夜と朝の境界線を二人で結ぶ
微睡みの中に沈んでいた意識が、ゆっくりと浮上する。
思いの外軽い瞼を上げて、一番に見えたのは端正な顔立ちだった。
男のくせに長い睫毛が、静かに伏せられており、顔に小さな影を作っている。
「……今、何時」
カーテンの隙間から差し込む光は、オレンジ色。
そっと端正な顔から距離を取り、適当な場所に置いた端末を探し出す。
画面の電気を点ければ、デカデカと時間が映し出されて、浅く息を吐く。
出てきた数字は十八時四十八分。
既に夕方から夜に移り変わろうとしている時間だった。
「……あす」
端末の充電も半分以下になっているので、コンセントに繋がったままになっている、充電コードを手に取る。
そこで、丁度名前を呼ばれた。
名前、と言っていいのか微妙な、酷く曖昧で輪郭のぼんやりとした声だが、聞こえたので間違いはない。
「匡輔くん、起きた?」
振り返った先には、未だにベッドの上で横たわっている同居人で、恋人の男。
薄らと開かれた緑掛かった黒目は、私を映していて、ちょいちょいと手招きをした。
シーツの隙間から見える胸板が目の毒だ。
端末のお尻に、充電コードを差し込む。
そのまま、やはり適当な場所に置いて、再度ベッドに潜り込めば、手招きをしていたその腕が、私をぐるりと巻き取る。
ぎゅうぎゅうと抱き締められると苦しくて、鼻の頭が厚い胸板に押し付けられて、潰れそうだ。
「ねる」
「滑舌悪いよ。舌、回ってない」
「うるせぇ」
間髪入れずに言葉を返してくる割には、やはり舌っ足らずな言葉になっている。
そして、短い言葉しか返ってこない。
二人揃って休日、ということで、問答無用でベッドの上に放り投げられたのは、お昼を回った、十三時過ぎのはず。
いつ寝落ちたのかは全く覚えていないし、もっと言えば時計なんて見る暇がなかった。
「ねぇねぇ。晩御飯作らなきゃ」
鼻を潰されそうな状態のまま、手を伸ばしては、ゆらりゆらりと目の前の彼の体を揺らす。
女の曲線の多い体とは違う、どちらかも言えば直角で逆三角形で硬い体。
揺らしにくいったらありゃしない。
「……おれつくるから、ねろ」
本当?と顔を上げるよりも早く、後頭部に手の平が回されて、今度こそ確実に鼻が潰れた。
ぶぎゅっ、と変な声が出たのに、頭上からは、すよすよと一定の寝息が聞こえてくる。
胸板に押し付けられた鼻が痛いのに、何でそんなに気持ち良さそうに寝入っているんだろうか。
眉を寄せながらも、体を揺らしていた手を、筋肉質な背中に回す。
撫で付ける肩甲骨は、滑らかだ。
肌ツヤも良くて、乾燥なんて知らなさそうだ。
「約束だからね」
背中に回した手に力を込める。
汗と一緒に使っているボディーソープの匂いがして、ゆっくりと上下する胸板に頬を寄せた。
これ、夜に寝れるのかな。