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二十四悔目「裏方」

「むつみぃぃ!」


「な、何?」


「きさまあぁぁぁっ! なんてことをしてくれたんだぁっ!」


「いや、だって……」


「だっても何もあるかぁっ!」


 今日は9日。腹の調子も良くなってきた。立てないくらいの激痛だったのに、今では痛みが引き、何とか立ち上がれるほどになった。人間の回復力につくづく神秘を感じる。そして、俺を助けてくれたいろんな人たちに感謝の言葉を贈りたい。

 真ん中の小さな丸テーブルを囲んで、真乃たちは丸椅子に座り、俺はベッドに腰掛ける。そのベッドの傍らに、お見舞いの品が置かれていた。特に目立つのは、前日にスーパーの特売で買ってきてくれた2リットルのペットボトル“水”だ。

 病室の中はというと、外とは天と地の差ほどに違う。外は太陽が照り付ける灼熱地獄、中は適温より少し高めの温度だ。これは最近、エコを心掛けてきているからだという。それでも全く問題ない。むしろ賞賛したい。

 ところで、今は何をしているかというと、


「だってババ抜きなんだから、仕方ないだろうっ!」


 先ほどの位置で、ババ抜きをしていた。


「はい、とおやん12連敗で……記録更新! 陸上よりむずいのに、さすがやな!」


「どうすればババ抜きで連敗するのか教えてほしいですねっ」


 とりあえず、切り直して配った。

 午前から真乃たちが押し寄せてきた。ずっとトランプやUNOをしっぱなし。この前も来たけど、飽きないのか?

 ちなみに、この方々は本当にエコとは掛け離れている。冷房の設定温度を19度にしようとするし、“水”があるのに新たに飲み物を買ってくるし、地球に厳しい方々だ。


「違うぜぃ! この部屋があちぃからだ!」


「確かにそれはあんねんけど、人のせいにしたらあかん」


「何だ? 遠回しに俺のせいだって言いたいのか、とおちゃん?」


「流さんもカッカしないで水飲みましょうよ」


「ちょっと待て。それは俺のだ! しかも人の頭にぶっかけようとしない!」


「頭を冷やそうと……」


「自分の頭を心配しろ……。それとも、適温で頭がやられるほど脆い頭なのか、皆様方?」


「脆くはない。けど熱に弱い」


「……」


 ツッコミが面倒臭くなってきた。


「わかったぜぃ。ババ抜きじゃなくて、ジジ抜きにしようぜぃ……」


「? ジジ抜き? 何だそれ?」


 初めて聞く。


「ギャグにしては低レベルやな」


「うがっ! 知らねぇのかよっ? 世界的トランプゲームだぜぃ?」


 本当か……?


「私知ってます。ただ、ババをジョーカではなく、ランダムに選ぶんです。それ以外は変わりません」


「なんや、そんだけのことかぃ! 威張んやっ!」


「まったく、無知は困るなぁ。あっはっはっはっは」


 そのナメきった顔に光の速さの拳が飛んできたのは言うまでもない。


「速度は重さ。光の速度で殴られたことはあるかい…………ぐふっ」


「それ、ワイのセリフ! しかもネタパクんなやっ!」


「どうもすみませんでしたっ(怒−心=?)」


「だからネタパクんなっちゅうのっ! しかも変な感情表すなやっ! “奴”ってどういうことやねん! まさかあの芸人のことかぁ?」


「怒りで心を失った奴は必ず負けるのさ」


「それは正しくとおやんやないかぃっ! 全然うまくないから!」


「ぐべっ」


「あははは」


「…………」


 本当に面白い……。だから好きなんだ。このふざけてる時間が……。

 笑っている俺を真乃が見ていた。顔が赤い……?


「ん? 真乃、どうしたんだ? クーラーにやられて夏風邪でもひいたか?」


「あっいえ! 何でもないです、なはは……」


 こいつもたまに変なところがあったりする。


「よし、ジジはこの箱の中に入ってるぜぃ」


 トランプの入っている箱にダイヤのエースが入っていた。って、


「ジジが見えてるんだけど……、そういうゲームなのか?」


「…………………………あたぼうよ」


「何だよ、そのわざとらしい無駄な間は? 絶対嘘だろう?」


「こういうのも案外楽しくないか? 最初から分かってるってーのも」


「確かにそうやな」


「自分が持ってても、ペアが組まれてなければ捨てられる可能性がありますからね」


「だろー? それじゃーやるぜぃ」


 今一しっくりこないな……。






「……あぁ、いや、またな!」


「おぅ! ……ったく、相変わらずだったな、あいつ」


「あと何日かで退院らしいで? 退院祝いに何かしたげたいねんな」


「そうですね。……花束とか?」


「ありがちすぎてちゅまらん」


「何で……“ちゅ”なんや? ってそんなんどうでもえぇな。そんなら、とおやんは何か考えとんの?」


「よくぞ聞いてくれた! ほら、花火大会近いだろ? だから、」


「むっちゃんを打ち上げるっちゅうことかっ!」


「ダメですよっ。流さんじゃ筒に入りません!」


「そういう問題じゃないだろっ。なに打ち上げようとしてんだ! オレが言いてぇのは、花火大会恒例の大食い大会に、あいつを参加させることだぜぃ」


「それはいいですねっ」


「どうせなら、スケールアップしようやないか。チャンピオンの……、あ、こんばんは」


「ん? おぉ……こんちゃーっス」


「……」


「こんばんは。もう遅いんだから、早く帰りなさいよ?」


「ホンマ、すんません」


「……それじゃあ……」


「……な、なんちゅうグラマーな……! ぼんきゅっぼんじゃんっ」


「確かに……すごいですね……」


「せやけど、まのやんなら……」


「……っちゃん……もう……」


「しかたな…………なはは…………」


「……彼らは確か……」






「私の携帯の番号とメールアドレスよ」


「いいんですか?」


 ……似ている。


「構わないわ。あと、あなたのはあとでいいから……」


 その顔、髪、性格……。


「今日はありがとね」


 目の前にいる男の子は陸奥実 流君。偶然にも私が襲った男の子……。


「いえ、こちらこそ。ありがとうございました」


 ……似ている。

 私は持ってきた飲み物とトレーを手に持って、軽く会釈をして出た。


「……」


 ドアの脇に楠波がいた。私を待っていたようで、盗み聞きはしていないみたいだ。それでも楠波は何とも言えない表情だった。

 私は歩き出した。


「どうでした? 私の言う通りでしたよね?」


「……そうね」


そう君そっくりですよね。びっくりしましたよ」


「……止めようかしら」


「え?」


 立ち止まった。


「似過ぎてるの。声から目つき、髪の毛も……」


「……」


「私にはできない。彼を殺すなんて……」


「じゃあ陽先輩は死ぬつもりですか?」


「……それは……」


「他にないチャンスですよっ? せっかく信用も得て仕込みもしたのに、大きい魚を逃すつもりですか? これ以上はないと思いますっ!」


 もしかしたら生きているかもしれない、という希望を持っていた。浅はかだけど……。でも、年齢も生年月日も違う。私は夢を見ていたに違いない。それでも似過ぎていた。身体的には全て。生き写し……信じてなかったけど、実際にあったんだ……。

 話しているみたいだった。そのうちに思い出が蘇ってきて、年甲斐になく泣いてしまった。許してくれて、励ましてくれて……。本当に彼がそう言ってくれているかのようで……。


「それに、彼は颯君じゃありません。陸奥実 流なんですよ?」


「……」


 わかってる。そんなことはわかってる。けれど、それでもあの子を手に掛けるなんて……できない……。


「私、知ってるんですよ……? あれが本物だって……。私の学生時代のクラスメートもそれで亡くなったんですから。あまり話はしなかったですけどね」


「……そうなの……」


「私は先輩に死んでほしくありません……! たとえ、どんな犠牲があっても……」


「……楠波……」


「先輩がいなくなったら……私……私……!」


 強く抱き着いてきた。涙をいっぱい流し、私の胸に顔をうずめる。それを優しく撫でてあげた。


「……大丈夫。私は死なないから……」


「……」


「あの子の仇は絶対に……討つ」


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