旅に出よう①
気温が少しずつ上がりつつある今日この頃。私はこれより旅に出ます。目的は、ガラッドの情報収集だ。
カイウィル曰く、今まで調べた中である場所に、ガラッドが行ったかもしれないという情報が入ったかららしい。しかもそこは魔法を使えるものしか入れない上に、かなり使えないと入る前に追い出される。今まで、何人もの魔法使いや魔術師をやったものの、全員力及ばず、追い出されたそうだ。
で、結局カイウィルは嫌そうな顔をしながら、私にその話をしたということだ。
「大体、何なんだそこは。国王の名代さえ追い返しおって」
「カイウィル、不機嫌ですねぇ」
「不機嫌だとも。シュロを行かせたくないが、今まで以上の魔法使いなどの職業についている者は、もうシュロしかいないからな」
「ええ。私が行ってきます。あ、ガーネット連れて行っていいですか?」
「むしろ連れて行け。連れて行かずに行くことは許さん」
「じゃあ、ガーネットと相談して、出発の日取りなどを決めます。決まったら、報告しますね」
「ああ。絶対に、無理のない予定を組むように」
その話を聞いたとき、カイウィルは本気で不機嫌だった。最初は国王の名代として、普通の文官とその護衛の騎士をやったらしい。だが、そこに魔法使いはおらず、入り口の時点で追い返された。
しかし、それを考えるとガラッドはどうやってその村へ入ったのだろうか。あいつ、ただの鍛冶師だよね。
そう、ガーネットと話しながら旅の支度をしつつ、予定を練りまとめていく。
「大体、ガラッド一人であの村に行けたことがおかしいのよ」
「だよねぇ。カイウィルが言うには、魔法使い系の職業についてる人以外は、追い返されるんでしょ?」
「そう。あの場所は昔から閉鎖的でね。魔法で守ってるの」
「それを打破するには、魔法しかないってことね。ところで、その村まで何日くらいの予定?」
「うーん、馬車で十日………いや、それにさらに二日ほどプラス、かな」
「十二日? 結構かかるなぁ。………じゃあ、移動に片道十二日だから、往復で二十四日っと。じゃあ、村への滞在は六日くらいかな。それなら、ぴったり三十日だ」
「そうね。じゃあ、その予定でお兄様や陛下に確認していただきましょう」
「だね。じゃあ、カイウィルに出してくるよ」
というわけで、カイウィルのところに大まかにまとめたこれを、提出に向かう。
「カイウィル」
カイウィルの執務室の扉をノックして名を呼ぶと、すぐに中から扉が開かれた。扉を開いたのはもちろん、宰相である。
「どうぞ、シュロ様」
「カイウィル。今度の旅の予定、ガーネットと組んだから持ってきたんだけど」
「ああ、置いててくれ。今少し忙しくてな。時間が出来次第確認する」
「シュロ様はお部屋で、ガーネットとお待ちください」
「分かりました。ガーネットとお話してます」
そしてカイウィルに指示を受けた場所に予定表を置いて、部屋に戻る。すると笑顔のガーネットに出迎えられた。
「お帰り。陛下とお兄様、何か仰られてた?」
「今は忙しいらしいから、後で確認するって。それまではガーネットと部屋にいろって」
「じゃあ、何か話す?」
「その村に関して、分かってるだけ教えて」
行く前の情報収集は基本だよね。ていうわけで、あの村の情報を教えろ。
「あの村? あの村の人間はまず、魔法使い系の職業についているか、魔法を使えるもの。あの村は子供すらも魔法を使えるらしいよ」
「へー」
「あんまり驚かないね。………あ、シュロも子供か」
「子供言うな!!」
ぷんぷん。大体、私の場合は小さい頃ってないんだよ。このアバター作った時点で、設定が十二歳くらいだし。そこから魔法使い、魔術師、魔法士ってランクあげたもん。大して時が流れないゲーム世界万歳。
「で、その村の出入りは絶対に魔法で村全体にかけられてる魔法を何とかしなくちゃ入れない。ここまではいい?」
「うん」
「じゃ、続ける。だから、その村では小さいうちから村の魔法を何とかするための強い魔法を覚える」
つまり、あの村の出身者ならば強い魔法を使う職業につけるわけだ。
「で、その強い魔法でまた、村を守るわけ」
「うっわ、閉鎖的」
「そうよね。何でそこまで閉鎖的にするんだか」
「いろいろあるんだろうね」
ま、いいさ。とにかくガラッドが見つかればそれでいいのだ。私の第一目的は、ガラッド。彼が見つかれば、それでいいのだから。
そして、カイウィルに提出した予定表は無事、問題なしと判断されたらしく通り、それから準備に準備を重ねて、私とガーネット、そしておそらく隠れてついてくるであろう影たちの旅は始まった。
「とは言えど、馬車の中だから退屈だよね」
「だね。馬車の中で何してようか」
「馬車を御するのはフィアたちに任せてればいいしね」
「だね。退屈ー」
その旅の途中、馬車の中でガーネットと話をするのだが、本当に退屈だ。心の底から退屈だ。
「じゃあさ、恋バナしようよ。女の子の定番でしょ。シュロ、気になる人いないの?」
「え、いないけど? ガーネットは?」
「私は生まれた時点で婚約者いるからね」
「…………ちなみに、どなたと」
「え? 同じ侯爵家の方よ。私よりも五つほど年上でね、お優しい方なの」
「へー。名前、聞いてもいい?」
「フィルギレッテ侯爵家の長男、サーケイラー様よ」
フィルギレッテ? ああ、聞き覚えあるや。確か、そこの長男が宰相の下で文官してて、味方だったはず。あの人は会っても笑顔で挨拶してくれるいいヒト。
うん、ガーネットの婚約を反対する理由はないな。賛成します!
「うわー、いい笑顔。何? 何を考えたかお姉ちゃんに言ってごらん?」
「お姉ちゃんって、笑えるんだけど」
「なぜ笑う。お姉ちゃんでしょう? シュロよりも年上なんだから」
「あーはいはい、お姉ちゃんの結婚は賛成できるって考えてただけですよーだ」
「へ? シュロって、サーケイラー様のこと、知ってたっけ?」
「宰相の部下の文官でしょ? あの人は会ったら笑顔で挨拶してくれる」
「さすがサーケイラー様………」
おーい、ガーネット? 自分の世界に入り込むなー? そのフィルギレッテの嫡男の素晴らしさは分かったからさ。
とは言っても、ガーネットはまだしゃべり続けており、黙る気配が見られない。ふわー、眠たくなってきた。寝よかな。暇だし。
「………ってあら? シュロ? シュロ?」
うーるさーい。もう寝かせろ。
ちなみに、目が覚めたら体中痛かった。馬車が走っている間に、あちこちぶつけたらしい。
「今日の宿についたら、手当てしようね」
ガーネットは言うが、支えててくれればうれしかったよ。本気で。痛いもん。体中、ホントあちこちぶつけたらしいし。こりゃ、青あざだらけだよ、きっと。
まあ、唯一の救いは、寝ている間にもうすぐ今日の宿のある町の近くまでついていたこと、だろうか。
それにしても、全身が痛い。
「はい、脱いで脱いで」
「え」
「あちこちぶつけたんでしょ? 今のうちに診ておこうね。まあ、傷の様子によっては町の医者を呼んで診てもらうけどね」
わー、何それー。――――って、問答無用で脱がそうとするな!!
「ガ、ガーネット!?」
「いいから脱ぎなさい。痛いんでしょ」
「いや、いいから! いいってば!!!」
「よくない。いいから脱ぎなさい」
「やめ………あたたたた!」
「痛いんでしょ。ほら、この部屋には私たちしかいないから」
むう。ここまで言われると診てもらわざるを得ないのか。……ていうか、もうほとんど脱がされてるしね。
「お、諦めた? ………って、結構ぶつけてるね」
「かなりあざだらけ?」
「うん。…………何か所か、ひどいよ? フィア、医者呼んできなさい」
「大丈夫だってば!!」
「ひどいって。フィア、いいから行きなさい」
「はい!」
ってこら、フィア!! 勝手に医者を呼びに行くな! 大丈夫だって、ガーネットが過保護なだけなんだから!!
だが、次にフィアが戻ってきたときは医者や看護婦を連れてきたのか、足音が複数人分聞こえた。
「ガーネット様、シュロ様、連れてまいりました」
ってこら、ガーネット! 私はこの状態で、服も着せてもらえないのか!!
「だって、何か着たら、ひどい部分が見えないのよ」
そう目で訴えると、無事届いたらしく苦笑しながら返事が返ってきた。
「これは、ひどいですね。何をして、こんなにあざだらけに?」
「馬車で寝てて、たくさんぶつけたみたいなの」
「そういうことですか。……全体的にぶつけただけで、骨に影響はないようですし、冷やして、湿布薬を貼ってください。湿布薬は後で届けますので」
「分かりました、ありがとうございます」
その後、医師から診察ということでいろいろと触られ、どのように痛むか確認をされ、などしてようやく診察が終わったらしいので、ごそごそと服を漁る。そうしていると、それを見ていたらしい看護婦さんがどうぞ、と服を渡してくれた。
「あ、ありがとうございます」
「いいえ。……ところで、目は………」
「あ、はい。少しは見えるんですけど、ほとんど見えません」
「そうですか。………あなたの旅に、よいことがありますように」
渡してもらった服を着ながら、看護婦さんとそうやって話をする。やっぱ、見えないのは分かるのか?
ちなみに、後でガーネットに聞いた話によると、私は最初、あさっての方向を漁っていたらしい。それで看護婦さんも分かったのだろう、とのこと。
「って、何で服着たの。冷やせないじゃない」
「いや、いいじゃんか着ても。冷えるんだよ」
「そう。……まあ、いいか。服をめくるね。めくってから冷やそう。だから、横になって」
「うん」
そしてうつ伏せに横になるとすぐに服がめくられて、熱を持って痛いその場所に、濡れたタオルが置かれた。ひんやりー。そして、そのひんやりな場所は、少しずつ増えていく。………私、どれだけぶつけてたし。
それにしても、熱を持ったその場所を冷やすと、ここまで気持ちがいいものなのか。
そうしていると、部屋の扉がノックされる。え、誰。
「ガーネット様、シュロ様。看護婦さんが湿布を持ってきてくださいました。こちらへ置いておきますね」
「ああ、分かったわ。ありがとう、フィア。看護婦さんにもお礼を言っておいてくれる?」
「畏まりました」
ああ、フィアか。看護婦さんが湿布を持ってきてくれたわけね。
「もう少し冷やしたら、湿布を貼ろうか」
「んー」
いやー、ひんやりしてて気持ちよすぎて……。さらに眠たくなってきたわ。
「眠たいなら寝てていいよ。夕飯の時間になったら起こすからね」
「ん……。じゃ、お願い………」
じゃあ、気持ちいいから寝かしてもらおう。ご飯の準備が出来たら起こしてねー。くうくう。
「シュロ、夕飯だよ。起きなさい」
そしてしばらく寝ていると、ガーネットに起こされた。ふむ、もう夕飯の時間とな?
……って、あれ? ぶつけたところ、湿布が貼ってあるのか? 絶えずひんやりとした感じがして気持ちがいいんですが。
「ほら、食堂に降りよう。お腹すいたね」
「だね」
「あ、歩ける? 痛くない?」
言われて、少し起き上がって動いてみる。よし、無問題ということで頷いて返事に変えた。
「じゃあ、行こうか」
そしてこの日は、おいしく夕食をいただき、お風呂に入って再び湿布を貼ってもらい、熟睡した。うん、疲れてたんだろうね。よく寝れた。
というわけで、今日もまた馬車の旅だ。今日は、馬車では寝ない! ぶつけない! 決意した。