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第十六話 鍾乳洞を奥へ奥へ。

 入場料を支払い、観光客を装って鍾乳洞入口へ入っていく。

 ここの全長は約五千メートル。

 国内最大級といわれる天然記念物の鍾乳洞らしい。

 現在公開されているのは八百九十メートルまで。

 残りは研究用として保存されていると説明があった。

 ティナに隠ぺいの魔法を使ってもらう。

 俺は彼女と手を繋ぐことで魔法の効果内に入るらしいんだ。

 ティナの唇が若干動いている。

 耳を近づけないと聞こえないくらいの声の大きさみたいだ。

 ちなみにティナは思いを口に出すことで、よりイメージしやすくなるらしい。

 『メテオ、ブレイカーっ!』のときがそうなんだろうな。

「武士、もう大丈夫だよ」

「おいおい。ティナ、喋って大丈夫なんか?」

「うん。あたいたちのことを『気にしなくなるから』」

 なるほどな。

 隠ぺいの魔法はおそらく、認識阻害なんだろう。

 こうしてティナの手を離さなければ、気にされることはなくなる。

 俺たちの話している内容は少しおかしい。

 その割に、周りにいる人は誰も振り向いたりしないんだ。

 実に便利な魔法だな。

「ティナ。ここで間違いないか?」

「うん。入ってくるところも同じだったし。車があることろも同じだったよ」

「そうか、なら進むとするか」

 通路の端まで行くと、柵が邪魔をしてこれ以上行けなくなる。

 その柵を潜って、鍾乳洞の床に下りる。

 湿り気があって、滑りやすいようにも思えた。

「ティナ、気を付けろよ。滑るかもしれないからな」

「うん。だいじょ、あっ」

 ほら、言ったこっちゃない。

 俺はティナを後ろから抱きとめた。

「ありがと」

「いいえ、どういたしまして」

 さっきまで手すりのついた平らな足場の通路が続いていたが、ここからは足場も手すりもない。

 ただ研究のためもあるのか、多少均された感のある通路が続いているだけだった。

 もちろん照明など使えない。

 使った途端、バレてしまう可能性があるからだ。

 だが、ティナは俺の手を引きながら、迷いなく先に進んでいける。

「ティナ。もしかして見えてるのか?」

「うん。暗いところが見えるように魔法使ってるから」

 ティナは隠ぺいの魔法と同時に、暗所での視界を確保する魔法が使えるのだろうか?

「ティナ、お前。同時に魔法使えるのか?」

「うん。二つまでだけどね。それ以上はちょっと無理」

 俺は魔力の使い方にまだ慣れていない。

 ティナは俺が歩きやすいように、足元に気を使ってくれているのだろう。


 かなり長い時間歩いてきた気がする。

 皇居で確認した通り、この程度では歩いていても疲れることはなかった。

 ティナに手を引かれながら、ゆっくりと歩いてきたが。

 徐々に足場の悪いところを歩いているように思えてきた。

 俺たちが普通に歩く速度は約時速四キロと言われている。

 足場の悪いこの状態では二キロ出ていればいい方だろう。

 ティナに先導してもらいながら、俺はどうにか暗所でも多少見えるようにならないか、試行錯誤してみる。

 本来、暗視装置などは、ごく僅かな光を増幅して映像化しているはず。

 かといってここは、光があるわけじゃない。

 ティナのことだ。

 コツを聞いても、ただなんとなく使っているだろうから教えることはできないだろう。

 ティナが足を止めた

「武士。ちょっと待ってね。んー……。辺りに人の気配ないから明かり使っても大丈夫かな?」

「よくわかるな」

「うん。狩りの時、こうやって魔法で獣の気配を感知するんだよ。この先にも後ろにも誰もいないはず」

「そっか」

「うすーく、明かりつけるね」

「おう」

 ティナは前にやって見せたように、手のひらの上に炎を出現させた。

 光量を抑えたのか、ゆらゆらと灯る炎はそれほど明るくはない。

 それでも足元はしっかりと見えるくらいにはなっていた。

 ティナがここから来たかもしれないということが解った後、俺もある程度は玉泉洞のことを調べてみた。

 ネットでの情報だけどな。

 ここは千九百六十七年から七年かけて、ほぼ全貌を明らかにしたらしい。

 ただ、よく考えてみろ。

 リスクを負ってまで危険な場所まで調査したか?

 それはないだろうな。

 昭和四十二年。

 そんな時代に、今のようなハイテク機器があったわけじゃないだろう。

 そう考えてみると、今見渡す場所にはかなり危険な場所があちこち見えている。

 素人目にも自殺行為と思える位だ。

 ティナは『こっち』と俺の手を引く。

 その方向は、今俺が『駄目だろう』と思った危険な場所。

 だが、ティナは平気な顔をして進んでいく。

 俺とティナは普通の人間からは考えられない程の身体能力を持っているだろう。

 これだけの荷物を持っても、全く疲れていないのだから。

 かなり進んだところでティナは足を止めた。

「どうした?」

「……おなかすいた」

 ティナらしいと言えばティナらしい。

 ティナと俺は足場の悪い若干下った場所で腰を下ろした。

 俺は苦笑しつつ、ハイヤーを途中で停めてもらって買ってきたおにぎりをリュックから出した。

「何がいい? 鮭とすじこ。シーチキンマヨネーズがあるけど?」

「シーチキンマヨネーズ」

 俺はビニールを取ってリュックのサイドポケットに突っ込む。

 いくら人がいないからって、ポイ捨てはできないからな。

「ほいよ。これ、スポーツドリンク入ってるから」

 おにぎりとドリンクボトルをティナに渡した。

「ありがと。……あむ。んく。おいしーね」

「運動した後だからな。そりゃ美味いだろうさ」

 俺もすじこの入ったおにぎりを食べる。

 うん。

 美味いわ。

 コンビニのおにぎりとはいえ、侮れないな。

「そういやティナ」

「あぐ?」

「返事は食ってからでいいって」

「……んく。何?」

「ティナはどうしてここに入ったんだ?」

「んっとね」

「うん」

「あのとき毎日ね、結婚しろってうるさく言われてて。逃げ出したんだよ」

「あー、それは辛いわな」

「でしょ? 三十人くらい入れ代わり立ち代わり、求婚されたんだけどね」

「すげぇな」

「武士みたいにかっこいい人、いなかったんだよね」

「それは、光栄です」

「嘘じゃないよ。皆、髭もじゃもじゃでね。あたいよりも五十歳は年上なんだよ」

 もし倍の寿命だとしても、おっさんだわな。

「それにね」

「ん?」

「綺麗だとか、美しいだとか、ありきたりの言葉しか言わないんだよ。武士みたいにね」

「ん?」

「その、……可愛いって言ってくれる人いなかったんだよね」

 そりゃ、王女様に可愛いなんて言えないわな。

「ティナは兄弟いないのか?」

「一昨日生まれたばかりの弟はいるけど」

 なるほどな。

「跡取りが小さいんじゃ、ティナも大変だな?」

「えっ? 跡取りならあたいだよ?」

「はい?」

「お母さんが女王だし。お父さんは王配殿下って言われてるよ」

 なんと、ドワーフの国、メルムランスは女王制だったのか。

 そりゃ玉の輿になるな。

 あ。

 麗華さんがそんなこと言ってたっけ?

 あれってそういう意味だったのか。

「そうなると、ティナ。お前さ、こっち出てきちゃまずいんじゃないか?」

「大丈夫。まだお母さんも若いから。それにあたいはね。女王じゃなく、武士のお嫁さんになりたいんだから……」

「そ、それはどうも」


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