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2015年/短編まとめ

ケンカップルの情事

作者: 文崎 美生

「どぉこ、行くのー?」


酷く間延びした、相手を馬鹿にしているんじゃないかと思うような声が、ベッドから這い出ようとした私を呼び止める。

下着しか身に着けてない私とは違い、上半身だけ裸のソイツは犬歯剥き出しの欠伸をした。


「どこって、シャワー浴びるんですけど」


逃がさないようにするためなのか、反射的になのか知らないけれど、掴まれた腕を振り払いながら答えれば、ソイツは不機嫌そうに眉を寄せる。

サラリ、と布団に広がる黒髪は男の癖に長めで、所々入れられた赤のメッシュが目に痛い。


眠そうに、と言うか機嫌が悪そうに目を細める彼は、私の腕を再度掴み直して、ベッドの中に引きずり込もうとしてくる。

掴まれた腕が悲鳴を上げるが、戻るわけにはいかないので足で踏ん張る私。


「ちょっと!私!バイト!ある!から!!」


だから離せ、と言わんばかりに言葉を強調して、抵抗をするがソイツは諦めない。

高身長の癖に、割と細身なソイツのどこにそんな力があるのは不思議で堪らないのだが。


必死の抵抗も虚しく、踏ん張っていた足を滑らせた私は、顔面からベッドへダイブ。

頭上から聞こえるソイツの笑い声に、少なからず殺意が湧いたのは言うまでもない。


「何かさぁ?そういうのって、味気なくなーい?」


「うるせぇ、味気とか関係ないんだよ。こっちは金が掛かってんだよ」


腕に力を込めて上半身を起こす。

間近で見るソイツの顔は、嫌味なくらい整っていて、この顔を見た後は鏡で自分の顔を見るのが嫌になる。

目鼻立ちの整った顔を見ながら舌打ちをすれば、喉の奥で笑うから更にムカつく。


下着姿の女と上半身半裸の男が、こんな昼近い時間までベッドの中でぐーすか寝ていた理由なんて、すぐに分かってしまうだろう。

もしもそういうことじゃなくても、そうなんじゃないか、と勘繰ってしまうのが普通。


まぁ、好きに勘繰ってくれて構わないが。

誤解しないで欲しいのが、私とソイツの関係だ。

ニヤニヤと楽しそうに笑いながら、私の手を絡め取るソイツと嫌悪丸出しで顔を歪める私は、正式にお付き合いをさせてもらっている恋人同士である。

――本当に、妄想とかじゃなくて。


「バイト、休んじゃえばぁ?」


「学校休むのとはわけが違うんですけど」


お互いにまぁまぁ学校はサボる方だが、少なくとも私の場合は、バイトはサボらない。

風邪で休んだりはするものの、ソイツの都合に合わせてサボったりなんて絶対にないのだ。

何故ならば、ソイツとの時間よりもお金を稼ぐ方が私にとって必要不可欠だから。


今日も今日とてバイトがあるので、本当なら昨日だって雪崩込むようにベッドに入りたくなかった。

一人で静かに寝たかったのだ。

それを、ソイツは……。

思い出して、ギリッ、と奥歯を噛み締めた瞬間、ソイツの唇が私の唇を食べる。


「いや、本当、真面目に、シャワー浴びないと時間ヤバイから」


軽くソイツの唇を噛んでから距離を取れば、先程までは楽しそうにしていたのが一変、はぁ?とドスの効いた声が聞こえた。

シャワー浴びないとヤバイくらいに、時間がヤバイくらいに、地雷を踏み抜いたらしくヤバイ。


私とソイツをケンカップルと称す友人が多数いるが――ちなみにケンカップルとはいつも喧嘩ばかりしているカップルのこと――こうでもしないと、ソイツが調子に乗るからである。

決して好きでカッカしているわけじゃない。


時間、マジで、とベッドサイドのテーブルに置いてある時計に目をやる。

バイトの時間まで二時間くらい。

シャワーを浴びて、何か食べて、着替えて、やることはそれなりにある。


「バイトなんていいの、いいのー。それじゃあ、頂きます」


頂きます、だけ酷く真面目な様子で、ぞわり、と鳥肌が立つ。

お前、マジか、なんて私の声を無視して、彼の手はブラのホックを外した。

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