旅に出よう③
すみません、日にち空きました。
でも、次がいつになるかは分からないです。
「何の用だァ、嬢ちゃん」
「とある鍛冶師の情報が欲しい」
「情報料は」
「情報次第だね。情報が有力なものなら、金を払う」
「はん。探してんのは、ガラッドだろうォ? 払ってもらうぜ」
私たちが武器屋に入ってすぐにドワーフのおそらく店長らしき人間に話しかけられた。しかも、情報に関してはしっかりと分かっているらしい。
では、店長よ。ガラッドに関する情報が欲しい。くれ。
「俺が知ってんのは、つい二月前くらいにここに来て、材料を売ったことと、もう出て行ったってことくれぇだ」
「え、それだけ?」
「あん? いい度胸じゃねえか、嬢ちゃん。せっかく、あの人がどこに行くか聞いてたのによォ」
「教えて」
「情報料は、何をくれんだぁ?」
「金」
「金は分かってらぁ。いくら、くれんだぁ?」
「だから、情報次第だってば」
「報酬次第、だぜ?」
「……………具体的な場所を教えてもらえるなら、銀貨五枚。あいまいな情報なら、その情報次第で銅貨を払う」
ちなみに、この世界の通貨の単位は、G。一Gが基本的に日本でおける一円となる。そして、銅貨一枚が大体百円、銀貨一枚が大体千円となる。
つまり、具体的な場所を教えてもらえるならば五千円、それ以外ならば情報によって金額を変えるということにしてみた。
「ちっ。確実じゃねえが、欲しいアイテムを言ってたから、なんとなく予想はできるぜェ。それで、いくらくれる?」
「………銀貨、三枚。それでどう?」
「いいだろう。彼は、あのアイテムが欲しい、と言っていた。あ? あれだよ、あのアイテム」
「げ。まさか、アレ?」
「おうさ。魔法仕事の連中が異様に嫌がるあいつだよ」
……うわー、ガラッドのやつ、何であれを欲しがるんだ。
あのアイテムは、なぜかその近くにいる魔力の強い人間からじわじわと魔力を吸い取るのだ。つまり、私たち魔法仕事の人間には、天敵ともいえるアイテムなのだ。
「で、そのアイテムって言ったら、あの町で取れるって昔言われてただろォ?」
「………あー、あの町ね。近寄りたくない。絶対に嫌。あの町に行ったら、魔力根こそぎ奪われる」
「ま、またここに来るようなことがあったら、アンタ―――名前は? 探してたって伝えてやるよ」
「シュロ。ありがとう」
「その代り、銀貨三枚と銅貨五枚くれや」
「ん、分かった。その代り、頼むよ」
「任せとけい! 金を貰う以上、ちゃんとやるぜ」
というわけで、このドワーフに銀貨と銅貨をしっかりと支払い、宿へ戻る。ガーネットに話をして、そしてカイウィルたちに伝えなくては。
ということで、急いで宿へ戻り、ノックもそこそこに部屋に入る。
「ど、どうしたの? シュロ」
「ガラッドの目的が分かった」
「へ!? 何、何なの?」
「私たちの天敵アイテム。それが、ガラッドの目的だ」
「って、あれぇ!? あの、近くにいるだけでどんどんと力を奪われるアレ!? あいつ、何でそんなものっ!?」
「知らないよ。ひとまず、カイウィルに連絡しなきゃ………」
ということで、念話開始っと。
「カイウィルー。業務報告ー」
『シュロか? すまない、忙しいからまたあとで連絡を貰っていいか?』
「へ?」
『本当にすまない。そうだな……、後一時間ほどしてからまた連絡を貰ってもいいか?』
「あ、分かった。じゃあ、またあとで」
むむむ、忙しいとな? こちらも早く伝えたかったのだが、忙しいのならば仕方ないか。
「陛下、お忙しいの?」
「だってさ。後一時間くらいしたら連絡してってさ」
「そんなにお忙しいの。何があったのかしら」
「さあね。とりあえず、一時間くらいしてから、また聞いてみるよ」
カイウィルも、何か今、大変な仕事を抱えているのだろうし、一応一時間は待つ。一時間したら、また連絡する。それまでは、ガーネットと相談しつつ、時間を潰すか。
「ガラッドが探してるの………、ホント、私たちには天敵よね」
「だね。あれは…………、前に痛い目見た……」
ゲーム時代、そのアイテムで作られた建物に行って、私の膨大なMPすらも削られて、MPがゼロになって魔法を使えなくなって死にかけたことがある。確かあのときは、アイテムを使ってそこから脱出した。
その経験から、しっかりとそのアイテムはトラウマと化している。ちなみに、その時にガーネットもパーティを組んでいたため、同様である。
「が………がくがく、ぶるぶるぶる………」
「やっぱ、ガーネットも覚えてるよね、あの地獄………」
「忘れられるものですか。あれは………あの、魔法を使いたくても使えない脱力感……、忘れられないわよ」
あの時は、なぜか魔法パーティを作っていたため、完全に地獄を見た。歩いて先に進むたびにMPはなくなっていくし、魔法仕事は基本的に攻撃力は弱いし。ぶっちゃけ、魔法のない魔法仕事の人は、最強的に、壊滅的に弱い。
そして結果、全滅となりそうになったがその寸前にアイテムを使って抜け出して、何とかなった。ちなみにガーネットも、あのときは瀕死状態だった。
そして、その建物をアイテムを使って抜け出してすぐに町に行って瀕死状態だったガーネットたちを蘇生させたっけ。
「あの、魔法を使えずに痛い目を見たあれは……」
「私も、あのときMP完全にアウトだったしねー。あのときは本気で全滅するかと……」
あれは恐怖。あれはトラウマ。あのとき、確かゲームの中のくせに、カイウィルに叱られたんだよね。延々と言葉が続き、そのくせにキー連打でセリフの省略もできず、一定時間が過ぎてようやく話が進んでたっけ。
なんていうか、あれも嫌だ。あのお説教も嫌だ。あの一定時間が経たないと進まないあれが、嫌。
「……うん、思い出したくないね。ガラッドのせいだ」
「ガラッドのせいね。ホントもう、思い出すだけで鳥肌が立っちゃう」
ガーネットは腕をさすりながらそう告げる。うん、私も完全に鳥肌立ってる。あそこ、レベルが上がってからもずっと近寄ってないからね。MPは基本、寝ないと回復しないし、アイテムは無駄に高いし。
と、そうして二人で昔を思い出していると、さっきから考えてすでに一時間が経過していた。というわけで、カイウィルに念話を繋ぐ。
「カイウィル、今は大丈夫ですか?」
『ああ、シュロか。さっきはすまなかった。何か、情報が手に入ったのか?』
「はい。ガラッドの目的としているアイテムが分かりました。私たちはいけないので、魔法仕事じゃない人間をやってください」
『魔法仕事じゃない人間? それは、絶対か?』
「絶対条件です。魔法仕事してる人をやったら、痛い目見ますよ」
魔法仕事の人たちを潰したくなければ、魔法仕事の人以外を連れて行くべきですよ、カイウィル。
「私たちの場合は、完全に経験談ですから」
そうしていると、突如ガーネットが新たにカイウィルに念話を繋ぎ、話に入り込んだ。
『ほう。シュロだけではなく、ガーネットも経験済みなのか?』
「はい」
『では、戦士系の職業の者を遣ろう』
「ええ、お願いします。じゃあ、私たちは予定通り、後数日滞在したら戻ってきますね」
『分かった。無事に帰って来るように』
そして念話を終えて、ちょっとぐったりと、ベッドに横たわる。久しぶりに長距離で念話を使ったものだから、消費MPが半端ない。
「疲れた?」
「うん。まだMPは残ってるんだろうけど、精神的疲労が半端ない」
「少し寝たら? 私も気分が大分復活したから、お腹空いたら起こすから、一緒に食べに行こうね」
「うん。じゃあ、少し寝かせて………」
寝れば、少しでもMPは回復する。MP切れはしばらくは起こさないだろうけど、辛いな。
念話は基本、話したい人のことを強く思い描いて、話ができるようになっている。が、距離が遠くなると、近くにいる以上にイメージを濃厚にしなければつながらないため、かなり疲れるのだ。
結果、現在疲れ切ってベッドで熟睡の時間である。ガーネットも寝ていいよ、と言ってくれているので遠慮なく眠ることにする。
だってさ、カイウィルのことを強く考えるのって………、何か嫌だよね! ブラコンみたいで。
そうしてぐっすりと眠っていると、遠慮なしに体が揺らされる。目を開いて探索・新の魔法を使って周りを確認すると、ガーネットが私の体を揺らしていたようだった。
「シュロ、そろそろご飯を食べに行こう。先にフィアを遣って、準備を頼んでるから」
「ん………」
「まだ寝ぼけてる? ほら、起きて起きて」
「んー…………」
そんなガーネットの姿を確認して、のんびりと起き上がろうとするのだが、体はその意思に反して、再びベッドへ戻って行く。
「まだ眠たいの? ご飯、もうちょっと後にする?」
「おきる………」
「じゃあ、起きて。手、貸そうか?」
「かして……」
結果、ガーネットの手を借りて起き上がることとなった。だって、自力じゃ起き上がれそうになかったんだもん。
ということで、手を借りて起き上がり、ついでに危なっかしいからと手を借りながら歩いて朝のあの場所へ向かうと、既に準備ができているのか、すぐに出迎えられた。
「おう、嬢ちゃんたちか! もう準備できてるぜ! ……って、起きてるか? 目が寝てねえか」
「おきてる……」
「寝かけてるな。しっかり食って、目ェ覚ませ」
「ん………」
「シュロ、起きて起きて」
「だから、おきてる、よ………」
むう、なぜに宿の人もガーネットも、私が寝てるということにしたいのか。起きてるもん。ちゃんと起きてるもん。
「じゃあ、ほら、食べようか。シュロもお腹空いたでしょ?」
「ん………」
そうして席について、のんびりと、もきゅもきゅと食べ始める。が、食べているのにまだ眠たい。そんなにMP消費したかな?
前、ゲーム時代に旅に出ている間に急激的にMPを消費した際、異常に眠たくなった。というか、ことあるごとに「もう寝たい」、「眠い」などと言ってくれたため、仕方なく、寝かした。疲れたな、あれは。
まあ、今回の睡魔もそのためだろう。遠距離の念話でMPを消費し、ついでに精神摩耗をしているのだ。
「シュロ、食べたらお風呂入る? それとも、もう寝る?」
「お風呂……、入る。体べたべた」
「じゃあ、一緒に入ろうね。……………怖いから」
「だいじょぶ、だよ……。一人で入る」
「ダメ。お風呂で寝ちゃいそうだから、一緒に入るよ」
むう、確かに眠たいけど、お風呂で寝るほど器用じゃない。とは訴えるが聞き入れてもらえず、結局ガーネットと一緒にお風呂に入り、フィアに髪を乾かしてもらってすぐにベッドに入った。それからはすぐに寝た。
さて、明日はどこでガラッドの情報を得ようか。
情報は多いに越したことはない。たくさん、情報を入手しようじゃないか。
と、そう思っている間にぐっすりと、深い眠りに落ちていくこととなった。ぐう。
出迎えたドワーフはもちろん、
ガラッドじゃありませんでした☆