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十八壊目「表す」

「あんたたち、誰っ?」


「!」


「どうしてうちが開いてるのっ……?」


「い、いかんっ!」


「助けてえぇっ! 変な人に襲われるっ!」


「こうなったら、やるぞっ!」


「ちっ!」


「助けてえぇぇぇっ!」


「どうしたんじゃっ?」


「源ちゃん!」


「なにしとんじゃい! 貴様ら!」


「ちいぃっ!」


「逃げるぞ!」


「くそ!」



……



「大丈夫か、八菜ちゃん!」


「源ちゃん、ありがとう……怖かった……」


「今、警察呼んだから安心しなさい。それにしても……やつらは誰じゃい?」


「それはわたしが聞きたいよ。うちん家の鍵が開けられてたの。強盗だよ、たぶんっ!」


「むぅ、何と卑劣なっ……! しかも大人数の男が女を襲うなど、男の風上もおけん腰抜けじゃいっ!」


「……なんかカッコイイね、源ちゃん!」


「わしも昔はぎゃふんと言わせてたクチじゃい」






「瑠璃人君、大丈夫?」


「大丈夫ですよ。マスクなんて徹さんも大袈裟ん……ごふ、ぅふっ!」


「瑠璃兄ちゃん……つらそう」


 処方箋の中になぜかマスクが入っていた。徹さんの計らいだと思うけど、それが不幸を呼んだか、本格的な風邪になってしまった。喉も痛いし頭痛が酷い。薬のおかげでまだ楽なのが幸いしている。

 僕は栗原さん家にある僕の部屋で寝込むこととなった。


「ほらみぃちゃん、出ようね」


「でも瑠璃兄ちゃんが……」


「稔ちゃんに風邪を移してはいけませっ、んふっごふ、から……」


「ごめんね、瑠璃兄ちゃん」


 涙目になって心配してくれた。……癒されるなぁ……。

 額に熱さまシートを貼ってもらって、部屋から出ていった。


「……はぁ……」


 今日が日曜日で良かった。月曜日だったらさらに学校を休むことになる。二学期早々、さすがに休みすぎた……。ちなみに今日は八日で、既に十時を回っている。

 昨日は虹にぃが帰ってきてくれた。というより、栗橋さん家に来てくれた。これからは一緒にいる時間が圧倒的に少なくなる。だからその時間を少しでも増やしたいし大切にしたい、そう何気なく口にした。僕は涙腺が緩みそうになった。

 いきなり、ノックがした。目の辺りを急いで拭く。


「はい」


「瑠璃人くん、ちょっとお邪魔するよ」


 おばさんは洗濯カゴを手に持っていた。そしてバルコニーへむかっていった。

 結局、陸奥実君から連絡が来ない。メールしても返信してくれないし、電話も出てくれない。連絡するほどのことでもない、ということか。


「瑠璃人くんは気丈よね」


「え?」


 見えないところから、僕に話し掛ける。しかし、


「……茜、さん……?」


 話を続けなかった。独り言?


「……いいよ、入りなさい」


 誰に言っているんだろう? 外に話しかけているのか? しかし、おばさんの口調はいつもより低く真面目な感じがした。徹さんだろうか? 僕が調子崩した時はよく来てくれる……。

 ところが、ドアノブが音を立ててゆっくり回った。


「……!」


 入って来た人は……、


「瑠璃……ちゃん……」


 れいかさんっ?

 僕は思わず跳びはねた。そしておそるおそる彼女と向かい合った。


「どうしたんですか! その包帯……ガーゼ……怪我がひどい……!」


 その姿にまず驚いた。頭と左腕には包帯、右目に眼帯、左頬にガーゼが施されていた。

 目が虚ろで生気が薄い。その目から、


「瑠璃ちゃん……」


 大粒の涙を流して、僕に泣き付いてきた。


「うわあぁぁぁぁぁん、あぁぁっ、うあぁぁぁあぁぁああぁぁぁんっ!」


「な、何があったんですかっ! ……うっ……!」


 僕も体調不良だし、何より“あれ”が治まらない。背筋を悪寒が駆け上がる。拍動が早いくせに冷や汗だった。でも我慢だ。


「……瑠璃人君。礼香ちゃんは襲われたのよ」


 おばさんがゆっくりとれいかさんを引きはがしてくれた。おばさんに頭をうずめて、嗚咽おえつを零している。

 僕は少し治まった。


「誰にですか!」


「……」


 僕から背ける。それよりなぜ知っている?


「礼香さんから話を聞いてるみたいですが、誰なんですかっ! 教えてくださいよっ!」


「五人の男に襲われた……」


「五人……? 見覚えある人たちなんですか?」


「全くもって初対面らしいよ……。しかも銃声のような音も聞こえたって……。礼香ちゃんは被弾してなかったけど」


 “手紙”の暴徒か? ただの荒くれ者? ヤクザだろうが警察だろうが、どれにしても逮捕や誘拐じゃない。明らかに暗殺だ。もはや、ただの一般人がれいかさんを狙うとは考えられない! ……事情を知っている者の犯行だ。


「れいかさん、僕にまだ話していることはないですか! あるなら話してください!」


「瑠璃人くん、今はそっとしときましょ? ……礼香ちゃん、すごく怯えてる」


「……」


 茜さんの腕の中、まるでずり落ちないようにしがみつく赤ん坊のように、うずくまっていた。そして震えていた。

 複数の男が一人の女を襲うなんて……腐ってるっ……! 人間としてどうかしているっ!


下衆げすが……!」


 絶対に許さない。たとえ“手紙”で死の宣告を受けようとも、束になって他人を殺そうなんてありえないっ!


「瑠璃人……くん?」


 ましてやそれが警察だとしたら、なおさらだ!

 そんな連中は消えればいい、消えた方がいいんだ。“手紙”を持っている連中はその危険があるんだ。

 僕が……、


「大丈夫? 変よ、瑠璃人くんっ?」


 僕がころ、


「! ん」


 れ、れいかさんっ?


「ん……はぁっ……」


 無意識にふるふると震える。


「落ちついたね」


「……」


「私も瑠璃ちゃんも、ぶるぶるしてる」


 深く抱き寄せられて、温かいのを感じる。

 一瞬、無数の小さな虫が這い上がって来るような悪寒が走る。それをなだめるように、背中を撫でてくれた。

 大丈夫なんだ、大丈夫、れいかさんはもう傷付けたりしない……。


「瑠璃ちゃん……ありがと」


「……え?」


 耳に熱のこもった息を感じる……。


「瑠璃ちゃんと会えて、好きになれてよかったよ」


「なっ何でこんな時に、変なこと言うんですか」


「瑠璃ちゃんじゃなかったら多分……私、ダメだったと思う」


「れいかさん?」


 僕の話を聞いてくれない。でも、このくだりは嫌だ……、止めたい、止めさせたいんだ……!


「それ以上言わな、」


「奈多弓 棗が“手紙”の創始者かもしれない」


「!」


 奈多弓さんがっ?


「その口封じに私を殺そうとしたんだと思う。だから私ね、新戸刑事に話をしてから、棗ちゃんの正体を暴いていくことにしたの」


 なっ……!


「馬鹿なこと言わないでくださいっ!」


 僕はぐっと引き離した。


「警察は“所有者”の行動に敏感になってますっ。れいかさんが行動を起こしたら、間違いなく刺激してしまうんです! 下手すれば……警察内部にいる“所有者”に暗殺されかねません!」


「だから……自首するよ」


「!」


 れいかさんの頬に一筋の汗が伝う。素早く落ちていった。


「前、瑠璃ちゃんは“償わせない”って言ってくれたよね? 嬉しかった、すごく……。でもね、きちんと償いたいの。私は瑠璃ちゃんを殺人未遂して、捜査を撹乱した立派な犯罪者……だからね。それに、自首すれば瑠璃ちゃんのお兄さんが受けもってくれるはず。話を聞いてくれるとしたら、それしかないよ。刑事さんは瑠璃ちゃんと別居するくらい、今忙しいんだもんね……?」


「!」


 僕を見上げるその表情は濡れていた。僕の肩を掴んでいる手も強い。絶対に離さないくらい……。


「私の命もきっとそう長くない気がする……。だから瑠璃ちゃんに、私たちみたいに苦しんでる人たちを救ってほしいの!」


「……」


 涙を浮かべながらも、眼光が衰えることがない。


「……」


 決意が異常に固かった。

 何て言えばいいんだろう、こんな時……。


「瑠璃ちゃん?」


「れいかさん、正直に言います」


「……うん」


 真っすぐ、僕の目を見てくれていた。


「僕はれいかさんを殺させやしない」


「!」


「大切な人を失うような選択は僕にはできない」


「瑠璃ちゃん……」


「僕はれいかさんを信じています。だから僕を……信じてください」


「……うん」






「もし、家族の誰かが亡くなったらどうしますか?」


「うーん、そうだね……。私は一人亡くした時は頭おかしくなっちゃったからなぁ……。たぶん、廃人になっちゃうね」


「茜さんはどうですか?」


「……その原因によるかな。誰かがみぃちゃんを手に掛けたら、絶対復讐しに行くと思う」


「……そう、ですか」


「誰のことかな?」


「……」


「虹くんのこと?」


「僕、死んでないですけど」


「仮定の話だったんでしょ? それとも、周りにいるのかしら?」


「けっこういると思いますよ。僕もある意味当てはまりますし」


「陽もそうねえ」


「瑠璃ちゃん、ほら、あの子もそうじゃない?」


「? あの子?」


「えっと、……瑠璃ちゃんの親友くん」


「え? 知ってるんですか?」


「ほら、彼が長い間入院してた時あったでしょ? お見舞いは八菜ちゃんと雛、瑠璃ちゃんとかのクラスメートしか来なかったし、お会計とかも自分でやってたからね。あんな大怪我して家族がお見舞いに来ないのおかしいから。私の時ですら、お見舞いしてくれたし……」


「へぇ〜、どんな子?」


「背は瑠璃ちゃんくらいで、女の子っぽい顔と声、痩せ型で優しそうな感じ」


「もしかして、みぃちゃんを連れてきてくれた子かしら……。ちょうど瑠璃ちゃんが入院してたくらいに……」


「とにかく、絶対秘密にしてくださいね。いかなる理由においてもです」


「う、うん」


「じゃあ、私はお昼作ろうかしらね」


「あ、私も、」


「瑠璃人くんといちゃついてなさいな。私を食べる? みたいな感じで」


「私が食べちゃおっかな」


「僕は寝ます」


「それじゃ、私も〜」


「うわぁぁっ!」


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