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十壊目「流れる」

 二十六日。結局行かないことを決意した。いや、正確には行けなかった。徹さんの話が信じられなくて、完全に動揺している。今までの出来事を清算するには、あまりにも呆気ない。正直に言えば腹立たしい。……そんなことなら、悲劇が生まれる前に真実を知りたかった。

 話を戻そう。

 本人もまさか、殺害されるとは夢にも思っていなかったらしい。ズボンに入っていた携帯電話が、それを証明してくれた。中には着信履歴とメール、スケジュール、メモ帳と、ありとあらゆる機能が使い込まれていた。内容は計画について。……そう。N事件の全貌かと思うくらいに、綿密な計画が残されていた。もちろん、これは本人たちにしか知りえないこと。つまり、犯人は……和美さんだったのだ。

 その計画の中には岡本先生のことも含まれていた。一体何のために? この答はその携帯電話には隠されていなかった。しかし、犯人グループのメンバーと思われる者と連絡していたのは確かで、既に何人かは重要参考人として事情を伺っているようだ。

 N事件は完全決着までのカウントダウンを開始した。僕の役目はこれで終わりだ。あとは……夏休みを過ごすだけ。虹にぃに変な心配をかけないだけだ。

 二十七日。病院生活のせいか身体がなまっていた。徹さんに相談したら、僕の精神状態はすごく安定しているらしい。学校生活への移行に向けて、明日から自宅療養を勧めてくれた。もちろん僕はそれを受け入れるつもり。でも、時間的な問題もあり、二十九日に退院を決めてくれた。

 ちなみに徹さんから聞いたことだが、れいかさんの家族旅行もこれに準じたものらしい。つまり、れいかさんも退院したのだ。

 二十八日。ついに虹にぃが岡本先生の家に行った。僕は行かなかったにしても、もっと重大なヒントを掴んでくるに違いない。この日は虹にぃに会うことはなかった。だが、


「新戸先輩……」


 八菜さんがお見舞いに来てくれた。


「退院、決まったんでしょ?」


「はい。相変わらず早いですね。退院祝いですか?」


「はんっ。誰があんたの祝いなんて……。でも、まぁ……退院できておめでとう」


 視線を逸らして言った。本当に素直じゃない人だ。


「ありがとうです」


「わ、私はあんたの退院なんかどうでもいいんだからっ!」


 分かりやすい……。


「それより、お兄ちゃんの……見たの?」


「……!」


 いきなり陸奥実君の話題か。と言うより、そちらが本題か。


「えぇ。見ましたよ」


「っ!」


 眉を曇らせる。そして、


「!」


 頬を叩かれた。


「ばかぁっ!」


 く、首の骨が折れるかと思うくらいに思いっ切りはたかれて、一瞬意識が遠退いた……いたたっ。しかも声を張り上げるし……。


「空気読みなさいよ! ……あの時のお兄ちゃんは……とっても辛かったんだから」


 分かってる。陸奥実君もそうほのめかしていた。


「でも、痛いですよ……」


「お兄ちゃんはもっと痛かったの」


「? 何かあったみたいですね」


「うん」


 しょんぼりとしながら、その日の出来事を話してくれた。


「……なるほど。遺族の方々が、陸奥実君に迫ったんですね。それは確かに応えます」


「あの日の夜、お兄ちゃんは情緒不安定になって、わたしに殺してって言ってきたのよ」


「! 危険じゃないですか!」


「今は大丈夫。でも悪夢にうなされてることが多くなった。心の負荷が半端じゃないっ。今すぐ誰かに相談した方がいいって言ってるんだけど拒否するの……」


「……」


 確かに、あの忌ま忌ましい事故は陸奥実君を苦しめる。今回の事件でそれを思い出して、精神的におかしくなることだってあるだろう。だからこそ無理をしちゃいけないことを一番知っているはず。なのになぜ、そこで意地を張る? 心配をかけないためか?


「もしかして、岡本 和美が亡くなったことと関係が……?」


「! あの人、亡くなったのっ?」


「……そうでした。まだ知りませんでしたね。二十五日に亡くなったんです」


「……そう。でも、お兄ちゃんは知らないよ。だから教えないで。自分のせいで、って勘違いしちゃうから……」


「分かりました」


 二人はシロか。


「ところで八菜さん、教えてくれませんか?」


「何を?」


 一呼吸入れる。


「……二年前の交通事故は、あなた方が仕組んだものじゃないですか?」


「は、はぁっ? あんた、何言ってんのよ?」


「八菜が以前、教えてくれましたよね。八菜さんのご両親は陸奥実君を引き取るのを躊躇った、けど、遺産目当てに引き取った、と」


「それとなんか関係あんの?」


「僕の考えでは、それは第二のシナリオなんですよ」


「ど、どういうこと?」


「つまり、本当は陸奥実君もろとも、家族全員を事故死にするつもりだった、ということです」


「!」


「多分、ただの遺産目当てではないと思いますが、何らかの理由で陸奥実家殺害を試みたんです。ところが一人だけ生き残りました。陸奥実君です。しかし陸奥実君は事故の真相を知っている可能性が高かったんです。そこで急遽取った策が、交通事故の死亡者を“五人”にし、陸奥実君を養子に迎えることでした。こうすることで陸奥実君を監視できると見込んだのです」


「そんなの、違うっ! 絶対違う!」


「じゃあ、真実を教えてくださいよ。あなたは知っているはずです」


「知らないっ! 知らないけど、お父さんやお母さんもみんな、そんな酷いことはしないっ!」


「……」


「そんなに疑うなら、うちに来てよっ! 徹底的に調べていいよっ! わたしはお兄ちゃんもお父さんもお母さんも信じてるっ!」


「……分かりました。後日、遊びに行きます」


「ふんっ」


 八菜さんは荒々しく出て行った。

 と思いきや、


「ふぎゃっ!」


 出た瞬間に何かにぶつかって尻餅ついた。


「あら、ごめんなさい」


「み、美浦さん……」


 ちょっちょうど当たったところが……。


「いった〜、てか、やわっか」


 ……いや、僕は何も考えてません。何も考えてません。とりあえず落ち着こう、うん。取り乱してはいけない。そういうトラブルもたまにある。別になんとも思ってない。……うん。


「うげっ、巨乳美人外国人ナース! まるで男の欲望をそのまま具現化したかのような悩殺ボディ!」


「あらあら、あなた女の子もイケるのかしら?」


「わ、わたしはお兄ちゃん一筋だし」


「まあ。じゃあ、きんし、」


「わわわわわわわっ、ダメですよっ!」


 二人して、ものすごく危ない話してるよ……。


「あら瑠璃人くん、そこにいたの?」


「いや、いたも何も、ここ僕の部屋ですけど」


「うわーマジコイツキモ。鼻血出してるし」


「出てないです。しかも気持ち悪いのは八菜さんでしょう? 前橋君みたいなセリフでしたし」


「やめてくんない? あのピーー(放送自粛)と一緒にされるとか人生終わるから」


「大丈夫。もとよりあってないような人生でしょ? ほら、あっちにお菓子とジュース置いてあるから食べてきなさい」


「わーいわーい……ってのるかあぁぁぁっ!」


「じゃあ僕はいただきます」


「あんたは食べるんかいっ!」


「……それで美浦さん、どうしましたか?」


 そろそろ真面目になろう。美浦さんがノってくれたのは意外だったけど。


「定期検診ですか?」


「八菜ちゃんもいることだし、二人に大切な話があるわ」


「わたし、帰りたいんだけど」


「そう? あなたのお兄さんに関わる話だけど……」


「!」


 陸奥実君の話? ということは、美浦さんは陸奥実君と接触したことがあるはず。でも、何のために……?


「お兄ちゃんに何か酷いことしたら、絶対許さない」


 さっきまでふざけあっていたのに、まるで敵のように睨みつける。陸奥実君に関してなら、人間関係も気にしない、か。


「最近、何か異変はないかしら?」


「異変、ですか? 僕が会ったのは一週間ほど前ですけど、特には……」


 岡本先生の事件を気にしていたが、あれは彼にしてみれば当然のこと。“彼”にもなっていなかった。もっとも、“彼”について話しはしないが。

 この質問はむしろ八菜さん向けだ。


「……わたしも特には」


「!」


 先ほどの八菜さんの話をなぜ話さない? ……それも“彼”だったからか?


「そう。あなたも大変ね」


 僕に視線を送っていた。


「? どういう意味ですか?」


「N事件も解決したのに、もう一つの事件の真実を追及しようとしてる。正直に言うわ。あれは私たち一般人が関わってはいけない事件なのよ。八菜ちゃん、あなたが一番知っているはず」


「……」


 八菜さんが知っている……?


「だからこっちに来たんじゃなくて?」


「え?」


「! 美浦! それ以上言ったらあんたを殺す!」


 小さい身体で美浦さんに迫る。しかし、迫力は僕を尻込みさせるぐらいあった。本気でキレていた。


「ふっ……ふっ……」


 怒りにうち震えて、息が震えている。

 美浦さんはひらりと掌を返して、


「ごめんなさい。口が過ぎたわ」


 立ち去っていった。

 取り残される僕と八菜さん。でも、彼女はドアをずっと睨んでいた。……まだ治まらないみたいだ。声をかけづらい。

 それでも僕は、


「何も聞きません」


 呟いた。


「……え?」


 小さく驚いて僕を見る。


「だから、落ち着きましょう? 遊びに行った時にお話を伺いますよ」


「……あり……がと」


 呆然と僕を眺めていた。






「なあ、虹。N事件は本当に解決したのか?」


「もう犯人グループのメンバーも特定できた。膨大な人数だけど、各県に要請して、もう袋の鼠状態さ。……夏休み中でキメると決意したけど、まさかの結末だった」


「……あのケータイ、岡本 和美を殺害した犯人が仕組んだものじゃないのか? 調べたのか?」


「それはない。今日入念に調べたけど、ダミーはなかったし、家族にも確認してもらった。間違いなく本物だ」


「本体はダミーじゃないだけど、中のメモリーカードがダミーの可能性があるだろ?」


「それも確認済みだよ。あのケータイは電池の奥に差し込むタイプだが、カバーを外しても電池を落とさないためのシールがある。それを剥がした形跡はない。つまりそこには誰も手をつけていなかった。それに本人以外の指紋はなかった。拭き取られてもいなかったし」


「なるほど。そこまでやれば問題ないか」


「問題は……記録の内容だ」


「何があったんだ?」


「N事件の綿密で信憑性の高い計画だ。どうやら死人は岡本 雅俊のみにするみたいだったが、どうやら裏切りにあったようだな」


「そうか」


「ただ、変な単語が気になったよ」


「? 変な単語? 何だよそれ?」


「あぁ、確か……“手紙”……。けっこう目についてな」


「今時ケータイの時代なのに、ずいぶんと慎重なやつだな」


「でも、そんな彼はケータイを駆使していた。……となると何かの暗号かもしれない」


「“手紙”ねぇ……」


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