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三十一壊目「告げる・下」

「いいんですか? 置いてきてしまって」


「自分から行ったんやで? 待ってたら邪魔なだけや」


「でも、あいつはホントにドンカンだよ。マンガの主人公じゃねぇんだからよ……」


「もしそうなら、ワイらは盗み聞きしようとする脇役やな」


「脇役でもなんでもいいですから、ここから離れませんか? 怪しまれますよ」


「……いいんだよバカヤロー……! もしかしたらノリでそのまま……ぶほあぁっ!」


「確かに出歯亀やし……、外で待ってよな」


「ですね。ほら、前橋君、行きますよ……!」


「最近殴られてばっか……」



……



「遂に……か……」


「そうやな。いろいろ忙しかったんやから……」


「……もしかして、あなた方は気付いて……」


「当然だろ? ……あのさ、話変わるけど、クラスで流行った“陸奥実&東條カップル説”あったよな?」


「あっ! 言うたらアカンでっ!」


「? えぇ。確か、付き合ってるとか……でしたね」


「新戸君、聞かんといて!」


「あれ、実はな……」


「とおやあぁぁぁぁぁん!」



……奈多弓が勝手に流行らせたんだよ



「……? どういうことですか……?」


「それは絶対秘密言うたのに……」


「二人とも自分に素直じゃねぇもんだから、噂流したんだよ。つまり、周りで何気なくあいつらの気持ちを矯正させたわけだ。……悪く言うとな」


「……そうだったんですか」


「……あんさんたち、絶対二人に内緒やで? 真乃やんですら知らないんやから……」


「でも強ち、本人達は嫌そうではなかったですよね。照れてましたし……」


「それほどお互いに意識はあったってことだろうな。あぁ〜! オレも青春してえぇぇぇぇっ!」


「あはははは……、そうなったら僕もさり気なく応援しますよ」


「アンタ、自分の立場わかっとんのかぃ?」


「? どういうことです?」


「新戸君のファンクラブあるそうやで?」


「……え?」


「それでも、噂の若海先輩にムチューやもんなぁ」


「あの先輩、マジ好みッス、新戸センパイ!」


「止めてくださいよ。僕は、……!」


「! おいっ陸奥実! お前、どこ行く……」


「はあっ、はぁっ、っっ!」


「……なんかやばくね?」


「……! 今の時間は……!」


「十一時五十二分やねんけど……?」


「いけません! すぐに捕まえないと……!」


「任せろっ!」


「奈多弓さんは東條さんを! 僕は追いますっ!」


「わかった!」


「もしもし、虹にぃ! ……今何してますっ! ……よかった! 今、陸奥実君が逃走しています! …………それはありません! 彼の容体は明らかに異様でした! …………残り五分もありません! 急いでください!」






 最後の最後で逃げられるとは……、僕もつくづく甘い。


「はぁっ、はぁっ!」


 身体が重い。食べ過ぎたか? しかし、僕の他にもいる。


「大丈夫か! 新戸!」


 陸上部のエース、前橋君だ! 彼は僕のペースに併せて走っている。


「先に行ってください!」


「任せろ! このチーターのような走りっぷりを、」


「!」


 前橋君がぐらりと右前方につまずいて転んだ。ダイナミックにこけたみたいだ。


「前橋君! 立てますか!」


「……」


「? 前橋……くん……?」


 俯せの彼を抱えようにも、重すぎて無理だ。


「!」


 よく目を凝らして見ると、


「ま、さか……」


 耳のあたりから出血していた。それも涌き水のように溢れ出していた。

 急いで首の脈をとるが……、


「し、死んでる……!」


 止まっていた。

 馬鹿な……! 音もなく……? スナイパーライフル?


「……くそ!」


 僕はポケットから携帯電話を取り出す。ボタンを押す指が震える。


「……もしもし、―――地区で友人が撃たれました! 助けてください」


 僕は携帯電話を死体の傍に置き、走り出した。ごめん、前橋君……!


「!」


 僕の右のふくらはぎから、とてつもないほどの激痛が走った。


「ぐあぁぁあ!」


 あまりの痛みにバランスを崩して、転がり込む。


「いだだ……」


 痛い、痛い痛い痛い!どこから撃たれたっ? 僕を殺す気だ!


「くそ……!」


 どくどくと地面に血が流れていく。さ、さむくなってきた……。


「ち、血が……」


 減って朦朧としてきた……。せ、せめて前橋君のところへ……。


「ぐ、ぐぞぉぉ」


 陸奥実、くん……しぬな……! はやまっちゃ、だめだ……。こう……に……






……ガタッ



「あっ……」


「! 誰だっ!」


 突然の物音。俺は素早くそちらへ身を返した。ちょうど居間の方のドアにいた。


「真乃!」


「えっ? あぁあぁ、えっっと、そうです」


「なんでここにいるっ!」


 無意識に怒鳴り付けてしまう。


「ふぇっ……、あ、あっあの、忘れ物を取りに……」


「そんなことじゃないっ!」


 俺、どうしたんだ……? まだ修正は利く。今すぐに謝るんだ! 真乃は……。


「俺が聞きたいのは……」


 何を言おうとしているんだ……? 俺は……なんで……何の関係のない真乃を……。


「どうやって……入ってきた……?」


 疑っているんだ?


「そ、それは……」


 真乃、どうして顔を歪めるんだ? 正直に鍵が開いてたって言ってくれよ。どうして目を伏せる?


「鍵が閉まってなかったんで……」


「……そうか……」


 そうだ。俺は鍵を閉めなかったのではなく、閉められなかった。外界とを断ち切ることが出来なかった。いや、半分は諦めていたかもしれないが。

 とにかく、謝るんだ。変な言い方だが、真乃は無害だ。今なら酷いこと言ってすまなかったって言える。

 しかし、実際は真逆だった。


「ならばさらにおかしい……!」


「え……?」


「俺は扉という扉を全て締め切った。玄関から通路の、果てはトイレまでもな。動かしたなら嫌でも音は発生する。なのに、一切聞こえなかった……」


「…………」


 先程から、いや、ずっと前から不思議に感じてた。ごくたまに、真乃はいきなり居間に現れることがある。どうせ色々したんだと気にしなかったのだが、この時だけはそれができなかった。もしかしたら、怒鳴っているのはそれのせい……? 違う。

 今思えば、夏休み入ってから数日後、三人が家に押しかけることがあった。その時も真乃が同様にしていたのだが、玄関が破壊されていた。いや、そうではない。


 “綺麗に外されていた”……。


「どういうことなんだ? ま……、え……」


「…………」


 俺の複雑な思考回路は一瞬にして砂と化した。

 真ん丸の中に俺がいる。微動だにしていない俺がいる。その表情は呆気に取られた真っ白だった。それがしばらく平行する。意識が白紙に描かれるように色付けられていった。

 恐怖という名の黒に……。

 優しく、妖しく微笑んだ。……俺は恐れていたんだ、きっと……。


「流さんは今までのがあって、かなり疲れていると思います。なので、ゆっくり休んで下さい……」


「…………」


 そう言われると、成すがままにされてしまった。動けない俺を介護するかのようにベッドに寝付かせる。身体的に不具合はない。無駄がなく無理をさせない。

 茶色の瞳が真っ直ぐ俺を見下ろしている。いや、俺の眼をただ見つめている。


「……ゆっくりお休み下さい……」


 まるで決められた台詞を言うように吐き捨てる。そして人差し指を立てた。


「今日は、…………ですか?」


「……? 何だって?」


 よく聞こえない。まるで自分に言い聞かせているようだった。

 焦らさ、ないで……? これ……どこかで……?


「……今日は、何日ですか?」


「……えっ……?」


 ……思い出した……? 真乃に……殺された夢……。

 入院時代、真乃と二人きりになったときのだ……。ま、まさか……!


「流さん……」


「あっ……」


 今度こそ真乃に……


殺される!






「うわぁぁぁぁあぁあぁあぁぁぁっっ!」


「きゃあっ!」


 わたしが駆け付けた時には、既に事態は最悪でした。


「? お兄ちゃんっ?」


「来るなっ! 来るなあぁぁぁぁぁぁっ!」


「まっ、待って流さぁん!」


 真乃先輩がお兄ちゃんに抱き着いて、押さえようとします。でも、


「! あぁぁぁぁっ!」


「きゃあぁぁぁぁ!」


 ベッドの角に頭をぶつけ、


「…………うっ……、…………」


 気を失ってしまいました。


「……! ……くそっ!」


 その場から逃げだそうとするお兄ちゃん。わたしは玄関へ繋がる廊下に仁王立ちしました。


「お兄ちゃん! 落ち着いてっ! 真乃先輩はお兄ちゃんを殺したりしないよっ!」


「違うっ! 俺の部屋の窓をよく見ろっ!」


「……!」


 一ヶ所穴があり、そこを中心に細かくヒビが入っていました。


「“手紙”の使者だ、おそらく! 十二時になったら、俺は連中に殺される……! 奴らは手段を選ばないはずだっ」


「け、拳銃……?」


「弾道からして、俺の頭を狙っていた。多分、殺し屋か何かだ」


「……!」


 お兄ちゃんはわたしの肩を掴みました。そして、抱きしめてくれました。


「元気でな、八菜」


「!」


 わたしの意識は、


「ずる……い、……よ……」


 ここで飛ばされたんです。






「準備完了しました」


「ご苦労様。あとは任せてちょうだい……」


「…………はい」


「…………」


「どうでしたか?」


「あの子、やっぱり使えるわぁ……。玩具にしたいわねぇ……」


「………………始めますか?」


「えぇ、フィナーレよ! 彼と私、どちらが上か……。……うふふふふふ…………」


「彼?」


「……陸奥実君のことよ」


「なぜ彼なんですか?」


「“手紙”で陸奥実君が死ぬのが先か、私が助けるのが先か! そのくらい察しなさい!」


「すみませんっ!」


「三百六十度、全員で見張ってちょうだい! 正体を暴くわよっ!」






〈もしもし、虹にぃ!〉


「……ん〜、どうした?」


〈今何してますっ!〉


「尋問中だよ」


〈よかった! 今、陸奥実君が逃走しています!〉


「! なんだって! 陸奥実君はこれを計算して……」


〈それはありません! 彼の容体は明らかに異様でした〉


「……分かった。経緯は後だ! 今すぐ捕まえる!」


〈残り五分もありません! 急いでください!〉


「分かった! すぐいっ、……!」


「! こうっ、……」


「さて、行くか。……楽しかったぞ、虹と徹……。俺は先に、香のところへ行ってるからな……」






「……んんっ……」


「ま、真乃やん! 真乃やん!」


「……っっ……」


「大事かぃ!」


「……はい、なんとか……」


「真乃せんぱいっ!」


 目を開けたそこは部屋だった。なっちゃんに抱き上げられている。そして私は思い知らされる。

 彼はここにいない。頬を撫でてくれた漆黒の髪、体を包んでくれた温かい手、苦しく鼓動する心、何もいなくなっていた。その分だけ胸が張り裂けそうになって、切なくて、苦しくて……。

 気付いてくれなかった。


「流さん……」


 さっき、なっちゃんが慌てた様子で頭をよく撫でてくれる。

 私は肩を借りてなんとか立ち上がる。ふと写真立てが目に入った。居間の隅っこにある本棚にある。それを手に取る。私たち四人が写っていた。


「あはは……。無愛想やな……」


「でも……」


 笑っている。

 きっと写真に不慣れなんだろう。唯一、一緒に撮れたモノなのだから。

 裏に留めてあるホックをずらし、中身を取り出す。それをポケットに入れる。

 時計は10と11の間くらい。間に合うだろうか……?


「……流さん」


「あっ、待って真乃やん!」


「! 真乃先輩!」


 私は飛び出した。

 走る。捜す。どこにいるかわからない彼を。ひたすらに、ひたすらに。普段そんなには気にしていない運動不足がここで際立ってきた。苦しい。しかも、焦りと不安が混じり合って心臓に負担をかける。それでも諦めるわけにはいかない。私は流さんを助けてあげたい。流さんの事が好きだから……! そして……。


「流さん……!」


「むっちゃん!」


 私となっちゃんは途中で二つに分かれた。


「置いてかないてくださいよ! お義姉ねえちゃん!」


「あはは」


 八菜ちゃん……。

 さらに駆け抜ける。一人を頭に巡らせて。周りになんか気を配っていられない。なりふり構っていられない!


「あっ、あれは……!」


 私は運命と出会えた。間違いない!

 立ち止まった瞬間にとめどなく流れ出す汗が景色を広げてくれた。証明してくれた。ここは……真ん中だ。

 彼はこちらに走ってきてくれた。


「流さん!」


「真乃! 危なあぁぁいっ!」


「……えっ……?」


 気付いたら私は大通りの歩道にいて、道路から流さんが走ってくる。でもその動きはスローモーションで、時間が止まっているくらいに遅い。その時、私はやっとどういう状況なのかを理解できた。頭の中で何かが聞こえてきた。

 私……死ぬんだ……。それを流さんが……。

 突如として聞こえる規則正しく、乱れることのない針の音。次第に体にまで満たしていった。こういう時って走馬灯みたいに思い出が駆け巡るんじゃないのかな……? ちっとも自覚がない……。



……49……50…………



 ほんのちょこっとしかズレていかなかった周りが速さを取り戻してきた。でも私は何も出来ない。金縛りにあったかのように動けない。流さんの動きを見ていなければならない。



……チッ……チッ……



 あっ……ダメです……



チッ……チッ……



 ……来てはいけません……



……チッ……チッ



 ダメっ……!



……チッ……チッ……



「流さんっ! だめえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっ!」



……チッ……



 あの手が私を突き飛ばしてくれた。その代わりにその持ち主がそこに存在する。かと思ったら……、


 鉄の箱が赤く散りながら連れていった。



チッ……



「いやあぁぁぁぁあぁぁあぁぁぁぁ!」






 私はそこにいた。

 向こうからやってくるランプは赤い一線を放ちながら鳴っている。そして遂に止まった。周りには人っ子一人いない。そこにいるのは赤く染まった私と彼らだけ。

 白の箱に赤い線を引っ張ってあるところで縦と交わる。そこから緑の服を着た連中は彼を青で包み、箱に入れた。その途中、隙間から変な方向を指差す腕が見えた。間もなく連中は乗り込んで、ゆっくりと走り去っていく。


 ゆっくりと……。


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