表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

13/28

第十二話 俺の父は正義の味方だったのか……。

 翌朝、息子は元気だった。

 俺、どうなっちまったんだろうな?

 ティナさんや。

 お願いだから寝るときは、ぱんつ穿こうな。

 こらっ、寝返りうつなっ!

 見えちゃったじゃないか……。

 結構我慢してるんだぞ?

 俺はティナのバスローブの裾をなるべく見ないように直した。

 ふぅ……。

 朝から刺激が強すぎるだろう。

 とにかくトイレに行ってから、バスルームへ向かう。

 くっそ。

 いくらおなかぽっこりだからって。

 腹まで反り返ってるとか、どこの中学生だよ……。

 俺は冷水を頭から浴びた。

 息子はやっと静まってくれた。


 バスタブに熱めの湯を張り、そこに身体を沈める。

 ふぅ……。

 冷静に考えると。

 俺の身体は、髪といい、生え際といい。

 息子の状態までこんな感じだ。

 この間、ティナと海を見に行ったとき。

 ロードバイクで走っても、息は切れない疲れない。

 それこそさっき言った中高生。

 十代の頃みたいに力が有り余っている。

 間違いなく肉体的に若返っているみたいだ。

 これがティナの言っていた『王家の力』なのか?

 おなかのぽっちゃり具合も前より悪くなくなっているな。

 腹の横も、背中の肉も。

 指でつまんでみても、皮下脂肪が薄くなってるような気がする。

 皮下脂肪の下には、腹筋の存在が触るとわかるんだ。

 見た目わかんないけど、軽く割れてる。

 足の筋肉も、腕の筋肉も。

 筋トレ増やしたわけじゃないのに、一回り太くなってる。

「武士?」

 あ、ティナが起きたみたいだな。

「風呂に入ってるぞー」

「あ、やっぱり」

「ちょっと待っ──」

「いた、あたいも入るっ!」

 ドアが開いたと同時に、ティナが俺がいるバスタブに飛び込んできやがった。

 ちょ。

 全裸じゃねぇか。

 やばいって。

 今の俺にはやばいってば……。

 あぁあああ……。

「あはっ。あったかいねー」

「あのなぁ……」

 足のゆったりと伸ばせるくらいに広いバスタブに俺はゆったりと入ってたんだが。

 ティナは俺にもたれかかるように。

 一緒に入ってしまった。

「武士」

「な、なんだ?」

「お尻に固いのがあたってるよ?」

「お前、わかってて言ってるだろう?」

「あはは。知ーらない」

 やばい。

 ティナのおっぱいがお湯に浮かんでる。

 おっぱいって浮かぶんだな。

「ティナ」

「んー?」

「俺、言っただろ? お前に両親に会うまで、やらないぞ?」

「わかってるよ。一緒にお風呂入りたかっただけだから」

「まったく……」

 こうしてティナは、俺と一緒に風呂に入る権利を手に入れてしまった。


 ▼


 いやあれから大変だったんだ。

 髪を洗わされたり、背中も。

 しまいにゃティナも俺を洗うって言い始めて。

 息子まで洗いやがりやしたよ。

 その後のことは聞かないでくれ。

 ティナに質問攻めにあった。

 俺はトイレから暫く出られなかったわ。

 落ち込んだわー。

 ティナは別に悪くないんだけど、ずっと謝ってたなぁ。

 悪いことした、……のか?

 俺が。

 いやいやいや。

 頭を、いや、気持ちを切り替えよう。

 俺とティナは今、秋葉原に来ている。

 俺たちって、やっぱり監視されてんのな。

 ホテル出るとき、青崎さんが笑顔で待ってるんだぜ。

 生まれて初めてだよ。

 黒塗りワックスピカピカのセンチュリーで秋葉に来たのは。

 『後でお迎えに上がります。お楽しみくださいね』って駅前で下ろされたんだぜ。

 目立った目立った。

 まるで俺はアイドルのマネージャーみたいだったよ。

 ティナが注目を浴びちゃったもんだから。

 おまけにツイッターのTLに勝手に上げるヤツいたもんだから。

 『タケちゃん、今秋葉か?』って陽名さんから電話入るし。

 『TLにティナちゃんの写真上がってるぞ?』って聞いて初めて知ったよ。

 すぐに青崎さんに電話して、対策してもらったわ。

 可哀そうにな。

 知らないでツイートしたやつ。

 アカウント停止したっぽいわ。

 なむなむ……。

 ティナが欲しがったのはやっぱりあれだった。

 『魔法少女ラジカルくれは』のBlu-rayBOX。

 それも三部作+劇場版。

 新品が見つからなくて、実に十軒くらい回ってやっと中古だけど全部そろえた。

 今ティナ。

 おまけでもらった袋を胸に抱いてニコニコ笑ってる。

 すっげー嬉しそう。

 ホテル帰ったら見まくるんだろうな……。

 俺はというと、適当に買いまくって袋ひとつってところかな。

 それととんでもないものを買わされてしまった。

 それは予想つくだろう?

 くれはのコスプレ衣装だよ。

 それもかなりしっかり作られたものだった。

 どれだけティナが気に入ってるか。

 その場で『着て帰る』まで言うくらい立派な出来だったんだよな。

 目立つから流石にやめさせたけど。

 その代わり、そっくりなリボンをつけてツインテールにして歩ってる。

 椿油のシャンプーとリンスのおかげか、結構ストレートっぽくなってきてるんだ。

 ティナの髪。

 もちろん、しゃべる『ライジングハートさん』までしっかりと買いましたよ。

 俺もその衣装屋でしっかり、『マスクドライダー』のマスクとギミックがしっかりと作られてる変身ベルトを買っちゃったんだけどな。

 昼飯は『肉の万世』のロースかつ&唐揚げ定食にした。

 なんとティナは唐揚げ十個トッピングして、ペロッと食べてしまった。

 俺は十五個だったから、人のこと言えないんだけどな。

 あぁ、ちゃんと領収書は切ったぞ。

 『麗華コーポレーション殿』でな。

 買い物したら取っておけって言われてたから。

 でも、こんなの通るのかな?


 午後からは青崎さんに迎えに来てもらって、上野動物園にティナを連れてきた。

 ティナはパンダの前から動かなかった。

「武士、あの子連れて帰りたい」

 指差して子供みたいなことを言うんだ。

「駄目だって。あれはな、絶滅危惧種っていってな。個体数が少ない動物なんだよ」

「そうなんだ。あんなに可愛いから襲われちゃうんだろうね……」

 いや、ティナのが可愛いってば。

 ペンギンの前でも動かなかったな。

 もちろん『武士、あの子欲しい』って。

 いや、飼えないから。

 無理だからな、ティナ。


 俺が買った『マスクドライダー』のマスクは、プロレスのマスクのような造りで吸湿性に優れたゴアテックスで作られてるらしい。

 試着してみたけど、これがいいんだよな。

 あの『獣神サンダーレイダー』が、マスクを被ったまま釣りの番組にでられるくらい。

 日常生活にもし被っていても、ストレスを感じない程度には改良されているんだ。

 口元を外せば『ライダーメン』みたいにもできるみたいだし。

 だからあんなに高かったんだな。

 ティナが買った衣装も、十万超えてたからなぁ。

 下手なブランドの服よりいい素材使ってるとか、近年のコスプレってどれだけ高クォリティなんだよ。

 麗華さんは『買い物じゃんじゃんしていいからね。経費で落とすんだから』って言ってたから遠慮なしに買っちゃったけど。

 ほんと、よかったんかいな?

 麗華さん、志狼さん母子もサブカルどころか結構オタ気質だ。

 俺が置いていった漫画なんかは全部母子で楽しんだらしいから。


 夜になって俺とティナは、かつて俺が店長をしていた店。

 ダイニングバーREIKAに来ていた。

「お久しぶりです。本郷店長」

「だーかーら。もう店長じゃないって。お前が店長だろうが」

 こいつは俺が育てた当時副店長だった八坂巧。

 こいつが育ってくれたおかげで俺は沖縄へ行くことができたんだよな。

 当時まだ高校生のバイトだったんだが、親がやってた洋食屋が近くにできたファミレスにお客を取られて廃業。

 自分の学費を稼ぐためにアルバイトをしに来たんだっけ。

 こいつ、料理の腕は結構なものだったから、使いやすかったんだよな。

「ほら、武士。こっち座りなさい。ティナちゃんもね」

「はい……」

「こんばんは、麗華さん。志狼さん」

 麗華さんも志狼さんも、この店の料理は気に入っている。

 なにせこの店は、日本三大地鶏や有名どころの肉なんかを使って『美味いんだから高くて当たり前だろ?』というコンセプトで初めてしまった串焼きダイニングだ。

 それでいて、高いと言いながらギリギリの価格設定で良心的な料金で提供しちゃったもんだから、オープン当初から連日お客さんが途切れなかった。

 死ぬかと思ったよ、あのときは。

 周りの飲食店のやっかみが酷かったな。

 毎週のように保健所の立ち入り検査が入ったり。

 モンスタークレーマーが来たりと。

 その辺は麗華さんが抑えてくれたから、心配なかったんだけどな。

 一度ヤのつく怖いお兄さんたちが雪崩れ込んだとき、どこからともなく特攻服を着た女性の集団が連れ去ってしまったりとか。

 『押忍っ。自分たちがクレーム対応させていただきます。本郷さんはご心配なく』だもんな……。

 もしかしたらあの人たちも、鬼人みたいな種族の二世だったりするのか?

 おっかねぇ……。


 ティナは満足そうにお腹を撫でて満腹状態。

 俺も久しぶりに食ったな。

 ここぐらいだぜ。

 がっつりと地鶏の焼き鳥食えるのって。

 これ食っちゃうと、暫くブロイラー食えなくなるからなぁ。

「あのね、武士」

「はい」

「あんたの母親。本郷花夜。旧姓一文字花夜はね、あたしの高校時代の親友だったんだ」

 二号の家系かよ。

 いやいやいや。

 真面目に聞こう。

「はい」

「あたしが馬鹿やってもね、毎週学校に連れ出してお説教するような生徒会長だったんだ」

「あの母さんがねぇ。おっとりしてて、いつも笑ってる母さんからは想像もつかないな」

「あの女。怒るとおっかないんだぞ。泣きながら説教するんだ……」

「あぁ、それは俺も憶えあります。俺が喧嘩して帰ると泣きながらお尻たたいてきましたからね……」

 母さんは優しかった。

 でも普段笑ってる母さんが泣くと、こっちまで悲しくなったもんな。

「高校卒業しても、あたしはブラブラしてたけど。花夜はさっさと結婚しちまった。当時付き合ってた武士の父。本郷武人が警視庁のキャリア組だったんだよ」

「えっ? 交番勤務じゃなかったんだ……」

 父さんが警察官だったのは知ってた。

 キャリアだって?

 嘘だろう?

「あれもいい男だったんだよ。花夜の四つ上だったかな。法学部出身で『子供に笑われないような正義の味方になるためにキャリアになった』らしいからな。花夜、卒業前にお前を妊娠してたんだよ」

 あぁそれであんなに若かったんだ。

 父さんも母さんも、授業参観に来たとき周りの親より若かったもんな。

「花夜と旦那が事故で亡くなったとき。あたしが武士を引き取るつもりだったんだ。だけどな、お前が『本郷の名前は俺が継がなきゃ』って言ったの忘れたか?」

「言いましたね。まぁ、マスクドライダーじゃなくなるのが嫌だったってだけなんだけど」

「照れるなよ。立派だと思ったよ。ただな」

「何です?」

 今まで麗華さんと母さんの思い出話かと思ってたんだ。

 だが、彼女は表情を引き締めてこう言った。

「お前の両親は事故じゃないんだ」

「えっ?」

「あたしの旦那。憶えてるか?」

「はい。弁護士だったって」

「ばーか、検事だよ」

「えっ? そうだったんですか?」

「あぁ、それでな。武人さんとあたしの旦那、この子の父。英二がね。警視庁の上層部の不正をつきとめちまったんだ」

「はい」

「消されたんだよ。あたしの英二と一緒にな」

「…………」

「英二もあんたの両親も普通の人間だったんだ。あたしは内閣府のあたしの実家の担当に脅しをかけたんだ。『警視庁に殴り込みかけるぞ』ってな。そうしてやっと理由がわかった」

「そうだった、んですか」

 父さんは正義の味方になるって言ってたな。

 テレビのヒーロー見てるとき、ヒーローに嫉妬するくらいだったし。

 本当に正義の味方やってたんだな。

 すげぇな。

 ちくしょう……。


 ティナは俺の手をぎゅっと握ってくれた。

「武士。僕の父さんもお前の父さんも立派だったと思う。僕もまだ当時大学生だった。悔しかったよ……」

「志狼さん……」

 麗華さんは俺の横に立って、俺の髪をくしゃりと撫でた。

「もちろん、あたしが敵をとった。当時の法務副大臣が首謀者だったんだよ」

「……そうですか」

「あたしは、裏をとった。あたしができるすべての人脈を使ってな」

 きっと鬼人のことなんだろう。

「遅かったんだ。あたしがもう少し、この世界の汚さがわかっていればね。あんなことにならないで済んだかもしれないんだよ」

「麗華さんが悪いわけじゃないです。運が悪かったんですよ。父さんも母さんも……」

「そうだね。運が悪かった。あたしの武人に手を出したってことがね……」

 麗華さん、肩、痛いです。

 目一杯握ってるって、ミシミシいってるから。

「かといって、あんたたちのことがあったから無理はできなかったよ。本当は根絶やしにしてやるつもりだった。でもね、志狼を人殺しの息子にしたくなかったんだよ。だから、スキャンダルをぶち上げてやった。あの副大臣M男だっただよ。笑ったね。……もちろん、失脚してから『生まれてきたことを後悔するくらい』には締め上げてやったよ」

 あぁ。

 あの事件か。

 目線入りで東京ローカル放送で流れてたっけ。

 当時の警察と法務省の官僚のスキャンダルが。

 あれ、麗華さんの仕業だったんだ。

 生放送で流れたから防ぎようがなかったらしい。

 当時は俺も腹抱えて笑ったっけ。

 あれがそうだったんだ……。

「麗華さん。ありがとう。父さんも母さんも笑ってると思う」

「そうだといいけどね」

 苦笑いをしながら麗華さんは拳を机に叩きつけていた。

 やりきれない気持ちはあるんだろう。

 俺の代わりに怒ってくれているんだから。

 俺にいらない心配をかけないようにしてくれたんだね。

 ありがとう、麗華さん……。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ