第十五話 ティナとの約束を守ろう。
ホテルに戻った俺はティナに今思ってることを素直に言った。
ティナは少しだけ驚いていたな。
「ティナ。俺、ここから戻ったら。ティナの国に行ってみようと思うんだ」
「武士、それって……」
「あぁ。ティナを正式に貰いにな」
ティナは俺に飛びつくように抱き着いてくる。
「いいの? 本当にいいの?」
「元々そのつもりだったし。俺、あやふやにしておくの嫌なんだよ。俺はティナを嫁にしたいからさ」
「うん。あたいも武士のお嫁さんになりたい」
ティナは半分俺にくれたんだ。
俺もティナに応えたいと思ってるし。
いつまでも半端にしておけないからな。
ケジメはつけなきゃ駄目だろう。
俺はティナを連れて、麗華さんの元へやってきた。
来たときと同じように『さっさと最上階に上ってこい』だったよ。
「どうしたんだい? 武士」
俺はティナの手を握ったまま。
「麗華さん。俺、ティナの両親に会ってこようと思うんです」
「なんだ、やっと覚悟決めたんだね」
麗華さんは、椅子から立ち上がった。
ティナの横まで歩いてきて、彼女を抱きしめる。
「ティナちゃん。いや、ティナ」
「はい」
「武士をお願いね。この子、辛いとき泣くのを我慢するんだよ。しっかり泣かせてあげてね。あたしは一緒にいてあげられないから」
「ちょ、麗華さん」
「黙らっしゃい!」
「……ごめんなさい」
麗華さんは俺を言い負かすと、ティナの肩を両手でつかむ。
「武士はね、真面目過ぎるんだ。全部自分で背負い込んじまう」
「はい」
「こんななりしてるけど、中はまだまだ子供みたいなもんだ。男なんてそんなもんだから、二人っきりのときは甘やかしてあげるんだよ」
「はい。いっぱい甘やかします」
「武士」
「はいっ」
「ちゃんとどうなったか報告すんだよ? 子供できたら連れてくること」
「いつの話ですかっ!」
「あはは。さぁ、もう帰りな。ティナの親父さんに殴られてくるんだろう?」
「……かもしれませんね。麗華さん、また来ます。志狼さんにもよろしく伝えてください」
麗華さんは左手で俺のことも抱いてくれた。
「あんたたちは、あたしの息子と娘みたいなもんだ。いつでも帰ってきていいんだからね」
「はい、ありがとうございます」
「ティナ。他人行儀はよしとくれ」
「はい。また来ます」
「だから。まぁいいか。武士も」
「年に一度は来れるようにしますよ」
「そこまで無理する必要はないよ。ネットのおかげで、顔見て話しできるんだから」
「はい。定期的に連絡いれます」
「あいよ。気を付けて帰るんだよ」
「はい」
「麗華さま、お元気で」
「麗華さんでいいんだってば」
ティナの髪をくしゃりと撫でて、麗華さんはちょっと照れていた。
麗華さんは社長という立場もあって、自室から出ることなく見送ってくれる。
彼女の目は母親のような優しさ溢れるものだった。
俺たちはホテルに戻って、荷物を宅急便で送ってもらう手続きをとる。
ホテルを出ると、青崎さんが迎えに来ていた。
やっぱり監視されてんじゃんか……。
空港まで送ってもらって、挨拶を交わした。
「色々ありがとうございました」
「いえ、屋外での魔力の行使がなかっただけ手続きは楽でしたから」
「あははは……」
帰りのチケットは麗華さんが取ってくれた。
行きと同じだったけどね。
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俺とティナは那覇空港に着いた。
そこからモノレールに乗り、美栄橋駅で降りて部屋に戻ってきた。
運送会社に電話をして到着の時間を聞く。
荷物は今夜あたりに沖縄に入るそうだ。
ということは早くても明日中になるだろう。
運送会社で留め置きをしてもらうよう頼むと、俺たちはとりあえず着替えることにした。
「ティナ、どうする? ティナが来てた服に着替えるか?」
「ううん、この方が可愛いからこっちでいいよ」
「そっか。俺どんな格好で行けばいいと思う?」
「武士はそのままでいいんじゃない? 着替え持っていけばいいと思うよ」
そのままというのは、今着ているスーツのことだ。
そりゃ国王と王妃に会うんだ。
ハーフパンツとTシャツってわけにはいかないだろう。
替えのスーツと靴を鞄に突っ込む。
あっちに行くまではハーフパンツとTシャツでいいだろう。
ティナもあっちまでは、スパッツにTシャツだ。
もちろん道中で汚れちゃうからな。
「ティナ、円盤とかは持って行けないからな?」
「そっか。残念」
こっちで買った、ティナ用のリュックにティナは『魔法少女ラジカルくれは』のコスを綺麗に折りたたんで持っていくつもりらしい。
まぁ、お気に入りだからな。
ライジングハートさんだけは勘弁してくれよ。
ティナの話では、こっちに来るまで結構な距離を歩いたらしい。
俺は部屋にあったカロリーナイトのブロックをリュックに詰める。
もちろん、ティナもお気に入りのメープルシロップ味。
水は魔法でなんとかなるという話だから、ドリンクボトルが二本あればいいか。
中身は冷蔵庫にあったスポーツドリンク。
これで一応、二人で数日は余裕でもつ。
あとはアミノ酸系の補給ジェルも入れておく。
「なぁ、ティナ」
「んー?」
「手土産とかいると思うか?」
「そうだね。お菓子とかなら喜ぶと思うよ」
「なら途中で紅芋タルトでも買っていくか」
「うん。あれ、あたいも好き」
土産物に関しては、国際通りなら事欠かない。
俺は大きめのリュックを持って出ることにした。
まだ容量は余裕がある。
銃刀法違反になるからナイフとかは持っていけない。
いくら俺たちは警察からはスルーされるからって、何か面倒になると困るから。
『魔法でどうにかできるから大丈夫』ってティナは言ってたから大丈夫なんだろう。
戸締りを終えると、階段を降りて萎えた。
またハイヤー停まってるよ。
もう俺にはプライバシーってもんがないんかね?
渋々ティナと乗り込んだよ。
ティナも苦笑いしてた。
「どちらへ行きましょうか?」
「玉泉洞」
「かしこまりました」
どうせティナが出てきたときに、バレてんだろうし。
隠すこともないだろうと思った。




