トメ2
三日前トメの店の前を通りかかった時、心美は呼び止められたいた。
シルバースマホを買ったというのだ。だが使い勝手がよく分からないので教えてくれと頼まれ、とりあえず電話の掛け方と、検索アプリからのネットの操作方法だけ簡単に教えたのだ。
ネットはもう少し練習しなければだめだろうなと心美は思ったが、
電話の掛け方だけは、心美の電話番号を登録してその場で練習した結果、とりあえずマスターしたようだった。
神妙な声で電話口からトメの声が聞こえる。
「もしもし、こちらトメ、こちらトメ、心美さんいらっしゃいますか?」
「トメさん、固定電話じゃないんだから、出る時はね必ず私がでるのよ」
ドキドキを中断された心美はいつもより不機嫌に返事をした。
「ん? あれ? おや? 練習で電話掛けちまったんだけど、チュウーの途中だったかい? こりゃ、トメ大失態だね! 心美ちゃんそこに和希くんもいるのかーい? すまなかったねええ! 続きをしておくれよー!
心美ちゃんよお、和希君が近付いて来たらな、目はなあ可愛くつぶるんじゃぞい!
はいよっ! スタートッ!!」
「ちょっとお! トメさん! もう……」
「はぁ、全部聞こえたよ……やる気失せました……」
その日の和希はガッカリと肩を落とし帰って行った。
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「この! クソッタレ! おとといきやがれーー!!」
トメの店から飛び出してきた中年男性は自転車にまたがり、ベダルに体重をのせ猛スピードで去って行った。
どうやら今日の逃亡者は、通りすがりに店にふらりと入った大人のようだ。
あのセリフを吐いてはいけないことは、近所の住民なら誰もが知っているのでそうだと分かる。
店の入口ではロングカマーを構え、仁王立ちしたトメが立っていた。
「また、いつものやつかあ」
「きっと、そうね……」
「おや、心美ちゃんと和希君。いつも仲がいいね、今日もチューウの続きかい?」
「もう、トメさんっ! そんなことしていませんからっ」
「トメさんが邪魔しったっていうのが正解かな」
「やっぱり、そうだったかい? すまなかったね和希くん……今日は邪魔しないから、ゆっくりやっとくれ!
それより今、ヤパネットヤカヤが面白くってよ買いすぎちまって、何買ったか忘れちまってこの通りさ」
トメの店の入口には大小さまざまな段ボール箱が積まれていた。
店に並べる商品ではなく、いつの間にかネットを覚えたトメが、個人的にネットショッピングで買ったものだった。
まだ、未開封のダンボ―ル箱も何個かある。
トメが小さめの箱を開封して首をかしげた。
「これ、なんじゃろか? 可愛らしい箱だが、チョコレートかの? 一ダース入っとるぞ。なにしろ面白くてあっちこっちポチポチ押してしまったんでわっかんねーわ」
心美は箱を見て何も言えなくなった。
それは、今、高校生に人気のファッション雑誌に載っている女の子達の間で秘密裏に話題沸騰中の、カリスマ読者モデル亜理紗ちゃん監修の0・02ミリのカラフルコンちゃんだった。
女の子でも買いやすく一目でソレと分からないように、オシャレで可愛いパッケージになっている。
下を向いて黙ったままの心美に代わって、
和希は箱をひっくり返したりして調べている。
「あーーーっ! え? これ……うそ、トメさんどうするの……」
和希も気付いたらしく可愛い箱をダンボール箱に戻し、赤い顔をしてトメに耳打ちした。
「おおおぉぉーーーこれは、アレなのかい? いくら乙女でも、今更もう使わんじゃないか?
なんでこんなもの買ってしまったかの……」
それ、こっちが聞きたいよトメさんと、恥ずかしすぎる心美は声が出せない。
「こーゆーもんが、今は気軽に買えるんじゃなあ、昔はきっと手に入れるのが大変じゃったんだろうよ。
だからよお、父ちゃんと母ちゃんは七人兄妹の末っ子の私によお、トメって名前を付けたんだよ!
失礼な話だろ? 私を止めてどうするんじゃよなあ、自分達の性欲を止めろっちゅう話じゃろうが!」
「と、ところでトメさんは、どうして結婚しなかったの?」
コンちゃんから話題を変えたくて、心美は質問をした。
心美が物心ついた頃からトメはずっと一人暮らしだった。そしてトメはいつのまにかリサイクルショップを始めていたのだ。
和希も、心美と同様に恥ずかしくて話題にのってきた。
「トメさん、若いころはキレイだったんじゃない?」
トメは急にしんみりとなり、ため息を漏らした。
「和希君はお目が高いのう、わかるかい? そりゃもう、引く手数多のべっぴんだったぞい。
じゃがな私はなあ、犯罪を犯したんじゃ」
「えっ!! 犯罪?」
心美と和希は驚き同時に声を上げた。
高齢者にしては個性的なトメだが、その激しくも優しい性格に『犯罪者』というレッテルは似つかわしくなかった。
「私はなあ、泥棒じゃったのよ……」
二人は同じ思いでトメの店内を見回した。
この中の商品に盗品が混ざっているのかと思ったのだった。




