零壊目「壊す」
運命は幸運を招き、不幸を誘い、奇妙を愛するもの。不思議な縁を繋ぎ、時には断つ。だからといって、誰かが決め付けたわけじゃない。でも気付いた時にはどうすることもできない。それを避けるのは、後悔しないようにするのはすごく難しい。これから起こることは誰にも想像できない。シナリオは運命の気分次第。……なかなか面白そうね。それじゃあ、見せてみようかしら。そしてできれば見届けてあげて。この結末は本当に惨劇で終わるのか、それとも別の何かで終わるのか……。
やがて遠くの空から風に乗って、薄い靄のような雲がやって来た。そして青かったのに、その青みを薄く伸ばしていく。どことなく切なかった。
ほっ、と息を吐くと、僕の目の前にも靄がかかる。奥にいる東條さんが薄く見えた。
「でも……宴会の前に、したいことがあるのです」
「何ですか?」
その消えゆく靄に突っ込むようにして、彼女に歩み寄る。
「陸奥実 八菜さんはどちらにいらっしゃいますか?」
きりっと彼女の瞳を直視する。彼女はそれから逸らした。
「……それは、」
「知ってるんですよ? あなたが彼女を匿っているんでしょう?」
「したいことって、……引っ捕らえることですかっ!」
耳がキリキリ痛むほどの怒声。
「引っ捕らえるのではありません。重要参考人として、彼女を連れて来るように、」
「そんなのウソ! そうやって、殺す気なんでしょっ!」
顔をしかめて言い放つ。
「ちっ、違います。忽然と姿を消したら、誰でも疑います。風の噂であなたのところに家族と違う女性がいると聞いたんです」
「もういいです!」
彼女は踵を返す。
「もう、帰ります……」
怒らせてしまったのに無理はない。ほんの少しでも疑っていることで、失望させてしまった。それでも僕は柔らかく表現できなかった。したくなかった。彼女は陸奥実君が好きだったから、真実を知りたいのは他でもない彼女だから。
彼女の背中は小さくなり、墓地の近くに置いてあった車に乗り込む。そこからとろとろと走り去っていった。
「ふう……はぁ……」
また僕の前に人造の靄がかかる。立ち上ってはすぐに消えていく。
「兄さん、僕はどうしたらいいの……?」
僕はいつの間にか青さを失った空を眺めた。




