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第十八話 やっと終わりが見えてきた。

 目を覚ました俺は、手のひらで炎を揺らめかせながらこっちを見てるティナの笑顔で朝(?)を迎えた。

 スマホの時間を見ると、午前十時を過ぎていた。

 そんなに眠ってなかったんだな。

 ティナに某メーカーの薬用ローション付きウェットティッシュを渡す。

 気持ちよさそうに顔を拭ってるな。

 ここは涼しいといってもエアコンの効いた部屋とは違う。

 寝汗でびっしょりだったからな。

 俺たちはカロリーナイトと補給ジェルで軽く朝食を済ませる。

 右手を灯らせるとティナを抱き上げ、俺は洞窟をランニングする速度で走り始めた。


 知らない場所へ不安な気持ちのまま進むのとは訳が違ったんだろうな。

 暫くは一本道だったが途中からは分かれ道になっていた。

 ティナは迷うことなく『こっち』と教えてくれる。

 徐々に天井が高くなってきている。

 スマホの時計を見ると、十四時を過ぎていた。

 リュックのサイドポケットからジェルを出してティナに渡す。

 ティナは美味そうにちゅーちゅー吸ってる。

 俺も足を止めないで補給をする。

 ロードバイクで走ってるときはこんなもんだし。

 別に違和感はない。

 おまけにティナは俺の腕の中。

「武士、辛くない?」

「ぜんぜん。余裕だよ」

「そっか」

 ゴミは捨てないで逆のポケットにしまい込む。

 俺はまたティナとアニメの話をしながら走り続けた。


 ホントおかしいよな。

 これだけ走っても、息は切れない疲れない。

 もし、マラソンとか出たらぶっちぎりで優勝すんじゃね?

 ツールドフランスあたりでもいいとこ行けそうな気がするくらいだし。

 まぁ、速度はどうだかわかんないけどな。

 それだけ人間離れしてきたってことだ。


 ティナは目を開けたみたいだ。

「武士」

「ん?」

「もういいよ」

「何が?」

「下ろしてってば」

「あぁ。どうしたんだ?」

 俺は足を止めるとゆっくりとティナを下ろす。

 ティナは薄暗い周りをきょろきょろと見回す。

 ひとつ頷くと俺の方を見た。

「もうわかるよ。ここ、あたいの遊び場だから」

「へ?」

 ティナは右手を高く上げると、中空に炎のような光を打ち上げる。

 一気に明るくなる。

 すると、そこは狭い洞窟の出口のようになっていた。


 ティナが先に進んで少し広い通路に出る。

「ティナ、ここって?」

「ん? 鉱山跡地だよ」

「鉱山か。……跡地?」

「うん。迷宮化して魔獣が出てね、掘削どころじゃなくなったって」

「ちょっと待て。迷宮? 魔獣ってなんだ?」

「そうだね。日本で言うなら、……んー。あ、ラノベにあるじゃない」

「……魔獣って、あれか? ゴブリンとかオークとか。迷宮ってダンジョンか?」

「うんうん。ラノベや漫画ではダンジョンって方がなじみ深いもんね」

「あれって実在してたのか……。って危険じゃないのか?」

「そうでもないよ。ここのはちょっと強いだけで、あたいなら楽勝」

「楽勝って……」

「それにね、日本で見たアニメのおかげで魔法をもっとイメージしやすくなったんだよね」

 ティナのボキャブラリーは初めて会ったときよりも日本人っぽくなってきている。

 それより、魔獣って言ったか。

 それがあっちに出たりしないのか?

「ティナ、その魔獣ってあっちに──」

「それは大丈夫だよ。ほら、これ今の武士なら見えるはず」

 ティナが後ろを振り向く。

 指差したところは俺たちが通ってきた狭い方の通路。

 そこには、薄く赤黒い霧のようなものがあった。

「一応ね、転移結界が張ってあるんだよ。王家の人以外はここから先はいけないようになってるんだ。それは魔獣も例外じゃないんだよね。それに迷宮化したからってここは魔獣が寄り易くなっただけだし。迷宮の核があるわけじゃないんだよね」

 それってダンジョンコアのことか?

「それにここは、あたいたちドワーフが掘り進んだとこだし。元々沸いた迷宮じゃないからそんなに危険じゃないんだよ。ただね、掘削中に後ろから襲われるのは煩わしいし、ある程度掘り切ったらしいから閉鉱したみたいなんだ」

「なるほどねぇ。って、転移系の魔法もあるのか?」

「んー。ほら、あれ見て」

 ティナの指差した天井に何やら光る石が無数に埋め込まれている。

「何だあれ?」

「魔鉱石だよ。あれでね、あんなふうにめちゃめちゃ複雑な魔方陣を組まないと簡単なものもできないくらいややこしい魔法なんだって。あれ組み上げるのも数年かかったっていうし。それまでそこには交代で衛兵がいたって聞いたよ。そこに入ったとしても百歩くらい後ろに戻されるだけみたいだし。だからね、普通に使える人はいないはずだよ」

「そっか。ロマンはあくまでもロマンのままか……」

「そだね。ラノベや漫画みたいにはうまくいかないことだってあるんだから」

「魔法がある時点で、それはないぞ……」

 俺たちはとにかく先に進むことにした。

 ティナはまるで散歩でもするように、足取り軽く進んでいく。

 あ、てことは、ここは王家が管理してるってことか。

 ティナの遊び場って、……あぁ、なるほどな。

 いわば『魔獣ホイホイ』状態になってるってことだろうな。

 ちょっと待て。

 魔獣の出る遊び場って……。

 倒して遊んでたとか、言わないよな?

 俺、狩りとかそういうの、やったことないぞ?

 せいぜい、釣り程度だ。

 今のところ、ティナも平然と歩いてるから大丈夫っぽいけどな。

 ティナが出した炎の明かりは、ティナの頭の上をゆっくりとついて行ってる。

 器用なもんだ。

「やっぱり、あたいがいない間、誰かが片付けてくれてたみたいだね。じゃないと今頃うようよしてるだろうから」

「まじか……」

「うん」

「ところでさ」

「ん?」

「ティナがこっち出るとき、なんか伝言でもしていった?」

「うん。『婿はあたいが決める』ってね」

「……なるほどなぁ。って俺、婿なのか?」

「そういう訳じゃないよ。あたいがすぐに即位するわけじゃないし。母さんも父さんもまだまだ若いからね」

「若いってどれくらい?」

「んっと、母さんが今年八十九歳だったかな? 父さんはふたっつ下だったと思う」

「えっ?」

「だって、あたいが四十三だよ?」

「あ、あぁ。そういうことか」

 おそらくティナはまだかなり若いんだろう。

 そういや。

「ティナ。ドワーフの成人って何歳なんだ?」

「四十だよ」

「あー、納得いったわ」

「人間て、あー。二十歳だっけ」

「そうだな」

 それにしても、合法ロリすぎだろう……。


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