表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
61/83

二十四壊目「逃げる」

「…………」


 一瞬だけ男が退いたような……。しかし、そんな口だけ言ってもどうもできない。物理的に不可能に近いのだから。

 それでも自棄になって、男に向かおうとした時、あっちからずんずんやってきた。そして遂に僕の目の前に来た。あまりに違いすぎる体とボリュームさに圧倒された。やはり正攻法じゃとてもかなわない。

 ちなみにこの人、どういう顔してるんだろう? そう思っているといきなり腕を掴まれ、引きずられていく。


「何するんですか!」


「黙れ」


 もう一度睨みつける。体が固まってしまった。まさに蛇に睨まれた蛙だ。僕は殺されてしまうのにのか?

 だがなぜか部屋から抜け出してしまった。左右に伸びる白い通路。ところどころに区切りがされている。そこを右へ曲がった。


「……どこへ……?」


「……お前を逃がす」


「!」


 それは突如優しくなった気がした。


「似ている……」


「?」


「……何でもない。忘れろ」


「……」


 見た目に惑わされた(素顔はわからないが)。この人は根は優しい人に違いない。そう直感した。……声が濡れていた。

 そこからは気取られないように水を打ったように静まり返る。なかなか複雑な構造らしくまるで迷路のようだ。それに部屋数がたくさんあってなぜかトイレまである。それはどこかで見たことのある気がしてならなかった。


「…………あの……、ここって……?」






「……ん?」


「どうしたんだい? 自分は観念したから……」


「いや、違う。……ちょっと待ってろよ………………虹、様子がおかしい」


「? どういう事だ?」


「院内に誰もいないんだ。看護士はおろか患者まで……!」


「……なんだって……!」


「どうなっている……?」


「わからない。さっきまでは確かに居たんだろう?」


「あぁ。……なぜ患者までも……?」


「一人じゃ心寂しいだろう? 一緒に行くよ」


「……無理はするなよ……。本来なら縛り付けてでも安静にしてもらうところなんだが……」






「びょ、病院っ?」


「そうだ」


 とすると、僕はここに到着してから移動していないということになる。病院関係者の犯行か? 皆目見当もつかない。

 今何時だ? 虹にぃは? 陸奥実君は? ありとあらゆる疑問が一斉に広まった。その中で今解決できるのを選んだ。


「先ほどの人じゃないですよね? ……あなたは誰ですか?」


「……ほし まもる


「僕は新戸 瑠璃人です。……助けてくれてありがとうございます」


「礼には及ばない。もうついてけない、気が変わった」


「はぁ……」


 何とも曖昧な……。いい加減に下ろしてもらった。


「だが、お前はこの先の事実を受け止める自信はあるのか?」


「? どういうことですか?」


「今は知る必要はないだろう。いずれ分かることだ」


「……」


 僕に直接関わることは間違いないが……。


「……脱出するぞ」


「……」


 確かに今はそれどころじゃない。僕らは走り出した。

 それにしても気味が悪い。誰もいないなんて、まるで廃墟だ……廃墟?


「待ってください!」


「なんだ? 時間がない。見つかるぞ」


「今何時ですか?」


「……十四日十六時四十分」


 やはり一日くらい拉致されていたのか。

 しかし、入院患者すらいないなんてありえない!


「何で誰もいないんですか?」


「そんなの知るか。行くぞ」


「駄目です。……お願いします。少々付き合ってくださいっ」


 生の情報を得ないと推理しようがない。


「……わかった」


 やはり優しい人だ。第一の目的は虹にぃたちの捜索だが。

 まず様々な部屋に入る。しかし、どの部屋もまるで誰もいなかったかのようにベッドやら椅子やらは整理整頓されていた。しかもほぼ新品……。


「!」


 ある一部屋のドアのふちに何かで擦ったような跡があった。


「……何だこれは?」


「次に行きましょう」


 次は……隣の部屋に行こう。


「ここは?」


「僕が入院していた部屋です」


 ちょうど僕の部屋だった。


「……他のと同じみたいですね……」


 しかし、一つだけ違うところがあった。


「星さん、ベッドの脚元を見てください」


「……なんだこの跡は? 少し黒くなってる」


「血痕です。僕がここで虹にぃや僕の彼女を、銃で撃ち殺そうとしたことがあったんです。これは二人のいずれか、または混じった血痕なんです」


「……だから、それが何と関係してるんだ?」


 僕らは部屋を出た。引き戸なので閉まる時にドタッ、と強く閉まってしまった。少し響いた。静かに、と注意を促された。


「さっき、謎の傷跡があった病室も僕の病室も真新しいシーツやベッド、そして整理整頓されていました。あの傷跡はおそらく、ベッドを移動させたものだと思います。高さが同じでしたし。しかし、僕の病室はベッドは移動させられていません……」


「なるほど、あのベッドの脚元にあった血痕が擦れたような跡がないからか」


「はい。多分、患者のいるベッドだけ移動させたんでしょうね……」


「まぁ、確かにそうかもしれないが、病院関係者が患者たちを神隠しして、その痕跡を消したと……?」


「……仮にそうだとした場合ですが、患者を神隠ししたつもりでも、これだけの人数を移動させるのは困難でしょうね」


「分からないってことだな、結局」


「……でも、やはり意図はあるはずなんです。僕にはさっぱり分かりませんが……」


 とりあえず、これは完全に人為的なものであるのは確かだ。次は……、


「ん?」


「どうした?」


「今人影が……」


 幽霊……?






「……! あいつは…………って、お前ら……、どんだけだよ……」


「こ、これはいいとして、どうしたんですか?」


「なんでか知らんが、あっちに新戸とマッチョなオッサンがいる」


「? なんで?」


「知るかよ。でも、切羽詰まってるみたいだ」


「とおさん、彼らと合流した方がいいんじゃないでしょうか……?」


「……つーか、オレらは陸奥実に会いに来ただけだぜ? とっとと行こう」


「……そう、ですよね……」


「……」


「あいつの部屋は確かこっちだぜぃ」






「そうか? 俺には何も……」


「そうですか」


 星さんは怪訝そうだった。僕的には、誰かいてくれた方が心強い。

 でもまさか、ここに監禁されているとは思いもしなかった。陸奥実君は病院の一室を持つ廃墟だったが、僕は全くの逆だった。となると、ここに虹にぃと徹さんもいるはず……と思って捜しているのだが、なかなか見つからない。いち早く察知して、抜け出したのだろうか?


「とりあえずここは危険だ。早く出るんだ。出口はすぐそこにある」


 星さんはその出口の方へ向かおうとした。僕は慌てて服を引っ張る。


「虹にぃを黙って見過ごせません……! 怪我をしてるんですから……」


「……そうか」


 素晴らしき兄弟愛だな、と呟いたのが聞こえた。

 虹にぃを捜すのに相当の時間を食っている。もう仕方ない。携帯を使ってしまおう。僕はポケットから携帯を取り出し、電話帳からかける。


「……」


「……見つかるといいな」


「……僕は見つけたくないです」


「? なぜだ?」


「ここで出会ってしまったら、僕らと同じ状況下じゃないですか。だから僕は既に徹さんと一緒に帰宅してることを望みますね」


「……なるほど」


 しかし、予想通りになかなか繋がらない。ちょっと考えてみる。

 虹にぃは常に携帯の電源は入れてるし持っている。でも今回は場所が場所なだけに、さすがに入れてなかった。隣にはおそらく徹さんがいるから、というのが利いている。それは逆に一つのことを示していることになる。


「星さん、虹にぃたちは残念ながら、中にいるようです」


「そうか。ここはあまりに広すぎるからすれ違いになることが多いだろう」


「では、来る可能性が高いところを先回りして待ちましょう。途中で会ってくれればいいのですが」


 星さんは反抗することなく了解してくれた。僕らはそのまま真っ直ぐ歩いていった。






「ねぇ、君……」


「動くな! お前ら!」


「え?」


パァァンッ!


「うわぁっ!」


「なんですか!」


「チャカ持っとるで!」


「徹! 今すぐ下ろせ! 彼らは一般市民だぞ!」


「……! すまん」


「ねぇ? ここに来る途中、陸奥実君か新戸 瑠璃人を見かけなかった?」


「いや……、あっ! 新戸なら初っ端見かけたぜぃ」


「何? 瑠璃人はここにいるのかい!」


「せやけど、マッチョなおっちゃんも居たらしいさかい」


「? わかった、ありがとう。君たちはすぐにここから離れなさい。自分たちは……」


「待って下さい!」


「?」


「流さんは、どうしていないんですか……? どこにいっちゃったんですか……?」


「……そうだぜおっさん! 陸奥実はどこいっちまったんだ!」


「……お、おっさん……」


「……虹」


「………………わかった。言おう」


「こ、虹!」


「陸奥実 流は今、殺人未遂で逃走中だ。自分が殺されそうになった」


「!」


「……」


「……とにかく時間がない! 頼みがある!」


「な、なんですか?」


「彼を捜し出してくれ! 被害が増える前に!」


「……はい」


「わ、分かったぜぃ……」


「任しときぃ」



……



「……虹」


「わかっているよ。瑠璃人を呼び出したら、二人とも署に送る。それから捜索に……」


「そうじゃなくて……」


「?」


「お前はもうリタイアしろ。出血しすぎて脈拍もおかしいし、唇もどどめ色だ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ