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第十一話 俺の兄貴分、あだ名は『V3』だ。

 開口一番に怒られた。

 やっぱりな。

 電話したのも半年ぶりだし。

『あんたね、生きてるなら生きてるって定期的に連絡しろとあれほど──』

 スピーカーにしてないのに、耳から離しても聞こえてくるお説教。

 嵐が一時止んだあたりで。

「俺今、○○墓地にいるんだ。これからそっちいくから」

『えっ? ……まぁ、いいわ。待ってるから気を付けて来るのよ?』

「うん。じゃ、また後で」

 スマホの電話を切った。

「武士、今のって?」

「俺の育ての親みたいな人だよ。あとで紹介するから」

「うん……、凄かったね」

「あぁ。これ、お説教二時間コースかもな……。ティナがいれば大丈夫か?」

 俺たちは車に乗った。

「すみません。歌舞伎町へお願いできますか?」

「はい。歌舞伎町のどちらでしょう?」

「麗華コーポレーションでわかりますか?」

「えっ? 新宿の鬼姫じゃないですか、それっ!」

「何ですかそれ?」

「知らないんですか? テレビとかで有名ですよ」

「知らなかった……」

 青崎さんの話では、新宿を起点としてダイニングバーからエステまで。

 東京に数十店舗を持つ、たまにバラエティにも出る有名人なんだそうだ。

 テレビ見ない俺じゃわかんないわな……。

 俺が沖縄に来る前もそうだったが、俺が初めて会ったときと変わらない怖いくらいに綺麗な人だったけどな。

 あのおばちゃん、還暦過ぎてんだぜ、確か……。


 墓地から二時間くらい。

 そろそろ夕方になるあたりで、車が立派なビルの前で停まった。

 あれ? 俺がいたときこんなビルだったっけか?

 前は雑居ビルだったはずなんだけどな……。

「では、私はこれで失礼いたします。何か御用の際は名刺の携帯番号へお願いしますね」

「あ、ありがとうございました」

「ありがとうございましたっ」

 ティナも状況を知ってか、俺が丁寧な言葉を使ってたのを気にしてくれているようだ。

 さて、俺は覚悟を決める。

 きっと怒鳴られるんだろうな……。

 エレベータに乗ろうとしたら、受付があった。

 ちょっとまて、なんだこの変わりようは。

「いらっしゃいませ、麗華コーポレーションへようこそ」

「あ、はい」

「どのようなご、……あ、本郷店長じゃないですか?」

「へ? あ、あぁあああ。バイトのさやかちゃんか」

 この子は俺が店長をしていた最後の年に、バイトで入ってきた女の子だ。

 あのとき確か高校生だったと思ったんだけど。

「はい。あれから学校卒業しまして、ここの総合職を受けたんですよ」

「そっか。って、俺。ここがこんなに大きい会社だったって知らなかったぞ?」

「一昨年、私が入った年に建て替えされたんです」

「それじゃ知らんわな」

「ちょっと待ってくださいね。……社長。本郷様がお見えです。はい、わかりました。『そのまま最上階まで上がれ』だそうです」

「あ、あぁ」

「本郷店長」

「俺もう店長じゃないぞ」

「これですか?」

 やめてくれ、小指『びむっ』と立てて表現するの……。

「それは麗華さんに聞いてくれ」

「ちぇーっ。ケチ」

「お前なぁ、ほら仕事しろ。口調気をつけろよ?」

「本郷店長だけですよーだ」

「だから店長じゃないってば」

 ティナの手を引いてエレベータに乗る。

 もうバレバレだよな。

「武士、知り合い?」

「あぁ、俺がこっちで店長をやってたときのアルバイトだよ」

「なるほど。あの話か」

 チン、と音を立ててエレベータが最上階で停まる。

 二十階建てとかなんだよこれ。

 途中にエステサロンとか書いてあったぞ。

 うわ、目の前自動ドア?

 いや、違うな。

 インターホンあるぞ、ここ。

 俺はボタンを押した。

『誰?』

「武士です」

 すりガラスのドアが自動で開いた。

 どんだけ金かけてんだよ。

 開いた瞬間。

「こらっ、武士っ!」

「はい、すみません。ごめんなさい」

「あははは。ほらこっちおいで。志狼も呼んであるからさ」

 右の窓際のふかふかのソファに座っていた女性。

 立ち上がって俺たちを歓迎してくれている。

 俺より少し低いくらいか?

 軽く百七十五はある女性。

 見た目三十歳くらいにしか見えないが、確実に還暦越えてんだぜ。

「あら? その子は、もしかして。これ?」

 だから、ここの女性はどうなってんだよ。

 また小指立ててるし……。

「あ、この子は俺の婚約者です。ティナ」

「ティナと申します」

「あたしは風見麗華。ここの社長で、この子。武士の育ての親みたいなもんさ」

「……武士、この人。人間じゃないぞ?」

「へ?」

「ありゃ。わかっちゃったか。ティナさん。本名は?」

「はい。ティナグレイブアリエッタ・フレイア・メルムランスと申します」

「なるほどね。メルムランスのお姫様か。あたしはね、こっちに流れてきた鬼人の二世だよ」

「やはりそうでしたか、それもかなり高位の」

「しーっ。武士は知らないんだから。って、武士その目、あー。あれか」

「はい。すみません」

 後で聞いたんだが、鬼人とは鬼の一族で、ドワーフとも古くから親交があるらしい。

 ハーフの麗華さんも、クォーターの志狼さんも長寿なんだそうだ。

「なるほどね。武士もドワーフなんだね。もう。本当はあたしの家族にって思ってたんだけど、メルムランスの王族ならいいか」

「はい。大事にいたします」

「へ?」

 自動ドアが開いた。

 俺と同じくらいの背格好のイケメンきたし。

「お久しぶりです。志狼さん」

「久しぶりだね。武士。あれ? あぁ、そういうことか。おめでとう」

 確かこの人俺より五つくら上だったはず。

 それなのに、まだ二十代に見えるんだぜ?

 初めて会ってからずっと顔変わんないから不思議に思ってたんだよ。

 ずるいよな。

「あ、ありがとうございます」

 志狼さんはティナの前に立ち、腰を丁寧に折って礼をしてくれる。

「僕はこの武士の兄代わりでした。風見志狼といいます。よろしくね。武士の奥さん」

 あだ名は『V3』だ。

 俺が心の中で呼んでただけだ。

 知らない人は忘れてくれていいぞ。

「はい。よろしくお願いいたします」

「いや、志狼さん。まだ婚約者だから……」

 つかつかと俺の横に歩いてきた麗華さんは、俺の背中を『バチーン』と叩いた。

「照れてるんじゃないよ。ほら、男だろう?」

「痛て、……あれ? 麗華さん手加減してる?」

「そんなわけないだろう。手加減なしで叩いたけど? あっちに行ってまた身体鍛えたみたいだな。いいことだ」

「……あぁ、そういうことか。いえ、こっちの話です」

 麗華さんは俺の前に、志狼さんはティナの前に座った。

「武士。ちゃんとご両親には報告してきたんだね?」

「はい」

「ならよし。いい子に巡り合えたね。あたしも安心したよ」

「ところで武士。彼女はいくつなんだ? もしかしてロリ──」

「違うって。俺のいっこ上だよ」

「メルムランスの王女様だと。武士、玉の輿だな」

 麗華さんはカラカラと笑いながら志狼さんに説明してた。

「なるほどね。安心したよ。俺の可愛い弟分がロリコンになったかと心配──」

「そんなわけないってば」

「あははは」

 麗華さんはティナの手を握って真剣な目でこう言ってくれた。

「ティナさん、でいいかな? この武士はね、両親がいない。おまけに前の嫁さんに手酷く裏切られたんだ。相手の男ってのがな、医者の息子で。一族もろともあたしがぶっ潰してやった。ケツの毛まで毟ってやったよ。あははは。武士の敵はあたしがとった。親代わりだからな。あとはあんたが武士を幸せにしてやってほしい」

 横で志狼さんが苦笑いをしていた。

 ケツの毛まで毟るとか。

 相手は医者かよ。

 どうりであの金額だったわけだ。

 志狼さんの話では、麗華さんが乗っ取ったんだと。

 病院ごと。

 怖いね、怒らせたらまずいわ……。

 てことは病院経営もしてるってことかよ。

 どんだけ大企業だよ……。

「はい。命に代えても」

「ありがとう、ティナさん」

「いいえ」

 なんだろう?

 友情のようなものが芽生えてるような気もしないんだが。

 がっしりと握手してるし。


 麗華さんがホテルを取ってくれた。

 ハイアットリージェンシー東京。

 その昔、ホテルセンチュリーハイアットという名前だった高層ビルにあるホテルだ。

 そこのプレジデンシャルスイートとかいう部屋だって。

 部屋に案内されてびびったわ。

 料金聞いたらびっくり。

 一泊なんと、にじゅうななまんえん……。

 あほかと。

 それを連泊で予約だってさ。

 ないわ。

 ググったらわかる。

 まじビビるから。

 こんなとこ、ひとりで放り込まれたら。

 寝袋で眠って、汚さないように気を付けるレべルだぞ。


 麗華さんとは明日夕食を一緒にとることになっていた。

 明日の夜まではフリーなわけだ。

 まだ時間は十九時を回ったあたり。

 とりあえず、新宿の街を楽しむか。

 それとも。

「ティナ。どこか行くか?」

「あのね、ここ行きたい」

 ティナがタブレットで表示してたのは、秋葉原だった……。

 流石に今からは店閉まってるだろうに。

 ティナのお腹が鳴ったことで晩飯に行くことになった。

 ホテルの中の寿司屋で寿司食べたよ。

 久しぶりだったな。

 『回らない寿司』は。

 ウニが、大トロが……。

 旨かったわぁ。

 ティナは俺が食べてるからといって、生の魚は初めてだったそうだが。

 実に美味そうに食べていた。

 全額払いは麗華コーポレーションらしい。

 ありがとう、麗華さん。


 もう少しゆっくりしたら、ティナと酒を飲みに行く約束をしてる。

 ティナはベッドにうつ伏せで横になって、タブレットで動画を見ていた。

 最近のお気に入りはちょっと古いんだが王道の魔法少女もの。

 『魔法少女ラジカルくれは』だった。

 ティナを店のカラオケで歌わせたんだが、オープニング全曲。

 歌詞見ないで、そらで歌えるんだぞ。

 すっごくうまかった。

 実は俺の店でひそかに名物になってる。

 お客さんのリクエストでティナが歌うんだよ。

 全部アニソンな。

 そのご褒美にティナはお酒を奢ってもらう。

 売り上げも上がるし、お客さんも盛り上がる。

 ティナも酒が飲めるといいこと尽くしだった。

「くれはちゃん、フェリアちゃん。可愛いな。メテオブレイカー、いいよね。『これがあたいの全力全開っ!』ってね。あぁ、撃ってみたい……」

 うっとりとした表情でそんな危険なことを口走っている。

「いや、危険だから。もしできちゃったら町が消滅するからっ」

 魔法が存在するんだ。

 もしかしたらあれくらいのがあるのかもしれない。

 まじでやりかねん……。

 俺のオタだからそういう妄想は大好きだ。

 ティナがくれはのコスしたら可愛いだろうな……。

 金髪だからフェリアか?


 ホテルのバーに来ていた。

 ティナには好きそうなグラスホッパーを。

 俺はジントニックを注文した。

 なんと、一杯千四百円|(税、サービス料抜きな)。

 チンッ。

 うん、旨いわ。

「あ、おいし。なんだろうこれ、……あ。チョコミントだ」

「よくわかったな」

「うん。甘くて美味しい」

 俺が頼んだのは要は、ジンのトニックウォーター割り。

 スタンダードなものだな。

 ティナのは、カカオリキュールに、ペパーミントリキュール。

 そこに生クリームを入れてシェイクしたものだ。

 奥武島の海の色のようなエメラルドグリーンの綺麗なカクテル。

 おまけにティナが言ったように、チョコミントの味のするものだからな。

 決して弱い酒じゃないけど、ティナにとってはデザートみたいなものだろう。

 体質が変わったのか、俺も悪酔いをしなくなった。

 俺はザ・マッカランの十八年物のショットを飲んでる。

 たまんないね。

 この鼻を抜ける残り香。

 バーの雰囲気もさることながら、可愛いティナのちょっと頬が赤くなってるのを肴に酒を飲むなんて、凄い贅沢だ。

 ティナも四杯目。

 スクリュードライバーを飲んで、ケロッとしてるし。

「おいし。オレンジだっけ? この味」

「そうだね。ってか、強くないのか? それ」

「うん。美味しいよ」

 俺も既に四杯目。

 ほろ酔いだもんな。

 いい感じに酔ってきたから今日はここいらでお開き。

 明日はティナのリクエストで秋葉原だからな。


 部屋に戻ってティナは風呂に入っている。

 俺はまだ彼女を抱いてない。

 ティナの両親に会うまではと言ってある。

 ティナは男を知らないだろうから、それほど迫ってはこない。

 その代わり、かなりキスを迫ってくる。

 それくらいなら俺も応えることはやぶさかではない。

 ティはな俺の息子を触ってくることがある。

 『苦しくないの?』って。

 バレてるんだよな。

 でも、『ケジメだからな』と言うと納得してくれるんだ。

 俺はティナを大事にしたい。

 それはわかってくれているようだからな。

 ティナと入れ違いに俺も風呂に入ってくる。


 風呂から上がると、ティナはバスローブを着たままだった。

 俺に抱き着いてきて、キスをする。

 バスローブがめくれてしまった。

 ティナさん、ぱんつ忘れてませんか?

 その、すっぽんぽんじゃないですか。

「……武士」

「ん?」

「我慢、しなくていいんだよ?」

「ばーか。俺はこうしてティナと一緒にいられるだけで、今は満足なんだ。だからこそ、そういうことはきっちりとしたいんだ」

「ずるいよ。ケチ……」


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