休息の時
目を覚ますと、目の前が真っ暗だった。…………あれ? これ、何てデジャヴ?
そう思いつつ、目元に手を伸ばすと、何か柔らかい感触が手に触れる。そしてその柔らかいものを移動させると、一気に光が目に入った。うん? 置いてあったのは、タオルか。
「シュロ様! お目覚めになられましたかっ!?」
「あ、うん……」
「具合はいかがですか? 頭がくらくらしたりはしませんか?」
「ん……、まだちょっと……頭くらくらしてる、かなぁ……」
「それはいけませんね。さあ、お休みください。朝になっても調子がすぐれないようでしたら、陛下に報告いたしますので」
「げ」
「朝までは、お待ちいたします。朝になっても体調がすぐれない場合は、諦めてください」
……朝まで待ってくれるあたり、いいんだろうな。なら、まだマシだ。ひとまず寝よう。
ちなみに、翌朝までこの逆上せの影響は残り、ばっちりカイウィルに報告が生き、フィー先生の診察を受けることとなった。いや、診察を受けるのはいいよ? でも、カイウィルに報告行くのが嫌なんだよ。
「シュロ様、診察をさせてくださいね」
「……………はい」
「まず、どのような症状があるか、聞かせていただいてもよろしいですか?」
「頭、くらくらする。起き上がったら、一気にきた」
「ふむ。失礼いたします。強制情報開示」
やってきたフィー先生はベッドに寝ている私のもとに来て、調子を聞かれたので正直に答えると、ステータスを見られる。さて、どうなのだろう。
「少し、熱が出ていますね。今日は安静にしていてくださいね」
「んー」
「それと、逆上せるまでお風呂に入らないようにしてくださいね」
「次から、気を付けます……」
大体さ、逆上せたのもメイドが入って来なくていいところに入ってきて、なかなか出てくれないせいだ。
しかし、少し熱が出ているせいか、このくらくらするのは。
「さあ、お休みください。このことは、陛下にしっかりと報告しておきますね」
くそう。昨夜逆上せて体調を崩したことも、今日、それで熱を出したこともすべて筒抜けになるのか。何か悲しい。しょぼん。
そう思っていると、濡れたタオルが頭に置かれる。メイドが置いてくれたようだ。
「お休みなさいませ、シュロ様」
ああうん、寝ろと言うことだね。確かに頭もくらくらして起き上がるのも辛いし、今は寝るよ。
そして、お昼前に目を覚まして食事をとり、また寝て夕飯前に目を覚ますと、その時にはしっかりと熱が下がっていた。
「ですが、今日はまたお休みください」
が、メイドたちにそう言って無理やり寝かしつけられた。なぜだ。もう熱は下がってる、無問題! だから、少し起きておかせろ!!
とは言っても、完全に無駄だった。最後にはガーネットと宰相を呼ばれ、二人からも寝ろと言われてベッドに横にされた。………だって、ここで起きてると、間違いなく今度はカイウィルの召喚を喰らうもん。
――――仕方ない。寝よう。せめてフリだけでも。寝てるフリで、何とかこの二人を騙してしまおう。
そう思いながら目を瞑ると、少しして足音が聞こえ、ガーネットと宰相が出て行くのが分かる。後はメイドたちがいなくなれば、こっそり起きていても問題はなくなる。
そして、辺りの音が消え、静寂が広がってくると、ゆっくりと確認を兼ねて目を開き顔を動かしてあたりを確認。うん、誰もいない。
というわけで、バレないよう気を付けながらゆっくりと毛布をめくり、起き上がった。さ、逃げるか。ダミーとして毛布を丸めたものに毛布を掛けておく。しばらくは騙せるはずだから。
幸い、今は夜だ。逃げ出しても私の姿は夜の闇がある程度隠してくれるだろう。
というわけで、レッツ、お散歩タイム。はーはっはっは。私を止められるものなど、今ここにはいないのだ!!
「シュロ様」
「え?」
と思っていたら、突然声がかけられる。が、辺りを見回しても誰もいない。そう考えていると、突然目の前に、上から人が落ちてきた。
「誰」
「陛下よりシュロ様をお守りするよう命じられております、影の者です」
「影ぇ!? カイウィル、わざわざ……」
ちなみに影とは、このルィンディア王国の裏の顔だ。表の顔の騎士団やカイウィルでは解決できないことを秘密裏に解決する存在。カイウィル、それを私に使うな。
ていうか、影。影もそんな命令を受けるな。受ける前に断れ。
「影。名前は? 呼び名でいいから」
「ピルチ、と呼ばれています」
「桃?」
「はい。影になった当初、見た目がピルチのようだったとかで……」
「へえ。じゃあピルチ、見逃して」
さて、逃がしてもらうためにもまずは、呼び名を聞きましょう。というわけで聞いたが、まさかのピルチ。ピルチは美味しくて好きだ。
というわけで、私の好きなピルチの名を持つ影さん、見逃してください。お散歩させてください。
「ダメです。陛下からの命令は絶対です」
「うー。カイウィルからの命令内容を詳しく教えて」
「守秘義務です」
「ピルチ」
「守秘義務です」
ちっ。
「カイウィル」
教えてもらえなかったので、渋々ながらも念話で直接カイウィルに聞く。
『どうした? 眠れないのか?』
「質問なんですが、影に私に関して、何と命令しました?」
『は? 何のことだ?』
「しらばっくれても無駄です。今日、影と遭遇しましたよ」
『……シュロの身の安全、だな』
「もっと詳しく」
『もっとぉ!? ……シュロが危険な場所へ行こうとしたら止めろ。シュロが無理をしようとしたら止めろ。偶然危険に巻き込まれようものなら、守れ。ほか』
ほかって、なんやねん!! て言うのは置いておいてっと。今回の件は影が出張る理由にはならないと思うのだが、どうなのか。
「ピルチ」
「今回の件は、シュロ様が無理をなさろうとしている、という点ですね。さあ、お戻りください」
「あっさりと答えるね」
「陛下が理由を話されてしまわれましたので」
「そっか。でも、これは全然無理じゃない」
「無理に当たります。部屋に戻ってください」
「無理じゃないから戻る理由にはならない」
「無理にあたるでしょう。さあ、部屋へ戻って休んでください」
「勝手に無理と決めつけるな」
「このままシュロ様を行かせてしまっては、我々が陛下の命に逆らったということになります。どうかお戻りください」
「嫌だ」
「嫌だ、じゃありません。………申し訳ございません」
「え」
しばらくは言い争い。その中で突然、ピルチに抱え上げられた。―――しまった!
「さあ、部屋へ戻りますよ」
「ちょっと待って! 降ろせ!!」
「降ろせません」
そうしている間にもピルチは部屋へと戻っていく。そして、その騒ぎで気が付いたらしいメイドたちが慌ただしく部屋の明かりをつけて、部屋へ入ってきていた。
「シュロ様! お休みになられていなければなりません!!」
「何故お起きになられているのです! 休んでください!」
「大丈夫だって! このままじゃ眠れないから、少し歩いてきたいだけ!」
「いけません!!!」
そしてメイドに雷を落とされた。さすがにびっくりです。あまりの驚きに私の体は硬直し、その間にピルチにベッドに降ろされていた。
そしてその上から、メイドたちが毛布をしっかりと掛けて、上から抑えられた。
「ちょ! 重い!!」
「いけません! 離したら、シュロ様はまたご無理をなさるのでしょう!」
「あーもう! 分かった、寝るから」
「本当ですか?」
「本当だよ。それに、どうせピルチが見張ってて、起きだそうとしたら止めてくるんでしょ? なら、寝るよ」
「では……。ですが、シュロ様。ここで仮にまた先ほどのようなことがあったら、その際は陛下に報告をさせていただきます」
う! カイウィルに報告をされると、それも面倒なので大人しく寝ておこう。眠れなくても、ベッドの上にいよう。………カイウィルに報告が行くと、後が心底面倒だし。
ひとまず今は、カイウィルへの報告を避けるための方法を考えながら、目を瞑っている。
そして同時に、もし! もしもカイウィルに報告が行った場合、どうやってごまかすべきか。うーむ。
そう考えていると、傍観を貫いていたピルチがさらっと悪魔の一言を発した。
「ああ、そうでした。シュロ様、本日の件は陛下に報告をいたしますので」
「え?」
「報告は、義務です」
ちょ、待てぇぇぇぇぇぇえぇぇぇ!! やばい! 本気でどうやってごまかそう!? カイウィルが…………カイウィルが……………がくがくぶるぶる。
どどど、どうやってごまかそうか。どうやってカイウィルの怒りを何とかすべきか。
まずは、元気であることを主張。その上で、眠れそうになかったから散歩に行こうとしただけ、と主張。
後は………どんな説得を………………しようかと考えている間に、私の意識は闇にのまれていた。
二日に一話投稿でもストックが尽きそうです。
今の時点で、ストックがあと一つしかありません。
二日後にまた投稿して、それ以降は
出来次第投稿に変更します。