少年の話
俺が恋をしたのは、中学一年の時だった。
たしか、午前中に身体測定があり、その後の給食中の出来事が切っ掛けだったと思う。
その頃の俺は、クラスでも一番のチビで、身体測定が憂鬱だった。そんな中、一人の女子が俺に話しかけたのであった。
「愛羽君は絶対に身長伸びるよ。そうしたら、絶対カッコよくなるね」
その女子は笑顔で、俺に向かっていったのであった。
身長が小さいかった俺は、体格も小柄で顔立ちもあまり男らしい感じではなかった。そのことで、たまにからかわれることもあったりした。
しかし、その子は成長期が来たら背が伸びて、格好良くなるといったのだ。そう言われたのは、初めてで顔には出さなかったが内心とてもうれしかった。
そして、俺はその子のことが少し気になるようになったのだ。
それが恋だと自覚したのは約二年後。何もかも手遅れになった後であった。
その女子の予言が的中するように夏休み頃から、俺は成長期に入った。
二年に上がった時には、背の順で前だった身長が真ん中にまで移っていった。
そして、その頃から女子たちがよく俺に話しかけるようになっていった。夏休み前に一人の女子から告白され、一ヶ月ほど俗にいうお付き合いを体験する。
しかし、あんまり楽しくなかった。人のペースに合わせるのが微妙で、女子といるよりも男同士で遊んだほうがずっと楽しく感じられた。
夏休み明けも、度々女子に告白されたが、すべて断った。
「羨ましいな、隼人」
「何がだよ」
「また告白されたんだろ? えーと、一組の山根さんだっけ? 結構可愛かったような」
「何か、楽しくないんだよ。息苦しいというかさあ」
「……この贅沢者が」
こんな多愛もない話をして、気楽に過ごしていた。
そんな中、俺は一年の最初だけ同じ班になった女子だけは従業中など気になって視線を向けてしまう。その時はまだ自覚していなかった。
そこから、数カ月後の三月。
部活の荷物を教室に忘れ、取りに戻っている最中に一人の女子に呼び止められた。
「……何か用?」
「付き合って欲しいの」
「……ゴメン、無理」
間髪入れずにそう返した。
「い、いきなりでごめんね……部活頑張って」
女子は顔を伏せながら、小走りで去っていく。もしかしたら、泣いていたのかもしれない。
付き合うとか未だよくわからず、男同士の方が気楽である。
「大丈夫か? 調子悪いなら、帰ったほうがいいぜ」
部活中あまり元気でなかった俺に心配してくるチームメイトがいた。
そこまで、具合が悪いと自覚していなかったのだが、周りが気づくほど良くないものだったらしい。
「悪い……そうする」
俺は素直にそういって、部活を途中で切りやめた。
家に帰ると、そのままベッドに倒れ込む。
断ったのは俺の方なのに、何故か胸がとても痛く感じられた。
告白してきた子は、一年のあの出来事から切っ掛けに、今まで視線を送っていた女子だった。
頭のなかがモアモアとし、俺は石内未来のことが好きだということを自覚した。
そして、ベッドの上で俺は悶えていた。
間髪入れずに答えたくせに、実際は正反対な思いを胸に秘めていたのである。
「明日、俺から声をかけよう」
そう決意したが、次の日から石内はあからさまに俺を避けるようになっていた。
それに協力するようにクラスの女子たちによって声を掛けることができない。思春期特有の気恥ずかしさで人前で声を掛けられないせいもあった。
そんなこんなで、三年生に上がってしまう。毎年クラス替えがあり、この二年間は偶然同じクラスになれたが、幸運は続かず三回連続にはならなかった。
クラスも離れると完璧に疎遠になってしまう。
石内が体育の時、俺が窓から石内を見るだけになってしまったといってもいいぐらい。
そんな中、 ゴールデンウィーク明けの廊下で、石内とその友達が話していた。
「高校かー。どこがいいかな」
「私は聖有栖学園かな。部活動も色々あるし、なんか楽しそう」
「何かオシャレだよね。制服可愛いし……でも、偏差値が足りない」
もうそろそろ保護者面談もあるため、志望校について話しているようだった。
聖有栖学園。県内有数の進学校。俺の頭だと手が出せない学校だが、そこの学校は部活動にも力を入れ特にサッカー部は県内有数の強豪校。
頭でダメなら、サッカーならいけるのかもしれない。俗にいうサッカー推薦という存在を俺は知っていた。
県内有数の強豪校ということもあり、比較的親とは話がまとまった。
保護者面談で一般入試では厳しいが、推薦それもスポーツ推薦が取れればほぼ確実に入学できると先生に言われたのだ。
スポーツ推薦は夏にある大会の結果と、学校見学の時に行われる選抜試験の様子を見て推薦がもらえるか決まるそうだ。
そこからは、今まで以上にサッカーに力を入れた。
その源が好きな子と同じ学校に行きたいという不純な動機だとは誰にも言えない。
三年最後の夏大会では、県内ベスト四。選抜試験の結果も上々で、推薦を貰えると聖有栖学園から連絡を貰えたのだった。
卒業式目前。あれから、石内と話す機会は訪れなかった。
そんな中、珍しく石内が一人で走っているのが見えた。足が勝手に動く。
「石内!」
俺は大声で石内の名前を呼んだ。すると、石内はビックリするように振り返ったのだ。
「よっ! えーと、矢内も聖有栖学園に行くんだろう?」
何か言わなければ。しかし、口から出た言葉は、本題に触れることはなかった。
「そうだけど、どうしたの?」
「い、いや、高校でもよろしくなっ!」
今まで告白してきた女子たちが凄いと思った。このチャンスでいうしかなかったのに、結局俺は言うことができなかった。
次のチャンスは高校に入ってから。
次こそは告白したいと思う。その前に謝りたい。
短編終了。高校生編は特に書く予定はありません。




