旅に出よう④
そして、武器屋でガラッドの情報を得てからほかのところでもガラッドのことを聞いてみたのだが、収穫はなかった。ガラッドはここに来てからは、基本的に武器屋にいたらしい。結果、ほかの人は知らないという結果に至るらしい。
そうやって情報を探し続けて、いつの間にか滞在予定の期間を過ぎていた。明日は、帰るのだ。
「よーっし、今日は嬢ちゃんたちの送迎会だっ!」
そしてこの日の晩、なぜか村の人全員が広場に集まり、送迎会という名の飲み会が開催されることとなった。ガーネット、飲んだら詳細を宰相に伝えるからな。
まあ、言わなくても未成年だから飲まないだろうけどね。
「さあ、飲め飲め! 子供でも、ちっとくれえならいいだろう!」
「馬鹿言ってんじゃないよ!! こんな子供にお酒はダメに決まってんじゃないの!!」
周りの男たちが叫ぶ中で、女の人は本気で私たちに酒を飲ますまいと止める。うん、面白い。
ってこら、ガーネット。飲もうとすんな。抑えきれずに飲もうとすんな、馬鹿。
「ガーネット」
「わ、分かってるって! 飲まない飲まない」
「飲むならジュースね」
「分かってるよ。シュロも、飲むならジュースね」
「分かってるよ。私がお酒呑んだら、多分やばいことになるもん」
この身体でお酒なんて飲んだことないからね。多分尋常じゃないほどに酔っ払うだろうね。
「おら、飲め飲め」
「これ、ジュース?」
「おう! 子供でも飲めるジュースだぜ?」
「んじゃ、もらう」
ジュースとのことでちょうだいして、そのジュースを飲む。………あれ? 何か、喉が焼ける……?
「ってアンタ! これお酒!!」
「え? わ、悪ィ! ジュースはこっちだった!」
……つまり、これは、お酒? ………あ、何か、頭くらくら………する。んきゅう。
「シュ、シュロぉ!?」
あー、ガーネットの声が聞こえる、けど…………もうダメ眠い……。
*****
「シュロっ!?」
「大丈夫です、私が運びます」
シュロがお酒を飲んで倒れた後、倒れこむシュロをささえようとしたガーネットだったが、それはすぐ後に現れた人影によって、阻止された。
「私は、陛下よりシュロ様の護衛を命じられております、影の者です。シュロ様は、私が部屋で寝かせておきますので、ガーネット様はこちらの村の方の対応をお願いいたします」
「わ、分かったわ。シュロをお願いね」
そして、シュロを抱きかかえたその人―――ピルチは、シュロを抱きかかえて部屋へ向かう。そして、その部屋につくと、顔を真っ赤に染めて眠るシュロをベッドに寝かし、きれいに毛布を掛けた。
その後は、眠り続けているシュロを見守り、時折毛布を脱ぎ出たりするとすぐに、また着せ付ける。………母親のようだ。
「ん…………、パパ、ママ………」
そうしていると、いきなりシュロが泣きながら、両親を呼ぶ。まあ、この場合の両親は現実のシュロの両親のことなのだが、ピルチにはゲーム内のシュロの両親のことと考えたようだ。
ピルチも、カイウィルからシュロの境遇は聞いている。幼いころに両親を亡くし、親戚をたらいまわしにされながら魔法を学び、幼いうちから魔法の仕事についた。
結果、ピルチは両親を想いながら泣くシュロの頭を撫でながら、優しい言葉をかける。
「大丈夫ですよ、シュロ様。何も怖くありませんよ」
「ん……あ…………」
「私がいます。シュロ様は、お一人ではありません」
「ん………」
そうしている間に、安心したのかシュロの寝息は穏やかなものとなり、ゆっくりと、深い眠りへと堕ちて行った。
*****
「ん…………」
「あ、目が覚めた? 大丈夫?」
目が覚めると、近くにガーネットがいたのか、声をかけられた。
その声に反応し、体を起こす。
「んあっ!!」
その瞬間に、激しい頭痛に襲われた。
「だ、大丈夫?」
「あたま……痛い。大きい声……出しちゃ嫌……」
「あー、二日酔い、かな?」
「飲んだの……、あれ……お酒?」
「そう。村の人が間違えちゃったみたいでね」
つまり、私が村の人の勘違いで間違えてお酒を飲んじゃったせいで、見事に今日は二日酔いになっちゃったわけだ。
「うー、あたまいたいー」
「大丈夫? でも、今日はもう帰らなきゃだよ? 一日延ばす?」
「たぶん………、へーき………」
「一応、医者を呼んで薬を貰おうか」
「んー」
でも、頭痛い。馬車の揺れとか、平気かな……。でも一応、医者を呼ぶという意見には賛成。少しはマシになればいいんだけど。
「二日酔いですからね。薬を出しますが、すぐには善くなりませんよ?」
「分かってます…………」
少しでもマシなら、それでいい………。
「後は、眠るための薬を出しておきましょうか。寝た方が楽になるのも早くなりますよ」
「おねがい……します……」
もうダメ限界助けて……。ガーネット、私、もうダメ……。
「シュロ。涙目で見つめないでよ。ほら、薬飲もう。楽になるよ。寝てる間に出発するからね」
「お願い………」
頭痛が本気で危なすぎる………。薬………、薬………。
「ほら、口開けて。薬入れるから」
「ん」
というわけで、ガーネットの指示に従って口を開くと、薬が口に入って来、その直後に水が入って来るので、そのまま飲み込む。
それから少し待つと、あっという間に睡魔に襲われた。ので、そのままその睡魔に従って、眠りに落ちる。
「シュロ、起きて。ご飯食べよう。頭痛いのは、どう?」
「ん…………」
あるときに起こされて、ふと頭痛はどうか考えると、いきなり頭痛に襲われた。
「………まだ、治っていないみたいね」
「ん…………」
うー、痛いー、痛いー。頭痛やばいー。
「何か食べたら、また薬を飲もうか。飲んで、また寝よ? 寝た方が楽になるよ」
「うん……。楽になるなら………」
ちょっとでも、楽になる方を選びます。
というわけで消化のいいもののほうがいいだろう、とのことで携帯食をより柔らかくしてもらったものをそのままガーネットに食べさせてもらった。だって、動いただけで頭痛いんだもん。
「はい、あーん」
「あーん」
「もっと食べる?」
「うん……」
「じゃ、あーんして」
そうやって食べさせてもらい、薬も飲ませてもらう。そして、また寝た。
ちなみに、私が誤ってお酒を飲んで二日酔いに襲われていることはばっちりカイウィルにも報告はいっているらしい。頭痛に襲われるなかでも、それは聞かされた。最悪。
そして寝かしつけられて、また起こされてご飯を食べて薬を飲んで、また寝て。
それを繰り返して夜が明けると、頭痛はかなりマシになっていた。まあ、まだ痛いけど。
『二日酔いは善くなったか? シュロ』
「あー、カイウィル、ですか。まだ頭痛がします」
『きちんと薬は飲んだのか? 飲んだほうが早く楽になるだろう』
「ちゃんと飲んでます。頭痛いし……」
『そうだな。ちゃんと飲んで、元気になって帰ってこい。二日酔いのまま帰って来るなよ』
「……王都につくまでに後何日あると思うんですか。それまでには善くなります」
カイウィル、何をバカなことを。大体、二日酔いっていうくらいだから、二日もあれば善くなるものなんでしょう? 王都につくまでには善くなるはずじゃんか。
…………………あー、頭痛い。ガンガンする………。
「ガーネット、私、寝るね………」
「まだ頭痛いんだね。いいよ、おやすみ」
うー、頭痛い。おやすみなさーい。
ということを何日も続けながら王都へと戻ることとなった。
が、なぜか頭痛は収まらないという不思議。
「フィガイラに診てもらえ。いいな」
結果、城に戻った瞬間に報告が行っていたらしいカイウィルに、今回の旅の報告もそこそこに医務室に追いやられた。
「………まだ幼いのに、酒を飲むからです」
「飲みたくて飲んだわけじゃないんですが……」
「問答無用です。まあ、頭痛の原因には太陽の光もあるかもしれませんが」
「太陽の光?」
「はい。太陽の光をずっと浴びていると、頭が痛くなる人もいるのですよ。シュロ様も、そうなのかもしれませんね」
「そんなのもあるんだー」
「太陽の光による頭痛は、暗い場所で休むと善くなる人が多いようです。部屋を暗くして、お休みください」
ということで、フィー先生に命じられた看護師さんに部屋まで連れられて戻ることとなった。戻った時には、既に部屋はしっかりとカーテンが閉められていた。
そして、部屋に入った瞬間に私の身柄は看護師さんからメイドたちに渡り、すぐさまベッドに押しやられた。
「さあ、旅でお疲れでしょう? 食事の時間まで、お休みください」
「冷やしたタオルを頭に置いて差し上げてください。それだけでもかなり楽になるはずですから」
「分かりました。シュロ様、シュロ様はお休みください。シュロ様がお休みの間に、冷やしたタオルをお持ちいたしますので」
そう言って、まずは着替えさせられてベッドに寝かしつけられてきっちりと毛布を掛けられた。
さて、ここまでされたし、後は寝るか。どうせ起きていても文句を言われるんだ、寝よう。ぐう。
そして、目が覚めたらなぜか。なぜか! カイウィルがいた。
「目が覚めたか。具合はどうだ? 頭が痛いのはマシになったか?」
「んー」
「熱は………ないな。どうだ?」
「だいぶ………マシ、です」
「マシ、ねぇ。ということは、まだ痛むんだな。………フィガイラを呼ぶか?」
「いえ」
そこまでしなくても大丈夫ですよ。お酒飲んで酔いつぶれた翌日よりも、相当楽なんですから。後何日から寝てればすぐによくなりますよ。
「では、簡単にでいい、報告をしてくれるか? 出来るか? ああ、無理だと思ったらすぐに言え。無理して報告はしなくていい」
「大丈夫です。えっと、じゃあ………」
そして、一つずつ報告をしていく。
村には惑乱の魔法がかけられていたこと。
明晰でそれを解いたら、迎えだという村の人間が来て、その人に連れられて村へ入ったこと。
村の武器屋で、ガラッドの情報を手に入れたこと。
ガラッドの目的は、魔法仕事をしている人間の天敵とも言えるアイテムであること、などだ。
「ふむ。ガーネットに聞いたのと大して変わらないな。……まあ、ガーネットは初日は酔ったようだが」
「あ、それはガーネットは悪くないので責めないでくださいね」
「分かっている。ガーネットも、わざと飲んだわけでもあるまいしな」
ちなみに、この国での飲酒は、成人してから可能となる。これは国によっては違うようだが、ここ、ルィンディアでは成人から飲酒が可能となる。まあ、ガーネットくらいの年だと、たしなむ程度には飲むんだろうけど。
だが、私のこの身体は十四歳。まだ、酒など飲んではいけないし、普通に飲もうとも考えない年である。その結果が、見事な二日酔いを通り越した、……………もう何日酔いか分からない。
「しかし、あの村にはもう少し解放しろと命じなくてはならんな」
「へ? どうして?」
「まず、飲む酒が強すぎる。ガーネットが一杯で醜態を晒すなど、よほど強いぞ。そのせいで、お前の二日酔いもなかなか治らんのだろうし」
へー、そうなんだ。だから、この頭痛いのもなかなか………。って考えてたら、また頭痛くなってきた。
「あ、おい。もうしばらく寝るなよ。もうすぐ食事だ。食べて、フィガイラの出した薬を飲んでから寝るんだ」
「………はい」
「消化のいい食事を用意させているから」
そうして少し待つと、麦をとろとろに煮込んだらしいお粥を、メイドが盆に載せてやってきた。
「シュロ様、麦をミルクで煮込んだものをお持ちいたしました」
「ああ、そこに置いてくれ。シュロ、起きれるか?」
「はい……多分」
そう言いながら、ゆっくりと体を起こすも、起こすその瞬間に再び激しい頭痛に襲われて、また横になった。
「起こすぞ。ゆっくり起こすから、頭が痛くなったら言いなさい」
「はい」
そうしてゆっくりとカイウィルに起こしてもらい、クッションを背に置いてそれに寄りかかる。そしてその後は、カイウィルが甲斐甲斐しく手を焼いてくれた。
「ほら、口を開けろ」
「ん………」
素直に口を開くと、スプーンを持ったカイウィルが、きちんと冷ましながら食べさせてくれる。ちなみに、それを見るために魔法を使っていたため、今は使うなと叱られた。ので、魔法は使わずに普段の私の視界のままで、カイウィルに食べさせてもらった。
そして、食べた後はすぐにフィー先生調合の薬を飲み、また寝かしつけられた。
「さあ、寝るんだ。元気になったら、ガラッドの調査状況を教えてやろう」
「はい………」
「いい子だ。明日が、シュロにとっていい日でありますように」
旅に出よう、終了。
あ、未成年の皆さんは飲酒はいけませんよ。
話の中で飲ませた私が言うことではないかもしれませんが。
でも、一応言わせてくださいね。
未成年の飲酒はダメ! ゼッタイ! です。