ろを向いてスーツに着替えた。
「ティナ。着替え終わったか?」
「うん、終わったよ。別に見てもいいのに……」
そりゃ見たいですよ。
でもな、俺はある意味覚悟してこっち来たんだから、その覚悟を折らないでくれるかな。
なんて、心でツッコミを入れながら、振り向いた俺の目に映ったティナの恰好。
『魔法少女ラジカルくれは』の衣装じゃねぇか……。
確かに高いだけあって、布もいいもの使ってるよ。
靴だって確かゴアテックス製だったはずだ。
長袖でスカートも長いから温かそうだけど。
だからってな、それはどうなんだ?
「ティナ、その格好」
「うん。これがあたいの勝負服だよ。似合ってるでしょ?」
「あ、あぁ。すっげー可愛い」
「えへへ。ありがと。武士もかっこいいよ」
「お、おう」
きっとコミ〇に行けば、注目間違いなしだろうな。
これほど完成度の高い。
違うのは肌の色と髪の色だけ。
それ以外は完璧だぞ?
正装とまでは言わないけれど、それなりの恰好に着替えて肌寒さもなんとかなったな。
ブラウンのソフトスーツに巨大なリュックは、ちょっと滑稽かもしれんけど。
日照時間というより、太陽のないこの地域では環境がかなり違うようだ。
木々も日本でみるようなものとは違う。
光合成なしで育つのか、それとも違う育ち方をしてるのか。
それ程高さのない樹木の森が進行方向に続いていた。
幹は決して細くはない。
ただ、緑の香っていうのか?
なんか違う匂いなんだよな。
道なんて上等なものはなかった。
木々の間を抜けるように、なんだかんだ二時間ほどだったか。
森を抜けるのにそれくらいかかったはず。
やっと平野というか平地というか。
短い植物の生えた場所に出た。
遠くに道らしきものもやっと見えてくる。
革靴に履き替えるんじゃなかったよ……。
土で汚れちまったわ。
こんなことがわかってるなら、トレッキングシューズでも持ってくるんだった。
ただな、沖縄の靴屋にはトレッキングシューズは売ってないんだ。
始めは驚いたよ。
ファッションでも履かないんだろうな。
若い男女は『島ぞうり』というビーチサンダルで普通に外を歩く。
俺は無理だったわ。
ビーサンだぜ、ビーサン。
あれってプールとか、海水浴のときくらいだろう?
郷に入っては郷に従えというけど、無理っす。
かりゆしウェアというアロハシャツそっくりの上着も無理だったし。
俺の骨格では、サイズもなかったからな。
街道らしき場所に出た。
アスファルトではなく、転圧された土?
舗装はされてないみたいだ。
沖縄もサミットが開催されるまでは砂利道が多かったと聞いた。
こっちではこれが当たり前なんかな。
土の街道に出てから、更に小一時間程歩いたかな。
やっと町らしき場所が見えてきたよ。
同時に石畳みたいな地面に変わった。
なるほど、ここからは一応舗装されてるってことなのな。
それも面白いんだ。
インターロッキングみたいに規則正しい石畳だぜ。
こりゃもう完全に舗装だわな。
段差も全くなく、計算しつくされた道の作り方。
さすがドワーフの国って感じ。
道行く人や、商店に働く人も。
俺と同じ褐色の肌。
耳が若干長く、まぁ俺もティナ程じゃないが若干長いか?
色味は違うが金髪系の髪。
俺、全く違和感ないじゃん……。
それと、女性ももちろんいる。
ティナはちっこいんだな。
普通に百六十くらいの女性が多いぞ。
注目を浴びてるのはやっぱりティナだった。
服装、違うもんな。
ただ、大声じゃないけど『ティナ様』って声があちこちで聞こえてくる。。
有名人だよな、そりゃ王女だし。
そんな中、堂々と道の真ん中を俺の右腕にぶら下がって歩いてるんだ。
俺も注目されてるっぽいわ。
そりゃ俺みたいなスーツ着てるのいないし。
ティナもドレス着て歩ってるようなものだもんな。
普通に歩いて遅くとも時速四キロと考えても、小一時間くらい歩いたんじゃね?
ってことは、軽く四キロはあったってことだ。
ここで町並みが若干変わってくる。
基本的には石造りの立派な建物。
立派っていっても、それこそコンクリで作ったんじゃないかってくらいだぞ。
全体に色が黒い建物が多かった。
おそらくは熱をため込む必要があるのかもしれないな。
白い石畳に黒い建物。
おそらくは城下町なんだろう。
だが急に、建物の色が違ってくるんだ。
今度は白い壁に黒い屋根。
屋根は熱関係かもしれないが、白はどんな意味があんのかね。
遥か上空に上がってる『疑似太陽』っていうんか?
それがだんだん真上になってきていたし。
こっそりスマホの時計見たんだけど、なんと十九時。
時差ぼけするじゃんか……。
それほど高さはないけど、ティナの案内する先に立派な建物。
いや、建造物って言ってもいいかもしれないな。
多分城。
間違いなく城なんだろうけど。
城っぽくないんだよな……。




