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トメ1

 富田トメ70歳 一応、乙女。

仕事は自営のリサイクルショップ。


嫌いな言葉は「これって、ゴミじゃないの?」


武器はロングカマー!


一番の自慢はトメ井戸から湧き出る天然水(普通の井戸水)


愛車はトメカー、ピンクの特注シルバーカーである。






逃げろーーー! と声がしてトメショップから子供が二人飛び出してきた。


今日の逃亡者達はどうやら、小学生のようだ。


「このクソガキ!待ちやがれーー!!」


 追いかけて来たのは富田トメである。手にはトメ最強の武器であるロングカマーを持ち、振り回しながら走っているつもりなんだろうが、どう見ても歩いている。


ロングカマーとは柄の部分が長いカマで、そう死神が持っているアレだ。

だが、トメの持っているカマーは草刈用なので、柄の長さに比べカマ部分は少々情けない。


小学生達はどうやら、禁句を吐いたようだ。


「これって、ゴミじゃないの?」だ。




「どうしたのよ、トメさん」


 声をかけたのは自転車で下校中の高校生、茂上心美だ。トメのリサイクルショップの二軒先に住んでいる。


「いつもの、やつじゃないの?」


 トメに代わって答えたのが、心美と交際三か月の毛利和希で、心美の家へ遊びに来る途中に二人でトメショップの前を通りかかったのだった。


「まったくよ、喉が乾いたって言うからよお天然水飲ませてやったのさ、そんな恩も忘れやがって、ウチの大切な商品をゴミだと抜かしやがった」


 心美と和希は顔を見合わせ苦笑いした。


「やっぱりね……」


「ところで、コレ知ってるかい? シーデーなんだけどよ、いい曲なんだよ。コレを聞きながら今からお買い物さ」


 ジャケットを見ると一昨年爆発的に売れて一発で消えて行ったビジュアル系ロックバンド、ブラックエッグの『デスヘブン』というシングルCDだった。


トメの店の中には要らない物を引き受けますコーナーがある。

恐らく、そのCDも誰かが置いて行ったものなのだろう。


そして、客を装った小学生達は、茶菓子目的も兼ねて下校中に寄りこみ休憩をする。

帰り際にはお礼のつもりなのであろう、不要になった文房具やら玩具やらを置いていくのだ。

寄り道禁止の校則も、

下校途中の茶菓子の誘惑には効果がないも同然だった。


例の言葉さえ吐かなければ、トメは優しいのである。

天然水と共に大きな茶菓子盆が出されるのだ。



トメは店の奥から、特注のピンク色をしたエナメル張りのシルバーカーを押してきた。

小型のCDプレイヤーを搭載し買い物に行くらしい。


「トメさん、薄暗くなってきたし危ないんじゃない?」


「それじゃあ、そちらの和希君に、わらわのナイトになってもらおうかね……へへー、嘘さあ! 

秘密兵器があるんよ! バッテリー内臓トメカーの威力を見よ! スイッチオンだがね」


シルバーカーに絡まっている小さな電球たちがクリスマスツリーの如く点滅し始めた。


「エルイーデーだぞ! これなら危なくないべさ、どうじゃ!」


「すげーや、これなら、車も、危ない人も、普通の人だって避けて通るな」


「ちょっと、和希言いすぎだよ……ところでトメさん何を買いに行くの?」


「そこの、コンビニにおでんを買いにいくのさ、美味いんだなこれが! 汁がたまんないんだよ、デッカイお椀に汁をたっぷり入れてもらうんだ。それをな、翌日飯にぶっかけて食べるのさ! 二度楽しませてくれるんじゃ」


 トメはCDプレイヤーのスイッチをオンにし、大音量のビジュアル系ロックと共にトメカーを押して歩き出した。

心美はそれでも心配なので見送ることにした。

コンビニまでは三百メートル程の距離だが普通でも歩みの鈍いトメは、ロックを口ずさみながらなのでカメ並みに遅い。

早く心美の家で二人きりになりたい和希がソワソワと足踏みをしている。

そんな二人のことなど気にも留めないトメは歌う。


「うぇいーー! ふわぃよーうぅーうぅあああー、きぇいちゃーーんどうあー、なーむいーどぅーーー

やぁー!」


「何? あれ? 念仏? ひでーな」


「もう、和希ってば言いすぎ! ……うん、でも確かに念仏だね」


 トメの一人電飾パレードは、コンビニまでもう残り三分の二まで歩いて行ったから大丈夫だろうと、心美が和希に行こうと自転車を押し始めた時だった。

トメが立ち止り頭を振り回している。


「すげー! ヘドバンしてるじゃん!」


 ヘドバンはすぐに終わり、トメは目が回ったのか蛍の集団を身にまとったトメカーは、ふらふらと蛇行して進んでいった。




二人はトメのリサイクルショップから目と鼻の先の心美の家に着き、玄関のドアを開けた。


「ただいまー」

「こんばんは、おじゃまします」


二人が言い終わるか終らないかのうちに、心美の左肩の方から子供の声がした。


「お帰りなさい、ボクさみしかったよ」


二人は飛び上がって驚いた。

心美の家には小さな子供はいない。それも、あらぬ方向から声がしたのだ。

心美は「キャーッ」と和希にしがみつき、いる筈がない小さい子供を確認しようと、恐るおそる和希の胸から顔を浮かした。

下駄箱の上に十五センチ位の男の子の人形がチョコンと座っていた。

心美の叫び声に驚いた母親が、夕飯作りの途中で濡れた手をタオルで拭きながら玄関に小走りでやってくる気配に、くっついている二人は急いで離れた。


「ああ、ゴメンね驚いちゃった? その人形ね、うちのお婆ちゃんがトメさんから買ったのよ! トメさんが言うにはなんでもお年寄りの間ではブームらしいのよ、おしゃべりタケシ君って言うんだって……最初リビングに置いていたんだけど、私もどうにも気持ち悪くって玄関に置いちゃったの。

困ったわね……どこに置こうかしら」


 母親は、タケシ君の置き場所は後で考えるから和希君も夕飯食べていきなさいね、準備しちゃうからねと言って台所に戻って行った。


母親の声に反応してタケシ君は喋った。


「ボク、お腹すいちゃったよ」


タケシ君の声とは分かってはいたものの、心美の身体はピクリと跳ねもう一度和希に飛びついた。


「怖いよねぇ? 毎日、玄関開けたらこれじゃ、私、心臓が止まっちゃう」


「俺、タケシ君好きだけど……玄関に置いておいてくれると嬉しいけどな……へ、へ、トメさんありがとう」



 夕飯を食べ終わった二人は今日一日あった出来事などを報告し合いながら、心美の部屋でくつろいだ時間を楽しんでいた。

和希が帰る時間も近付き、名残惜しみながらの短い時間の貴重なイチャイチャタイムである。

頬っぺたなどを突き合いながら、今日こそオデコか頬にでもキスができればいいなあと、二人見つめ合った。


ナイスなバッドタイミングで心美のスマホが鳴った、トメからの着信だった。































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