少女の話
前編後編での短編です。
中学二年の冬。私はクラスメイトの愛羽隼人に告白したのだった。
「付き合って欲しいの」
「……ゴメン、無理」
そして、断られた。
多分断られると思っていた。しかし、自分の中ではっきりしたかった。なので、いつ告白するか。ただ、そのタイミングをずっと待っていたのだ。
私が愛羽隼人に出会ったのは、中学一年の春。
同じクラスだった。名前の順番で席に座っていくので私の斜め右上の席が愛羽くんだった。
そして、席替えまでの短い間同じ班になった。
愛羽君の第一印象は、小さい。クラスで一番小柄で、可愛らしい顔立ちをしていた。
そのためか、色々とそのことでからかわれていたように見える。
午前中に身体測定があったお昼時。
給食の時間は、班で席を合わせみんなでご飯を食べていた。
「どうしたの?」
「えっ? ん……あんまり身長が伸びなかったから」
そんな中、いつもは元気な愛羽君の様子がおかしかった。
訪ねてみるとそんな返答が帰ってきた。
「愛羽君は絶対に身長伸びるよ。そうしたら、絶対カッコよくなるね」
私は笑顔で愛羽君を励ますようにそういった。今は可愛らしい顔立ちといわれるが、大人になればもっとシャープな感じになってきっと格好良くなると思う。
身長も伸びれば、すっごいイケメン君になるのかなーっと私は気軽に考えていた。
「なるかな?」
「なるって……ねっ?」
それで、励まされたかどうかは分からないが、その後の愛羽君はいつもの調子に戻り給食をお代わりをしていた。
愛羽君の関わりは以上で、ゴールデンウィーク明けには席替えが行われ愛羽君と違う班になった。
そしたら、もう話すことはあまり無くなったのだ。
愛羽君は小柄ながらも、運動神経はよかった。小学校は地元のサッカーチームに所属し、中学ではサッカー部に入っているらしい。
そして、私の予想が的中するように、夏休み明けに見た愛羽君は、春にあった愛羽くんとは一味違っていた。
成長期に入ったのか、夏休みの間だけでもスッと背が伸びているように感じられる。
一年が終わる頃には、男子の中でも真ん中辺りの身長になっていった。そして、顔立ちもそれに合わさるようにだんだんと男らしくなっているように思えた。
二年のクラス分けでは、偶然にも愛羽君と同じクラスになった。そのときに、久々に愛羽君と少し話をしたと思うがよく覚えていない。多分、同じクラスだね。よろしく。程度の話だったと思う。
愛羽君は小さいイメージが根強かったのだが、二年になるとまたイメージが一新される。それは、女子の間の話で可愛い可愛いと言われていた愛羽くんが、いつの間にかカッコイイカッコイイに変化していた。
小さい時の可愛らしさは嫌いではなかったが、付き合うという意味合いではなかったらしい。それが、格好良くなり愛羽君は学年一のイケメンになっていた。スポーツも良くでき、イケメン。クラスの女の子も愛羽君のファンが多かった。
私は最初の頃から愛羽君を見ていて、誇らしかった。最初から私が目を付けていた的な。しかし、特に告白するとか恋とかは気にしなかった。
ただ単に、カッコイイなと思ってたまに隠れて愛羽君を見るぐらいで止まっていた。
これが、恋だと自覚したのは夏休み明け。
愛羽君が私の知らないうちに誰かと付き合っていたらしい。
しかし、夏休み中に別れて、今はフリーになった。その後、隣のクラスの子が告白したらしいが、断ったらしい。
理由は、付き合うとかあんま楽しくなかった。今は男同士のほうが良いからっといったもの。
その理由を聞いた一部の女子は要らぬ妄想をしていたが、私はそこには触れなかった。
愛羽君が誰かと付き合っていた。そのことが原因で、私は愛羽君のことが好きだと自覚した。
しかし、告白しても振られるのは明白。
なら、このまま告白しないでいようと思う。そもそも、競争倍率も高く私よりも可愛い女の子も多い。
そのままグダグダと行けば、なにも起こらずに三年生に上がったのだろう。
しかし、三年生になるとまたクラス替えが行われる。噂になると、三年連続同じクラスになる可能性は低いと聞いた。
今までは同じクラスでたまに、愛羽君をチラリと見る行為ができたが、それができなくなる。元々仲が良いわけではないので、完璧に疎遠になると思ったのだ。
そしたら、もう違うクラスになるのなら告白してもいいのではないのかっと私は考えついた。
ほぼ100%断られるが、そのほうがスッキリする。そう思って、私は告白するタイミングを窺っていた。
冒頭に戻る。
断られることは予想していたが、いざされると心に響く物がある。涙が出てくるのを堪え、愛羽君の前から私は走り去った。
このことは、すでに友人たちに話しておりその後色々と慰められた。
「二年越しの恋も終わりか……」
「てかさあ、三年の時クラス同じだったら気まずいよね」
「……だ、大丈夫でしょう。多分」
まだクラス替えは発表されていない。もし、同じクラスだった時のことを想像するとなんとも言えなくなる。
四月になり、私と愛羽君は違うクラスになった。
安心した反面、少し残念だった。そこから、私は完璧に愛羽君と疎遠になったのだ。
「高校かー。どこがいいかな」
「私は聖有栖学園かな。部活動も色々あるし、なんか楽しそう」
「聖有栖学園って何かオシャレだよね。制服可愛いし……でも、私だと偏差値が足りない」
五月下旬に保護者面談が行われる。もう進路について話し合う時期になってきたいた。
私は二年の時から聖有栖学園に進学しようと決めていた。県内有数の進学校だったが、私の成績でも十分手が届く学校だったので私立一本で頑張ることにした。
そこの学校は、母の母校ということもあり、ずっと勧められていたのだ。
自宅から片道一時間程度。それほど遠くはなく、制服は可愛いと評判。進学校の割にそこまで校則が厳しくないという話も聞く。部活動も活発で、全国大会に出ている部活動も多いらしい。
それを聞くと、中々良さそうな学校に見えて、私はそこに行くと決めていた。
夏休み前に、愛羽君が私と同じ聖有栖学園に行きたいという噂が流れてきた。
その頃の愛羽くんは身長もぐっと伸び、体格も大人になっていた。もう、どこかのアイドルグループの人たちよりも格好良く見えるほど。同学年だけではなく、下級生の女の子たちにも大人気になっていたのだ。
聖有栖学園はサッカーの強豪校で、どうやら愛羽君はそこでサッカーがしたいらしい。
その噂を聞きつけて、聖有栖学園に進学したい女生徒が増えた模様だったが、残念ながらそんな気軽にいける学力でないため大多数が諦めたらしい。
そして、冬になり私は無事に入学試験に合格し聖有栖学園に入学することが決まった。
あとは、中学の卒業式を迎えるのみ。そんなとき、私は愛羽君に声を掛けられたのだった。
「よっ! えーと、石内も聖有栖学園に行くのだろう?」
走ってきた様子の愛羽君。何か用事でもあるのだろうか。
「そうだけど、どうしたの?」
「い、いや、高校でもよろしくなっ!」
愛羽君はそれだけいって、走り去ってしまう。入試の日は違うが、聖有栖学園に進学する生徒は私と愛羽君、あともう二人ほどしかいなく、それでわざわざ挨拶に来たのだろうか。
聖有栖学園は、一学年400人程度いるので、高校になったら今まで以上に愛羽君と会うことはできないだろう。
しかし、もう私は愛羽君とのことは完璧に諦めていこうと思う。中学のことは中学で、高校のことは高校で。
そして、私は中学校を卒業した。
4月。
私、石内未来は聖有栖学園に入学した。
私はここで恋をしようと思う。
次は愛羽視点。